第18話 伏見さんと僕との絆


加藤崇の手記 その2


伏見さんと僕との絆



 今から考えてみれば本当に取り越し苦労なんだと思う。

 崇さんの手記にはあの柚木莉緒の正体について事細かく書かれていた。

 そこには当然、知りたくなかったようなことも……

 でも、おかげであの頃のもやもやとした気持ちをすっきりさせることができて良かったと思う。そして伏見さんと崇さん、それに柚木さんの深い絆に驚かされた。


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 僕が伏見さんのボランティアに参加したのは運命的だったと言える。

 子供のころ東日本大震災で家族を失い、一時期施設で保護されていたことのある僕は里親に引き取られたが、高校を卒業すると家を出た。里親をやってくれた両親には感謝しているし、これから先もずっと身内として付き合いをしていくつもりではあったが、もうこれ以上一緒に住みたいとは思っていなかった。いくら親切に接してくれていたとはいえ、やはり赤の他人には違いない。それよりは短い期間ではあるが、かつての辛酸苦汁を共にした施設の兄弟たちの方がよほど家族に思えた。

僕は中国地方にある今の大学に入学した。そこで子供のころ一緒に施設にいた少女と偶然再会した。彼女は施設にいた頃に多くにボランティアに支えられていたことを記憶しており、その理由もあってボランティア活動に参加しようとしていた。そして偶然見つけたボランティアが伏見さんのサポートだった。

 僕はボランティアを開始するなり伏見さんにとってのお気に入りになった。その理由の一つとして僕が数少ない男性ボランティアだったということが言えるだろう。

 伏見さんの父親は生前に亡くなっていて、一緒に過ごした記憶がない。母と二人暮らしで男兄弟もいなかった。施設にいた頃は男友達もいたようだが、自立しての生活を選んだ伏見さんはそうそう友達と交流に出かけるほど五体満足じゃあない。

 だから僕のことを男友達だか、弟のような存在として皮がってくれたということが言える。それともう一つ。僕が男であるということもあり、特別な任務を受けていたからだ。


 はっきりと言えばその任務というのが、伏見さんの性の処理を手伝うということだ。


 決して変な意味で考えないでいただきたい。要するに体の不自由な彼が日々に行う自慰行為を補助してあげるということだ。さすがにこれは女性ボランティアには頼みにくい事だろう。

 彼のボランティアには僕のほかにもう一人男性スタッフもいたが、そのスタッフ、向井千代丸さんは当時大学三年生だったが正真正銘の童貞で、ゲイではないかといううわさもあった。さすがにゲイだといううわさを聞いてしまうとさすがの伏見さんもなかなか頼みにくいようだった。頼んでもいない余計なサービスまでされてはかなわないと内心怯えていたらしい。

 向井さんの名誉のために言っておくが、向井さんがゲイだというのは単なるうわさに過ぎない。ただ単に童貞であったと言うだけに過ぎない。

 

 僕の担当する仕事を簡単にまとめるとこういうことになる。

 まず第一に、伏見さんの好きそうな作品(言わずもがなアダルト作品)をピックアップしておくということ。そして第二にその映像の再生準備。パソコンで再生可能な状態をつくって、伏見さんの目の前にセットする。そして第三に、彼の衣服を脱がせ、その下腹部を自分でいじりやすいようにしてあげるということだ。そのすぐ手元にティッシュペーパーをセットしてあげて、ヘッドフォンを装着してあげる。そこまで完了したら自分は別室に移動して待機する。

 伏見さんが満足したら僕を再び呼ぶ。そして第四の仕事、それら使い終ったものをかたずけ、衣服を着せるということで完了する。

 これらのことを手伝うということに関して人は少し変な目で見るかもしれない。だが、伏見一輝は二十代男性で、我慢しろという方が不可能であるにもかかわらず、誰かが手伝ってあげなければ自分一人で処理する事すらままならないのだ。

 知らない人は、筋ジストロフィー患者が勃起するということ自体に驚く者もいるが、ちゃんと考えればわかることだ。海綿体は筋肉ではない。したがって健常なもののそれと大して変わらない。なんなら勃起時、下手をすれば筋肉の衰えた腕よりも太くなる。信じられないかもしれないが、体重の軽くなった筋ジストロフィー患者は当然、総体重に占める血液量少ない。それが原因で勃起時にはそこに血流が回りすぎて貧血気味に感じることもあるそうだ。

 だが、この話自体本当に信じていいか怪しいものである。伏見さんのまたひとりの男であり、そのサイズに見栄を張ることもあるという意味だ。彼はこんなことを言いながら自分のサイズがデカいのだとアピールしたかっただけなのかもしれない。


 この役割を僕が担っていたため、僕は極力ボランティアに参加する時間帯を夜中に受け持ち、なお且つその時間帯、なるべく一人で担当するようにしていた。

 だから、伏見さんは僕が一人で担当する夜をとても楽しみにしていた。都合が悪くなって他のボランティアの方に替わってもらった時は翌日、決まったように『昨夜伏見さんの機嫌がとても悪かった。』という報告を聞くことになった。


 そして僕は伏見さんの信頼を人一倍受け、かわいがられたうえに伏見さんの性癖や秘密を握った厄介な存在として君臨し続けた。

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