見知ると見知らない世界でぼくは…ひとり

にぃつな

Ep.1

 ぼくのかつての名前は佐賀(さが)達弘(たつひろ)。


 親の七光りで育ったぼくは強欲で他人がぼくよりも目立とうとするならば親の力でそいつを排除していた。


 友達も先生も、赤の他人も…気に食わない人たちは表から消えるかのように姿を消し、ぼくの目が映ることなく、その人たちは見ることはなかった。


 ある日、友達の誕生日パーティに誘われたぼくは、その子の家へ向かっている最中、事件に遭遇した。


 暗い牢獄の中で、ジメジメとぬれた湿気でぼくは暑苦しい日々を過ごしていた。牢獄の中には蝋燭(ろうそく)がなく、鉄格子の外の通路に辛うじて小さな一本だけの蝋燭だけが照らす程度の明るさだった。


「だれかいないのか!?」


 ぼくは呼んだ。声は枯れてしまっていた。


 しばらくの間、水もモノも何も口にくわえていない。それよりも餓死しそうで怖かった。


 何も食べれない状況になると、食べ物の幻がぼくに襲ってくる。目を開けないように必死でこらえるもその場に食べ物の生暖かいにおいがして目を開けてしまう。けど、そこにあるのは食べ物は何一つなく、代わりに排出したピーしかない。


 ぼくは、それに手を出し無我夢中で口に入れる毎日――ぼくは、助からないと知っていた行為だったのかもしれない。


 ぼくは誘拐されたのだ。おそらく――ぼくが消すように命じた彼らのうちの誰かからか…かなりの数でぼくを睨みつけ笑っているようにも見える。


 彼らはぼくがこの場所にいることをはるかに高笑いでいるのだろう。笑えるだろうな。命令して消した本人がこの様じゃ、彼らは喜ぶだろうな。


 でも、だれによって誘拐されたのか記憶にはない。最後にある記憶は――そう、執事が車から出るように指示された瞬間に誰かがぼくを大きな布で人間一人は軽々入り込んでしまうような袋に覆い隠された。


 そのあとの記憶はないが、おそらくあれが誘拐の一種だったのかもしれない。


 あれから何日か、もしくは何週ほど過ぎたのかわからない。ここは外の明かりでさえない牢獄なのだから。


 ぼくは、必死に声にならないが、親の名前を呼び続けた。きっと、助けが来るって信じているから…でも、助けは来なかった。


 いや――人は来たが、それは助けじゃなかったのは知っていた。


 大きな鉄仮面を頭からかぶさるかのように豚切り包丁のようなものを片手に雑事を掃除するかのような凶漢の裸エプロンをした男が鉄格子の外でのぞいていたのだから。


 男はぼくに笑みを浮かべ3つの情報を教えてくれた。


 2つの悲しいこと、1つの嬉しいこと。


 ぼくは、男が話した内容は残酷で、今までの強欲が仇をなしたものだと理解した。


「ひとつ悲しいこと――君が帰る家はない。親は君を捨て、奴隷でもペットでも好きにしていいといったことだ」


 !? ぼくは悲しかったという気持ちよりも怒りの感情がさきだった。


「はァ なんでだよ!! 子の安全を心配してもいいじゃないか!? それを、“奴隷でもペットでも好きにしていい”とはどういうことだよ!! ふざけるな!!!」


 男はにんまりと笑顔で話しをつづけた。


「ふたつめの悲しいことは――君はもう、佐賀家の息子じゃない。すなわち、捨てられたというわけだ。だから、俺が代わりに飼ってあげようという話だよ! うれしいよな?」


 気がくるっている。


 大の男でありながらも興味を抱いた子供が永遠と殺意を抱くかのような不気味に歪んだ笑みと力を大いに振り下ろし、弱者をいたぶるような気高い笑い声。涎を淡々と足元へと垂れ流していた。


「みっつめは、俺の息子として育ててやるっというわけさァ!! サイコウだろ!?」


 変人だ。 こんなやつにおもちゃにされるぐらいなら、ここで終わったほうがマシだと思った。


 そいつはニタニタと笑いながら、鉄格子の扉をカギで開け、懐に隠してあった鎖でぼくの両手足を縛りつけ、「やっぱりやめた!」とぼくに鼻を近づかせ臭いをかぐ。


「臭いにおいだァ! これじゃ、豚のエサのほうが早いな」


 男はそう言って、ぼくを連れまわし、どこか厨房のような場所で冷たい鉄板の上に仰向けで寝かされ、大きな包丁を振り下ろした。


 男はニヤニヤと笑い、ぼくにこう言い残した。


「おいしくいただくね」


 そう言って真っ赤に染まった――。


 ある場所で暗く赤く濁る池。

 どこかしらからも聞こえる不気味な悲鳴。

 赤い空が延々と続く。

 生暖かい風が吹かれると傷があっという間に治る。

 言葉では言い表せない炎に熱しられ、肉も骨も溶かされる。

 大きなくぎ打ちのようなものでたたかれる毎日


 ――そして、ぼくは光に干され、目が覚めた先は未来だった。

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