scene:04 逆襲の牙

 チェルノート城からあかりが消えた。

 城に避難した平民たち。彼らがおこしたが消され始めたのだ。

 

 それをリチャードがみとめたのは【断罪式】の余波で生み出された雲がようやく薄れ、三日月が顔を見せた頃だった。弱々しい月明かりの下では強化された視覚でも細かい所までは見ることは出来ない。しかし、何かが始まろうとしている事は確かだ。


「ようやく、ですね」


 リチャードの隣で、六脚馬スレイプニルに跨がるアンドレがあんのため息を吐く。『公女を殺せ。でなければ皆殺しだ』と宣告してから数時間。騎士甲冑サークが持つ体温調節機能と〔身体強化式〕によって疲れを知らない騎士だが、だからといって空の風に吹かれ続けるのは気持ちの良いものではない。アンドレのため息はニコライとガブストールにも伝染し、三人の口元に笑みがこぼれた。


「ったく、今になって覚悟を決めたのか平民どもは」

騎士甲冑サークどころか魔導武具すら持たない小娘を殺すのに、何をためうことがあったんだか」

「まったくです。町人たちが事を起こしたら、さっさと降りて

「ああ、そうだな。いい加減、腰を落ち着けたい」

 

 騎士たちはそう言って笑い合う。

 もとより、彼らはチェルノートの住民を生かしておくつもりなどじんもなかった。ただ、普通に公女を殺すだけでは、収まりがつかなかっただけ。町人たちが公女を殺したら、今度は『貴族を殺した罪』に対する罰を与えるつもりだった。


 だが、


「――少し待て」


 リチャードのその言葉に、笑い合っていた三人の騎士は不思議そうな表情を浮かべる。険しい表情を浮かべるリチャードへ、物問いたげな視線を送った。


 それを無視して、リチャードは〔身体強化式〕を眼球へと集中させた。


 汎人種ヒューマニーの眼球の限界まで向上させた視覚が、城の広場の様子を捉える。

 頼りない月明かりの下で、うごめく人影たち。

 彼らは一様に城の中へと吸い込まれていく。順当に考えれば、町人たちは数の優位に任せて公女を殺しにかかるのだろう。


 だが。


 ――気のせいか?

 リチャードは眉をひそめる。 


 これでも炎槌騎士団の団長であるリチャードは幾度となく戦場いくさばに立っている。国境を侵した獣人種ゼリアンの討伐や、長命人種エルフの国家である連邦との小競り合い。時には南方の大陸を支配する巨人種ギガンツファラオとも剣を交えたこともあった。ここにいる四人の騎士の中では最も戦慣れしている。


 そのリチャードの勘が告げているのだ。

 お前は今、戦場いくさばに立っている、と。



    ◆ ◆ ◆ ◆



 リチャードの視線の先。

 チェルノート城のエントランスホール一階では、ダリウス・ヒラガは神経を研ぎ澄ませていた。


 エントランスホールでは城内部へ退避してきた町人たちと、作戦の準備を進めるシュヴァルツァー子飼いの商会員が駆け回っている。


 その慌ただしいエントランスホールの端で、ダリウスはと向かい合って大理石の床に腰を下ろしていた。


 ダリウスの正面で瞳を閉じているのは、バラスタイン辺境伯公女――エリザベート・ドラクリア・バラスタインである。

 ダリウスとエリザが腰を下ろしているのは、蓄魔石を精製して作った第五触媒エーテル液で描いた魔導陣の中心。二人のてのひらにはやはり魔導陣があり、それを合わせるように互いの手を握り合っていた。


「公女さん、個魔力オドを手に集中させてくれ」

「はい――」


 途端、ダリウスとエリザの手の隙間から光があふれる。互いの個魔力オドがぶつかりあったことで発生した干渉光だった。ダリウスは自身の魔導神経を活性化させて、慎重にエリザの個魔力オドを自身の魔導神経へと引き込んでいく。そしてダリウス自身の肉体に刻み込んだ魔導陣と、床に描いた魔導陣を同調。エリザの個魔力オドをソレら全てに循環させる。


 ――それは、エリザの個魔力オドを利用して複数の魔導式を成立させるための準備。


 エリザとダリウスに魔力の経路を作り、ダリウスはそこから更に幾つもの魔導陣へと魔力を飛ばす。そうする事で大魔マナに頼らず迅速に、複数の魔導式を起動させる事ができるのだ。

 言ってみれば、今のダリウスは『生きた魔力分配器』とでも言うべき存在である。


 ダリウスは自身とエリザの魔力経路が成立した事を確認して、目の前の少女へ笑って見せた。


「よし、これで完了だ。公女さんは持ち場に行ってくれ」

「ありがとうございます」


 いつかとは違うとし相応の笑みを浮かべて、公女は立ち上がる。

 そしてエントランスホールで同じように作戦準備をしていたメイドへと顔を向けた。


「マリナさん、また後で」

「おう」


 複雑な表情を浮かべている公女とは対照的に、メイドの返事はそっけない。

 だが、むしろ安心したかのように公女は「エンゲルスさん、行きましょう」と、荷役の一人を連れて城の外へと駆け出して行った。


 ――それじゃあ、俺も始めるとするかな。


 公女の背中を見送ったダリウスは、自身の魔導神経を流れるエリザの個魔力オドを手繰り寄せる。それらをメイドが用意した『騎士を倒す武器』へと流し込んだ。無論、武器そのものに魔力を注ぎ込んでも意味がない。魔力の行き先は、武器そのものに刻み込んだ魔導陣だ。


 刻んだ魔導陣はメインのものが五つ。

 まず〔重力制御式〕が一つに〔力量制御式〕が三軸。1800キルムはあるというの重さを20分の1にまで減らし、使用時の反動を抑え込むためのもの。反動は4千キルムの物体がぶつかってくるような衝撃だと言うので、送り込む魔力量で効果が増減するタイプにしてある。


 そして問題は最後の一つである〔雷火式〕だ。これはメインが一つと、そこから分配するサブが複数。武器を動かすために必要とかで『あんぺあ』だの『わっと』だのを調整しろと言われ大変だった。メイド本人は昔自分で改造した事があると言い張っていたが、とてもじゃないが信じられない。


 ダリウスはそれら全ての魔導式を起動させ、それらの効果を安定させるための細かい魔導式も成立させた。

 立ち上がり、床の魔導陣から離れて魔力が遠隔でも流れるか確かめる。

 ――問題無し。やはり俺は天才だ。


 ダリウスは満足げにうなずき、武器の横に立つメイドへと声をかけた。


「それじゃ、失礼するぜ」

「頼みます」


 言って、メイドは胸元のをはだけさせ、魂魄人形ゴーレムの素体の胸殻を開いた。

 中にあるのは現代の技術では精製不可能なほど高純度の蓄魔石。――魂の座である。


 ダリウスは胸殻の中へ手を突っ込み蓄魔石に触れる。――途端、蓄魔石がダリウスの魔力を吸い上げた。それをくいなして、ダリウスは魔導神経を流れるエリザの個魔力オドを差し出す。蓄魔石は新たな魔力経路を構築し、勢いよく魔力をらい始めた。


 これはメイドの身体能力を引き上げるための策。

 ただの魂魄人形ゴーレムでは騎士の動きについていけない。騎士へ肉薄するために魔力供給量を倍増させ、オーバースペックを引き出す。特にダリウスがつないだ経路は魔力供給量を調節する事が出来るもの。エリザの個魔力オドを普段の何倍も送り込む事が可能だ。


「よしつないだ。どうだ、身体の具合は?」


 ダリウスの言葉に応じるように、赤髪の魂魄人形ゴーレムは足を軽く持ち上げた。

 そのまま大理石を踏みつけ――――た足が、くるぶしまで石の中にめり込んだ。


 メイドは足を地面から引き抜きながらうなずく。


「問題無さそうです」

「――そ、そうか。良かった」


 大理石に出来た足跡を見ながら、ダリウスはった笑みを浮かべた。

 なんにしても、強くなったのは良いことだ。


 ――しかし、とダリウスは眉をひそめる。

 公女様の個魔力オドの量は一体なんなんだ?


 いくら貴族とはいえ、これだけの数の魔導式を起動し続ける事ができる魔力量というのは尋常ではない。しかも魂魄人形ゴーレム主従契約テスタメントを結んでいるという事は、魂魄人形ゴーレムの願いをかなえるだけの魔力を供給しているはず。その消費量は、そこらの騎士ならまいを起こすほどだ。――そして今や、その魔力消費量は数倍にまで膨れ上がっている。


 しかも魔導神経から返ってくる感触からすれば、公女様はまだ個魔力オドに余裕を残しているようだった。貴族の個魔力オド量は平民の一万倍と言われているが、公女は更にその十倍は体内で生成している。

 本来なら公女の個魔力オド量に合わせて稼働させる魔導式を減らし、戦闘の流れを見て入れ替えていく予定だったのだが、その必要は無いだろう。

 とても汎人種ヒューマニーの魔力量とは思えない。


 だがこれなら。

 そう、ダリウスは期待する。

 本当に、炎槌騎士団に勝てるかもしれない――。


 そしてついに。

 ダリウスの魔導神経が、チェルノート城の魔導干渉域発生器からあふす地脈の魔力を感じ取った。


 魔導干渉域発生器の暴走。

 開戦の烽火のろしである。

 もう、後には退けない。


「メイドさん、頼んだぜ」

「……ダリウス様、ひとつ訂正を」

「ん?」

わたくしは、ただのメイドではありません」


 言って、メイドはスカートから緑と茶色のまだら模様をした帽子を取り出した。それを被ってパチリ、とあごひもとどめる。そして額の辺りに付いている黒い棒状のものを目元まで下ろした。


 ――ダリウスには知る由も無いことだが。

 帽子の名は88式鉄帽、黒い棒状のものは単眼暗視装置JGVS-V8

 かつてマリナが夜間戦闘の際に使っていたものだった。


 そして、仲村マリナは隣に鎮座するを肩に担ぎ上げて宣言する。

 

わたくしは――武装戦闘メイドです」



    ◆ ◆ ◆ ◆



「何だ?」


 最初に気づいたのはアンドレだった。

 魔導神経を持たぬ騎士ですら感じ取ることのできる魔力の奔流。

 それが、チェルノート城の地下からあふしたのだ。


 ――途端、リチャード達がまたがる幻獣たちが悲鳴を上げた。


 変化はそれだけで収まらなかった。何かが騎士甲冑サークが生み出す魔導干渉域とぶつかり合い、まばゆく魔力干渉光を生じさせたのだ。

 だが、魔導式を魔力に還元した際のものとは違う。

 むしろ騎士同士がぶつかり合った時に生じるような――


「――まさか」


 アンドレは暴れる六脚馬スレイプニルを必死に抑えつけながら叫ぶ。


「これは、魔導干渉域か!?」


 魔導式が折り重なり生命として成立している幻獣は当然、魔導干渉域の影響を受ける。騎士の魔導干渉域の影響を免れているのは、そのように発生器を調整しているからだ。それ以外の魔導干渉域に触れれば、幻獣の根幹魔導式は分解される。だからこそ炎槌騎士団は、チェルノート城が作る魔導干渉域の外で待機していたのだ。


 だがもし、魔導干渉域発生器を暴走させる事が出来たのならば。

 発生器の自壊を代償に、干渉域の範囲は極限まで広げる事が出来る。


 果たして、アンドレの仮説を肯定するように――

 ――幻獣たちが魔力へと還元された。


 突如として足場を失くした騎士たちは、地上600メルトに投げ出され――そして自然の摂理に従い落下した。「ぐぉ!?」予想外の出来事にアンドレたち炎槌騎士団はろうばいする。狩りをしているつもりが、いつの間にか自分達の足にわなが絡みついていたのだから。


 しかし、


「なるほど――」


 同じく宙に投げ出されたリチャード・ラウンディア・エッドフォードは、むしろ喜ぶかのように口角を上げていた。


 この展開は、悪くない。

 リチャードは暗く静まり返ったチェルノート城を見つめてつぶやく。


「あくまでも抵抗するのだな」



    ◆ ◆ ◆ ◆



「公女様ぁ! 騎士が落ちてきますぜ!」


 エリザベートの隣でエンゲルスが叫んだ。

 その顔にはマリナが用意した暗視ゴーグルが乗っている。


 二人がいるのはチェルノート城の城壁の上だった。

 戦況を把握するため、黒いがいとうを羽織って胸壁に身を隠していたのだ。


 作戦の第一段階はクリア。

 これで万が一の事があっても、町人たちを避難させられる。すがに騎士と言えども幻獣から降りれば、そこまで足は速くはない。森に入ってしまえば逃げ切れる。


 だけど――

 と、エリザは背後を見やった。


 城壁の上からでも、城内に避難した町人たちの姿が見て取れる。彼らは窓際に集まってこちらの様子を見守っていた。表情までは見えなくとも、互いに身を寄せ合う姿からは彼らの不安が伝わってくる。


 だというのに。

 こわいはずなのに。

 誰一人として、逃げようとしていない――――!


 ならば、


「マリナさん!」

『おう!』


 エリザの念話を受けて、正面エントランスの扉が開かれた。

 魔導灯の逆光の中でたたずむメイドの影に、エリザは命じる。 


「お客様のお相手をッ」

『承知ッ!』


 ――瞬間、雷光が如く黒い影が飛び出した。


 飛び出したのは白黒モノクロのメイド服。

 天馬ペガサスと見紛う速さで駆けるマリナは、広場の中程でいきなり跳躍――そのまま、城壁を飛び越えた。


 ふと、エリザは思い出す。

 かつてこうして、戦いに赴く人を見送った事があった。そして、その人――父、ブラディーミア十三世はそのまま帰らぬ人となったのだ。


 エリザは願う。


 今度こそ、大切な人を失わぬように――と。



    ◆ ◆ ◆ ◆



 城壁を何かが飛び越えてくる。


 ガブストール・アンナローロは落下しながらも視力を上げて、その姿を確認する。黒いロングスカートのワンピースに白いエプロン。眼鏡に赤髪の魂魄人形ゴーレムメイドだ。


 生きていたのか。

 そう驚くと同時に、ガブストールは違和感を覚える。


 魂魄人形ゴーレム汎人種ヒューマニーより少し身体能力が高い程度で、城壁を一息に飛び越えられるほどでは無かったはずだ。それに肩に担いでいる、巨人種ギガンツが扱う戦槌メイスが如き巨大な鉄塊。自身の体の5倍はあろうを軽々と振り回すなど、まるで騎士ではないか。


 そして魂魄人形ゴーレムメイドは、着地と同時に戦槌メイスの切っ先を炎槌騎士団へ向ける。


 ――何か仕掛けてくる。

 ガブストールがそう直感したのと同時に、リチャードから「ガブストール」と声をかけられた。


「お前が先陣を切れ」

「は!」


 まあ、何だって良い。

 俺にはがある。


 ガブストールは背中に掛けていたちようそうを構えた。と、同時に槍へ個魔力オドを流し込み、固有式を起動させる。


 その槍の名は【輝槍:カインデル】。

 固有式は【限定予知】――敵の攻撃を予知し、所有者へ伝える魔導式。


 槍の柄についた金環が回転し始め、近似平行世界線全てと同調。所有者の因果律から敵の攻撃を逆算する。――途端、視界に浮かび上がる光点。それは【限定予知】によって導き出された敵の攻撃がやって来る場所だ。


「ニコライ、狙われているぞ」

「ったく、俺からかよ……」


 そう吐き捨てながら、ニコライ・ジャスティニアンも自身の魔導武具の固有式を起動させる。彼の魔導武具は【不滅剣:デュリンダーナ】。【概念忘却】によって『壊れる』という概念そのものを忘れた魔剣は、その太い身幅を利用すれば盾にもなる。どんな攻撃が来ようとも問題無いだろう。


 と、


「む、こちらもか」


 ガブストールの目の前にも光点が現れる。今度は二つ。

 どうやら矢か何かを連続して放つ魔導武具らしい。


 だが、そんなものが騎士に通用するものか。

 ガブストールはもう一つの固有式を起動させる。固有式【凝集光手】は、槍の内部にんだ光を圧縮。魔力の皮膜で覆い騎士の三本目の『手』として操る魔導式。どこまでも伸びる光の手は、槍の穂先が届かぬ敵へも突き刺さる。当然、数百メルト先の魂魄人形ゴーレムメイドも同様だ。


「何だか知らんがこれで――」


 ――ついわりだ。

 そう言いかけたガブストールの言葉が止まった。


 一つ、二つと増えていた未来を示す光点。

 今やその数は、視界を埋め尽くすほどに膨れ上がっていた。


 ――なんだ、これは。

 その光点の正体をガブストールが知ることは、ついぞ無かった。

 

 ならば。

 未来を示す光点の向こう側から現れた鋼鉄のやじり

 視界を埋め尽くすほどの矢が、彼の甲冑をい破ったからだ。


 〔結合強化式〕の限界を貫き騎士甲冑の中に飛び込んだやじりは、硬い甲冑の中で跳弾を繰り返し、柔らかい中身を液体が如くかくはんした。それでもなお衰えぬ運動エネルギーが出口を求めてあふれかえり、甲冑の先端――首と手足へと集中する。


 そして「ボギュン」と。

 小気味よい音と共にガブストールという名前だった首が、手足が、花火のように爆裂した。


「ガブス――」


 戦友の末路に驚き、思わず剣を下げた愚か者ニコライの頭が吹き飛ぶ。

 雨のように炎槌騎士団へ降り注ぐやじりは、騎士からの個魔力オドの供給を失った不滅剣をも砕き貫いて、それでもなお降り注ぎ続けた。

 

 その降水量は毎分3900発。降り注ぐのは劣化ウラン弾芯の竜の牙。

 牙の名は30㎜徹甲焼夷弾A P I

 牙を放つは全長6mを越える鉄塊。


 の名はGAU-8――

 ――義によって逆襲を成すアヴェンジャー機関砲である。



    ◆ ◆ ◆ ◆



 果たして、四人の騎士はごうおんと共に地面に墜落した。


 マリナは右肩に担いでいた機関砲を止め、騎士たちが落ちた位置を見つめる。


 GAU-8――『アヴェンジャー』は、航空機に搭載される機関砲だ。

 戦車の上部装甲を貫ける威力を持つそれを、マリナはかつて『ニッポン』で陣地防衛のために流用していた事があった。墜落したA-10攻撃機から取り外し、対空砲として使わねばならぬほど『ニッポン』の対空戦力は払底していたのである。


 ――だが、そんな苦い記憶も、今となっては良かったと思える。

 その時に仲間達と行った改造の経験が無ければ、こうして担いで扱えるようにする事も出来なかったからだ。


 だが何より、シュヴァルツァーが手配した職人たちは完璧な仕事をしてくれた。肩に担げるよう馬車職人が台座を作り、鍛冶職人たちは引き金トリガーを作った。何よりダリウスの魔導式によって軽々と持ち運べ、反動もせいぜいショットガン程度。

 魔導式が『ニッポン』にあれば、と悔しく思うほどだ。


 ――ふと、背後から歓声があがった。

 暗視ゴーグルで状況を見守っていた何人かだろう。

 そしてマリナの頭に念話が届く。


『やりましたねマリナさん!』


 マリナはそれには応えず、単眼暗視装置を調整する。

 見つめるのは、つちぼこりが上がる墜落地点。


『本当に騎士を倒せちゃいましたよ! これで――』

「いや」

『――? マリナさん、何か』


 マリナは不思議そうなエリザの念話には答えず、空いている左手だけでスカートの中からRPG-7を生み出し――間髪入れずに発射した。


 数百メートルの距離を瞬時にらい尽くし、騎士の落下位置へと飛びかかった対戦車弾頭はしかし――

 ――突如として現れたいかづちに撃ち落とされた。


 成型炸薬の爆風の向こうを見つめて、マリナはつぶやく。


流石さすがバケモノどもだ、期待を裏切らねえ」

『マリナさん、アレ……』


 エリザも気づいたのだろう。

 念話からきようがくと恐怖の感情が伝わってくる。

 マリナは自身も感じるソレを振り払うように、ニヤリと笑った。


「――まさか、30㎜でも抜けねえとはな」


 闇をはらう一筋の雷光。

 その向こうから、二人の騎士が現れる――――。


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