「人形の祠」に纏わる怪談と、ミステリー

世襲騎士ベイル・マーカスは、辺境の都市トリアナンへ左遷された。
その地で彼は「人形の祠」に関する怪談の蒐集を始める。

……というファンタジー+怪談というあまり見ない組み合わせの本作。
「怪談なんて怖そうだし……」という方にもオススメである。

何しろファンタジーなので、いわゆる魔物・モンスター的なゴーストと
幽霊の違いをきちんと設定して説明しているところもポイントが高い。

若干、ファンタジーに置き換えただけでは……と感じるところも無いでは無いが、
(おかげで最初は主人公の正気を疑った)
著者によると「若者の怪談離れを防ぐため」らしいので、
こういう世界観だと理解してしまえば問題はない。

……と、偉そうに並べたところで、
語られる舞台はきっちりラノベ系ファンタジーなのである。凄い。

そうかといって蒐集される怪談に毒気が無いかというとそうでもない。
蒐集家としてのベイルの能力はかなりレベルが高いと言えよう。

更に、ただの怪談蒐集やファンタジー風にしてみたというだけにとどまらず、
語り部を含む登場人物を巻きこみ、一つの結末に収束していく構成も見事である。
これは「人形の祠」の謎を紐解くミステリーでもあるのだ。

他のかたのレビューで「ファンタジー界の京極夏彦」と称されているが、一理ある。
「名探偵 みなを集めて さてと言」う代わりに、
この都市、ひいては読者に憑いた「憑き物」をきちんと落としてくれる解決は、
この世界観でなければできないカタルシスを確かに持っているのだ。

そして……最後はぜひともその目で確かめていただければ、幸いである。

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