その絆、まさしく剣と鞘

 不安と焦燥と決意を抱いた少年ベルクートの視点から語られる、神おわす草原にある小さな集落の物語です。
 まず、草原の豊かな自然の描写にぐいと世界で引き込まれます。ベルクートが神の使いの雛を拾うことに始まって、神の恵みと言うべき大自然とそこで生きる人々の姿は、生き生きとしていて爽やかな風までもを感じさせます。未来の巫女と彼女を守る『鞘』と目される二人の淡い想いは甘酸っぱく切なく、都から漂う戦乱の音は不穏できな臭く。肝心な想いを語ることができない二人と都の謀略に飲まれゆく集落の行方を気にするうちに、あっという間に読み終えました。