駆け落ち

「町って思ったより騒がしいのね」

 ここは城から離れている町の中心部。夜のうちに城下町を出て、二人はここまでやって来たのだ。

 町の規模は大きいものの、王家に関係のあるものは何一つない町。そのため王女にとっては初めて訪れる庶民の町である。

 フードを目深に被った王女は、馬上から周囲の喧騒を眺めている。

 見るもの全てが新鮮に映った。

 馬車の窓越しに眺めるだけの景色が、今、自ら歩ける場所になったのだから。

「でも食べ物はどれを食べても美味しくないわね」

 屋台で買った串焼きを頬張りながら微妙な顔。王女の舌は肥えていた。王宮料理人の面目躍如である。

「ベッドも硬い」

 休憩に入った宿で、板に引かれた毛布に怪訝な視線を向ける王女。

 女騎士は王女が退屈せぬよう周辺の観光名所へと連れ出したりもした。けれど庶民の観光名所は王女にとってそれっぽく作ってあるだけのつまらないものにしか思えない。

 そして王女はついに気づいてしまった。

「ねえ。私、気づいたの」

「どういたしましたか」

「この生活、全然楽しくない。食べ物は美味しくないし、ベッドは硬いし、何でも埃っぽいし、水は底に砂が混じってるし」

 気づいてしまったのだ。

「もしかして私、選択を間違ってしまったんじゃないかしら」


 今更であった。


 しかし女騎士は心得たものである。

「では今夜にも城へ戻りましょう。なに、お忍びで視察を行なっていたのだと誤魔化しておきましょう」

 女騎士は二人での逃避行があまりにも早く終わりそうなので内心ではあの決意は何だったのかと思ったが、そんなことを顔に出すわけにもいかない。

 王女は一刻も早く戻りたいようだ。だが街道に沿って戻れば来た時と同じ時間がかかる。女騎士は少し考えた末、直線で突っ切れば近道となる風の丘を越えていくことにする。



 空から竜がやって来たのは風の丘でのことだった。

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