第6話 後輩は誰目線でも可愛く見える

 ある日のそのまたある休み時間。


「センパーイ!折乃先輩はいますか!!」


 ドアを勢い良く開け、入ってきたのは、ポニーテールの良く似合う女の子だった。


「どうした?そんな慌てて」


 彼女は春咲明夜はるさきあけよ。去年、生徒会の庶務だった一人だ。


「どうした、じゃないですよー。聞きましたよ!先輩達、今年は生徒会に入る気ないって本当ですか!?」


 ここ才良高校の生徒会は少し特殊だ。なんと、三年でも生徒会に所属できるのだ。一学期に選挙をし、三学期に任期を終える。なので、生徒会役員は丸々、一年任期を持たない。


 しかし、その代わりに学校のイベントは全て、その生徒会が主体となって行われる。文化祭、体育祭はその二大イベントと言えるだろう。


 それを好きにできる生徒会は強く権力持つと言っても過言ではない。


「それが何か、まずいのか?」


「まずいに決まってるじゃないですか!!去年、生徒会に所属していた三年って折乃先輩と一ノ倉先輩だけなんですよ!?今年の生徒会長の椅子がフリーになるってことなんですよ!?」


 生徒会長の座はイコール、やろうと思えば学校イベントを好きにできるということだ。


 誰でも立候補はできるし、選挙なので、誰にでも生徒会長になる可能性はある。毎年、競争率は高い。


 ただ、去年も生徒会役員だし安心して任せられるという考えの人が大半で、ほぼ出来レースになることが決まっている。


「だけどなあ。今年は勉強に集中したいんだよね。一ノ倉さんもそうでしょ?」


「そうね。この学校のシステムがおかしいと思うわ」


 一ノ倉は本のページをめくる手を止め、言う。


「お二人とも、成績いいじゃないですか!?一ノ倉さんなんて前回の試験、順位二位って聞きましたよ!!」


 まじかよ……。俺、十二位だったぞ……。


「はい、そこ。落ち込まない。私なんて二十位代で生徒会やってるんですから!」


「お前らの成績は化物過ぎるぜ」


 敷町がそう言うには理由がある。


 才良高校は一学年、七百人近くいるマンモス校だ。春咲だって十分過ぎるほどに優秀なのである。


「そうだ。春咲、お前が生徒会長になったらどうだ」


 二年連続で生徒会長っていうのもあったらしいし、いいと思うんだがな。


「勘弁してくださいよ……。それに生徒会長の卒業式に泣きながら、俺が先輩の意思を継ぎますとか言ってたのは誰ですか!」


 春咲は俺の机に突っ伏して言う。


 思い出すだけで恥ずかしい。あれは俺の黒歴史の一つだ。


 春咲は何か思いついたのか、ハッと立ち上がるとスマホを手に何か始めた。


「何、この子可愛いー」


 教室に戻ってきた上門が春咲の方へ一直線に駆け寄る。そして、躊躇いのないハグ。からの頬擦り。


「ちょっ、やめて下さい!誰ですか、この人」


 今、この人がレズだということを知らせるのは酷だろうから、言わないでおこう。


「知らない?転校してきたんだよ」


「上門真弓よー。よろしくー」


 上門の表情は頬が緩みきっていて、とても幸せのようだ。


「つ、次の時間も説得に来ますから!離してくださ、って堅ッ!?何これ!?」


 上門のレズホールドはなかなかに外せない。仕方ないので、春咲は引きずりながら去っていった。


「お、おう。頑張れよ……」


 結局、上門が満足気に肌をツヤツヤさせて、笑顔で戻ってくるのは、チャイムが鳴ってからだった。


 春咲の苦悶の表情が目に浮かぶぜ。

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