モーフィアスとハイド二人はアパート内に入る。深夜なので一階のロビーには誰もいない。

 モーフィアスは腕時計を見る。深夜の一時過ぎだった。

「何か飲もう」

 モーフィアスはロビーから共同リビングに入る。

「何を飲むんだよ」

「まぁ何かあるだろう」

 モーフィアスは冷蔵庫を開け、牛乳を取り出した。紙パックには、セシルと緑のマジックで名前が書いてあった。

「牛乳でいいだろ?」

「俺、牛乳飲むと腹痛くなるんだ」

 ハイドはソファに座る。

「じゃお前はなしだ」

 モーフィアスはシンクの横に逆さで置いてあるのグラスを手に取り、匂いを嗅いでから、それに牛乳を注ぐ。

「うまいか?」

「まぁまぁだよ」

 モーフィアスは紙パックに書いてある成分表を見る。

「そういえば、ジョンの奴が出所したらしいな」

 ハイドは胸ポケットから煙草を出す。一本取り出して、口に咥えると、マッチで火をつける。

「知ってるよ」

 モーフィアスはグラスに残っていた牛乳を一気に飲み干した。グラスの内側には白い粘膜のようなものが張り付いていた。

 モーフィアスはシンクに水を落とし、その水流にグラスの縁を差し込んだ。たちまち白く濁った水でグラスが満たされた。

「十年だよ、あいつが服役してから」

「パフは何か言ってるのか?」

 モーフィアスはグラスを満たしていた白濁の水をシンクに流す。

「知らないよ。パフは俺のボスじゃない」

「そりゃそうだ」

「けど、もう十年も前の話だ。ジョンがこの街に戻ってこなければ、何も起きないだろうよ」

「もう終わったことだからな」

 シンクの中に、濡れたグラスをモーフィアスは置いた。ハイドは煙草の煙を口から吐き出した。

「そろそろ、行こう」

 モーフィアスは牛乳を冷蔵庫に片付ける。

「ちょっと待てよ、俺はまだ吸ってるんだよ」

「俺はもう飲んだ」

「じゃ一人で行けよ、俺はこれを吸ってから行く。三階の二号室だろ?」

「ああ」

 モーフィアスは共同リビングを出て、階段に向かった。

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