第4話 同性愛者は意外と身近なもの

 生徒会に所属するということは、少なくともその学校を代表し、模範生となるということだ。


 我が才良さいりょう高校の生徒会に成績の上位10%未満の人間が入ることはほとんどないらしい。


 なぜなら、選挙運営、つまり学校側が強く模範的であることを推すからだ。


 そんな模範的な超優等生である生徒会メンバーであった一ノ倉さんの今朝の振る舞いは、やはり皆驚くのは当然だ。


 生徒会を辞めて、たかが外れたのだろうか。それともストレスを溜め込んだ結果、ああなってしまったのだろうか。俺にはそっちの方が心配でならない。


「一ノ倉さん、何かあったの?」


 恐る恐る尋ねる。


「何の話かしら」


 そう答える一ノ倉さんは何のことか、まるで見当がつかないといった風だ。


「なんか昨日と雰囲気違うなって」


「私の性癖、皆にバレたなら、もう何もかもどうでもいいやって思ってね」


 つまらなそうに彼女は言った。


「一ノ倉さんがバイだって話?」


「そう」


「誰がそんなこと?」


「あなた、バラしたんじゃないの」


「俺はそんな事しないよ!?もちろん、上門さんもそんな事をする人じゃないよ!」


「そ、そう。ならいいわ」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする一ノ倉。


「次は体育だったわね。更衣室に行かないと」


「一ノ倉さん、待って。私も一緒に行くわ」


 急いで更衣室に向かう一ノ倉を呼び止めたのは上門だった。


「嫌よ。あなた、私の体を触ってくるじゃない」


 スレンダーなbodyの一ノ倉さんと少し豊満なbodyの上門さん。


 想像するだけで、理想郷にまみえた気分だ。


 そんな一ノ倉の発言に反応したのは、折乃だけではなかった。


 そうクラスの男子全員が想像したことだろう。


 なんて素晴らしいことだろうか!


 皆が一つのことを考え、共有しているのだ!


「世界平和、ここに見たり」


 田中君なんて乱舞を始めたぞ。


「田中、お前は頭の中で何が起こっているんだ……!!」


 クラスメイトの男子がそう話しかけても反応がない。どうやら昇天しているようだ。


 しかし、そんな男達を横目に敷町は何も反応していなかった。


 こういうことが前からある。だが、今後の関係のため、あえて何も聞かずにしてきた。


 だが……。


「今後の関係のためにあえて聞こう。お前、ホモなのか……?」


 敷町の肩に手を置き、静かに問う。


「嗚呼、こういう時に嫌でも思い知らされる。俺はホモなのだと。そして、女の裸よりお前の上裸の方が興奮するぜ……」


 目を光らせる敷町は、まさに獲物を前にした狼のようだ。


「ひぃ!!今後半径5メートル以内には近づくなよ!?」


「お前、さっきまで俺を親友とか言ってなかったか……。なに、俺は紳士だ。お互いの了解がない限り襲ったりしないぜ」


 ウィンクをキメる敷町。


「そ、そういうものなのか……!?」


 ホモの生態系に少し詳しくなったぜ!


「男に二言はねえよ」


 漢の中の漢♂が言うんだ、一度くらい信じてやることにした。


「それにしても、半径5メートルって……。席にも座れねえじゃないか」


 敷町がワハハと笑う。


 こういう関係の瞬時回復は長年の付き合いのおかげだろう。こういう友人は大切にしていきたい。


 しかし、考えてみると、周りにレズ、ホモ、バイ。意外といろいろな人がいるもんだ。

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