第14話 類はホモを呼ぶ

 一ノ倉への謝罪をすませた後、折乃は完全に忘れていたスマホの電源をつけた。


「うわっ。なんだこれ!?」


 一番に表示された不在着信の数、七四件。


 ほとんどが春咲。三件だけ一ノ倉。


 一ノ倉から連絡が少ないという悲しみよりも、春咲の異常な着信数に恐怖に近いものを感じた。


「ずっと電話かけていたようだから、余程心配だったのね」


 一ノ倉の言葉に、そんな軽く受け止めるものなのか? と思いつつも、それもそうだなと思い込もうとしていた。


「おはよう、お二人さん」


「おはよう、敷町。昨日は、ありがとうな。なんか、前に進めた気がするよ」


 どんな時も何かを教えて、導いてくれるのは敷町かもしれない、そう思える。


「いいってことよ」


「それより、敷町君。頼んだ事ってどの位終わったのかしら」


「現在、四名を辞退に追い込み、残りは一名となっています!」


 敷町は敬礼し、まるで何かの組織での任務報告をしているように答えた。


「順調のようで安心したわ」


「それが……」


「何かしら」


「最後の一人である長宮秀司ながみやひでしはホモかもしれない、という噂が」


 少し考える素振りをして一ノ倉は答えた。


「アタックして、もし、本当にホモだった場合は、折乃君、貴方の敵は貴方がなんとかしなさい」


「イエス、マム!」


 どうやら、一ノ倉さんはこの作戦を諦める選択肢はないらしい。


「わかったよ……」


☆☆☆


「こちら敷町、三の十一に潜入完了」


「そういうのいいから」


 工作員かなにかのような演技をする敷町にそう言う。


「こういうのは雰囲気が重要だと思うんだ」


 目的の長宮を呼ぶと、すぐに男子が一人、教室から出てきた。


 眼鏡をかけた真面目そうな彼がホモだとはまるで思えない。


「こんにちわ。えーと、折乃君だよね? 何か用?」


「俺のこと知ってるんですか?」


 長宮は眼鏡を人差し指でクイッと持ち上げる。


「まあ、有名だし、個人的に興味もあるし」


 そう言う長宮の眼鏡がキラリと光る。


 俺は、言い知れぬ不気味さと身の危険を感じ、鳥肌が立った。


 ま、まさか……。


「本題に入ろうぜ。俺たちはある交渉をしに来たんだ」


 割って話を戻す敷町に長宮はフッと笑う。


「辞退しろと言うのだろう?」


「お前、なぜそれを……!!」


 敷町のオーバーリアクション。


「そこまで芝居がからなくても……」


「上門さんに言われたんだよ。気をつけろ、ってね」


 まあ、さすがに色々と動いてるのはバレてるよな。


 ここ二、三日に四人も辞退してるんだ。どんな人が見てもおかしいって思うだろう。


 ここまでうまくいったこと自体、運が良かったんだ。


「だが、安心しろ、交渉次第では俺は手を引くつもりだ」


「その条件というのは?」


 争いもなく終わるのが一番だ。


「もし、君が選挙に勝つことができたら、俺を生徒会長権限で役職に任命してくれ。たぶん、俺では折乃君にも、上門さんにも勝てないだろう。そして、上門さんが勝ってしまったら、俺たち男子の意見が今年、一切反映されない可能性もある。だから、君が最後の希望なんだ。頼む」


 まるで、上門を世界の危機に陥れている魔王のように語る長宮。


 しかし、まさか、上門さんの考えていることをこれほど見透かしているとは。てっきり、男子皆、アイドルに夢中なのかと思っていたよ。


「わかった。その条件を呑もう。俺がその意思を背負うよ!」


「ありがとう! 応援しているよ」


 がっちりと握手をかわす折乃と長宮。


 しかし、折乃の頭には一つの疑念が残っていた。これほどの人間が本当にホモなのか……? と。


「失礼かもしれないけど、一つ訊いてもいい?」


「なんだい?」


「長宮君ってホモなの? あ、その、噂で聞いて……」


 あまりの唐突で予想外の質問に、眼鏡を落としてしまう長宮。


「なぜそれを……!!」


 同じ反応しかできないのか。君達ホモは。


「誰だよ。他人を貶めるような噂を流す奴は。とりあえず、このことは秘密にしておいてほしい」


 確かに。この時期に流れる悪い噂で得するのは立候補者のみ。なら、導かれる答えは上門さんだろう。回りくどいことをする人だ。


「誰にも言ったりしないよ。今回はありがとう。これからよろしく」


 そう勝利宣言をして俺たちは教室に戻った。

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