鹿の角の風船~キョン編

アほリ

1#キョンの谷

 ここは、とある半島。


 「キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!キョン!」



 沢山のキョン達が、我が物顔で山野を駆け巡っていた。


 キョンは、体格50センチ程の小型のシカだ。

 しかしキョンはこの国野生生物ではない。

 中国や台湾に生息していた個体が、この国に持ち込まれて野生化したのだ。

 キョンは、『特定外来生物』。



 この国に居てはならない存在・・・



 ハンターや森林保護員や保健所の人間が、度々やって来ては、この国の生態系を脅かす存在のキョンをどんどん駆除してきた。



 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!



 「キョーーン!!」



 「ママぁーーーーっ!!」


 母キョンがハンターがライフルで放った銃弾に撃たれて、子キョンの目の前でバウンドして揉んどりうった。


 「ママぁーーーーっ!!立って!!ママぁーーーーっ!!ママぁーーーーっ!!」


 「坊や!!お行き!!ここに来たらあんたまで人間に殺されるのよ!!」


 「やだーーーー!!やだーーーー!!ママと行くーーーーー!!」


 子キョンは、大粒の涙を流してグッタリとして起き上がらない母キョンを鼻面で持ち上げようとした。


 「やめ・・・やめなさい・・・!!行きなさいー!!坊や・・・!!

 私が死ぬ前に・・・おまじないをあげるわ・・・『15センチの風船』よ・・・??」


 「『15センチのふうせん』・・・??」


 「『15センチの風船』が、あんたを導いてくれるわ・・・!!」




 ダーーーーン!!


 ダーーーーン!!



 「きょん?!」


 間一髪、子キョンの頭上にライフルの銃弾が霞め飛んできた。


 「ママ・・・あれ?ママ・・・ママぁーーーーっ!!」


 母キョンは既にこと切れていた。


 「キョーーーーン!!キョーーーーン!!」


 子キョンは涙を流しながら母キョンの亡骸を後にして、全速力で逃げていく仲間のキョン達の群れを追いかけていった。


 

 「キョーーーーン!!キョーーーーン!!」



 人間達の攻撃はまだ止まず、キョンの群れの仲間が次々と、子キョンの目の前で銃で撃たれ、くくり罠に掛かって次々と命を落としていった。


 

 「な・・・何で・・・こんなことに・・・!!何で・・・何で・・・」


 「坊主!!嘆くな!!これは俺らの『運命』だ・・・!!俺らのキョンはな・・・!!ここに居てはならない存在だ!!」


 「ここに居てはならない存在・・・?!」


 子キョンの前方の男キョンの答えに、子キョンは絶句した。


 「そうだそうだ!!ねえ、『15センチの風船』ってなあに・・・?!」


 「『15センチの風船』ねえ・・・」



 ずさーーーーっ!!



 目の前のキョンは、いきなり足元に現れたくくり罠にかかり死んでしまった。


 「もういやぁーーー!!何でこうなるんだァァァァァァ!!!!『15センチの風船』って何だよオォォォォォォ!!!!!」





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