第2話

「……」


 ヴァイスは、無造作に袋に詰められたアナたちの死体を丁寧に取り出し、並べる。

 彼らの瞳は、二度と開くことはない。

 無表情で死体を並べながらも、ヴァイスの脳内にはとある言葉が表示されていた。


≪天賜≫

『七大罪』:【強欲の顎】【????】【????】【????】【????】【????】【????】

『闇渡り』


 ≪天賜≫。

 ヴァイスは、教会で祝福を受けていないにも関わらず、天賜を手に入れたのだ。

 だが、その名はとてもではないが、神から賜っていいものではない。

 なぜ、大罪などという物騒なモノを手に入れたのか……ヴァイスにはどうでもいい事だった。

 ただ一つ分かるのは、この『七大罪』という天賜の能力のうち、【強欲の顎】というモノが、先ほどブラック・ウルフを一瞬で消滅させた効果だということ。

 そして、『闇渡り』という天賜は、ブラック・ウルフから奪ったモノだということも。

 綺麗に死体を並べおえると、ヴァイスは脳内の天賜の効果に意識を傾けた。


『七大罪:強欲の顎』……固有天賜。対象の天賜や特殊能力、その他あらゆるモノを奪い、自身の天賜や力にする。

『闇渡り』……B級天賜。影や闇夜の中を、自由自在に移動する事が出来る。影や闇夜の中にいる間は、同じように影や闇夜の中に入ってこない限り、気配などを察知することは出来ない。


 その効果は、驚くほど強力だった。

 固有天賜や、B級天賜というのは、天賜の強さや珍しさを総合した数値であり、固有天賜はその名の通り、世界でヴァイス以外使うことのできない天賜である証拠だった。

 ブラック・ウルフから奪った『闇渡り』という天賜は、本来魔物は天賜を持っていないのだが、ブラック・ウルフの特殊能力である闇夜に溶け込み、移動する事が出来るというモノで、ヴァイスの『七大罪:強欲の顎』の効果によって、その特殊能力を天賜という形でヴァイスのモノとなっていた。

 このように、対象から天賜を奪い取る【強欲の顎】は、特に強力と言えるだろう。

 さらに言えば、この【強欲の顎】と同等の能力があと六つもあることが予想できる。

 なぜ、急に祝福を受けていないヴァイスが天賜を手に入れたのかは分からない。

 だが、ヴァイスはこれで復讐できるのなら、何でもよかった。

 力が、必要だ。

 何もかもをねじ伏せる、圧倒的な力が。

 『正義』を謳う、ヤツ等を絶望させるだけの力が……!


「……みんな。俺は、壊れてしまった」


 並べた死体の前で、無表情のまま、ヴァイスは呟く。


「今までまっとうに生きていれば、それでいいって思ってた。……だが、もうやめだ」


 そう口にした瞬間、共に支えあい、笑いあった仲間たちの死体を囲むように、【強欲の顎】を出現させる。


「俺は、『悪』になる。この世の『正義』を真っ向から否定してやるために……その先に何があるのかは分からない。でも、例えすべてが間違いだらけだったとしても、俺はみんなに見てもらいたいんだ。俺の『悪』を。だから――――」


 そこまで言うと、【強欲の顎】は完全に死体を飲み込み、ブラック・ウルフのときと同じように、その場から完全に消滅した。


「――――共に行こう」


 その瞬間、ヴァイスは新たに一つの天賜を獲得した。


『王者の資質』……S級天賜。人を惹きつける力。仲間を得るたびに自身の力が上昇し、また、仲間を強化することもできる。


「……できることなら、この力をみんなの為に使いたかった」


 皮肉にも、手に入れた力は仲間の数が大切なモノだった。

 アナたちが生きていたころ、彼らのリーダーは間違いなくヴァイスだった。

 そして、ヴァイスは彼らの死体を【強欲の顎】で飲み込むことで、自身の進む先を見せようとした。

 そんなヴァイスの意思にまるで応えるかのように、彼らの亡骸は応えた。


「分かった。それがみんなの意志だというのなら……仲間を集めよう。この腐りきった『正義』に抗う、『悪』を集めることにするよ」


 新たな決意を胸に抱き、ヴァイスは目の前に広がる薄暗い森に視線を向けた。


「……そのためにも、俺は強くなる。もう誰も、失わないように……」


 ヴァイスは、強い決意と共に、『オムニスの森』へと足を踏み入れるのだった。

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