死なない男の就職活動-異能特殊派遣会社へようこそ-

鈴木カイル

プロローグ

第1話 アンデット×フリーター

 ――不死川久遠(しなずがわくおん)はフリーターである。

 自分は何者かと問われれば、彼はそう答えなければならないだろう。

 約一年前、一身上の都合により大学を中退した久遠は、学生という身分を剥奪され、社会の荒波へと放り出された。

 定職に就いた社会人というわけでもなく、かといって猶予期間(モラトリアム)を与えられている学生でもない。仕事の経験もなければ、活かせる知識もない。役立つ資格も持っていない。あるのは若さ、そして高卒という最終学歴のみ。

 そんな二十歳の若者に世間はどこまでも厳しかった。

 今は数百年に一度、とさえ囁かれている不況である。不景気だ。定職がないという烙印を押され、いくら焦って仕事を探そうにも、肝心の職はなかなか見つからない。

 二十歳という若さでも、未経験かつ高卒という条件では、正社員での採用は滅多には見つからなかった。もし存在していたとしても、採用に至るまでにはライバルと競い合い、面接や筆記試験といった難関を突破しなければならない。

 久遠は特に優れた学力を持っているわけでもなく、面接で上手く立ち回れる話術も持っていない。だから自分が今、就活三十連敗中だという事実も、甘んじて受け止めている。

 努力もしたし、ハローワークの担当職員と綿密な打ち合わせをして本番に臨んだ。

 しかし、ダメなのだ。どうしても、内定はもらえない。来るのは不採用の通知のみ。

 それくらい今のご時世では久遠のように、新卒や校内推薦といった学生のみに与えられる権利を手放した無力な人間が定職に就くことは難しかった。

 だが、いつまでも今の立場には甘んじていられない。久遠は実家住まいなので家賃や食費を心配する必要はなかったが、家族に金銭面でいつまでも頼っているわけにはいかない。

 彼の家は両親が既に亡くなっていて、八つ年上の兄が会社勤めをして家計を支えている。

 大学の入学金や授業料も、兄が自分と妹の二人を養いながら工面してくれたものと、奨学金を合わせてどうにか支払っていた。なので大学を辞めてしまった今では、奨学金という名の借金しか残っていない。それを返済する輝かしい未来もどこかに無くしてしまった。

 職もなければ、お金もない。おまけに返済しなければならない借金もある。そして、安定して給料が得られる定職にも就く目処も立っていない。久遠の現在は八方ふさがりだ。

 そんな久遠が取るべき行動はただ一つ、アルバイトだ。とりあえずの日銭を稼ぎ、就活資金を稼いでいく。昼は就活、夜はバイトをする生活リズムが自然と形成されていった。

 あくまで就活すらできずに無職街道をまっしぐら、という最悪の状況を回避できただけで、根本的な問題は解決していない。不死川久遠はフリーター、という事実は変わらない。

 そして彼は今日も今日とて、この状況を打破すべく就活とアルバイトに勤しむのだった。

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