第9話 重要なことは番組みたいに引き伸ばす

 立候補者の圧倒的な女子率。


 少なくとも、俺がこの高校に入って、二年間こんなことはなかった。


 この特殊過ぎる事態に反応するやつがもう一人いる。


「先輩!」


 見えるのはピンクのシュシュで飾ったポニーテール。そう、春咲だ。


「見ましたか!?」


 机をバンッと両手で叩き、焦点を合わせられないほどに顔を近づける。


「ああ。見た見た。だから、少し離れようか」


 手で春咲の顔を押し遠退ける。


「何か、選挙にでるのが流行りなんですかね?」


「はあ」


「ため息をするほど選挙が心配ですか?」


「お前と同じことを考えた自分の頭が心配なんだよ」


「ひどいです〜」


 春咲をからかうのは程々にして、どうするかだな。


「この状況を作り出した奴がそこにいる」


「誰です?」


 そう言って、折乃の視線の先を追う春咲。


「まさか……」


「そう、上門さんだ」


 軽く手を振り、微笑む上門。


 これだけ見れば、普通に美少女なんだがなあ。


「ご友人と一緒のようで良かった……」


 春咲は震えながらそう言う。


「そういえば、あの人も生徒会長に立候補してましたよね?大丈夫なんですか?」


「何をしてくるか分かんないけど、絶対に勝ってみせる。というか、勝たなきゃいけない」


 考えてみれば、生徒会長が上門になったら、俺のいない所で一ノ倉さんと何をしでかすか。逆に、俺が勝って優雅なお茶会開いてやる!


「おー、恰好いい」


「茶化すなよ。お前だって勝算あるのか?」


 拍手する春咲に言う。


「いつも通りやるだけです!」


「去年の手をまたやるのか……」


「もちろん!」


 そう言って、笑顔でガッツポーズをする。


 キーンコーンカーンコーン。


 一時間目の始まりを知らせるチャイム。


 それを聞き、慌てて飛び出す春咲。


「失礼しましたー!」


 模範生が廊下を走るなと言うのは、流石に意地悪がすぎるというものだ。辞めておこう。


「遅れるなよー」


 その代わりに俺はそう返した。


☆☆☆


 マニフェスト発表は選挙当日の十日前。


 つまり、明日だ。


 そして、こういう時期になって活発になり始める奴らがいる。


 新聞部だ。


 特に何か頼んでやってもらっている訳ではないが、最近では生徒会選挙の記事を掲載している。


 マニフェスト発表前にいつも、立候補者に聞きまわって、先だしするのだ。


 だからこそ、新聞部の才良新聞が意味のあるものになる。


 もちろん俺は答えたし、一ノ倉さんも答えただろう。そして、上門さんもそのはずだ。


 だが、その気になるライバルが記事で語ったのは一言だけだった。


『アイドルは好きですか?』と。

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