第五章 隠れ里

 深い森の中。

 最早これまで歩いてきた街道がかなり遠くなってきた所を、フィル達は魔物の襲撃を受けた際に助けてくれた男女に連れられて歩いている。


「なーんでまた、みやこからこんなとこに来てんだ? ここんとこ変な化けもんがたくさん湧いてっから都の方もダメかと思ってたわ」


 先頭を歩く青年は会ったばかりだというのにざっくばらんに話す。

 先ほど名乗りあった時には、クゥという名前と分かっていた。フィル達などのガルハッドの国の人間には馴染みのない響きである。


「ガルハッドの方は比較的魔物が少ない。化け物ってのは、魔物のことだよな?」

「猿みたいなのとか、でかい人型の化け物のことか?」

「そうだ。俺達は魔物と呼んでいる」

「魔物ねえ……」


 クゥがフィル達を先導しているのは、近くにクゥ達の村があるというので、道中寄らせてもらえないかとフィルが願い出たためである。

 ガルハッドなどの隣国と交流が絶えて何十年かの年月が経っているため、村の外の人間を物珍しそうに見ていたクゥ達は、好意を持って接してくれた。


「クゥ……おさに確認してないのに連れてって大丈夫か?」

「大丈夫だべ。昔は都からの行商人なんかがたまに来てたって言うし」

「怒られると思うけどなあ……」

「だから、お前はうるせえんだよ、ジャニス。つまんねえことばっか言いやがって」


 フィル達の前を歩くのは三人。

 一人は、やはりクゥの妹だというジャニスという女の子。

 口数が少なく、フィル達を村に連れていくことに難色を示していたのが、クゥと同年代だと言うスールカという青年だ。


 三人共に、獣の毛皮で作られた被り物ですっぽりと頭を覆っており、森を歩くためにか身軽な装束である。また、その格好もフィル達には目に馴染みのないものだ。

 見るからに狩人、というように三人共に揃いの弓矢と短剣を帯びている。


 恐らくクゥという青年が集団を統率しているようで、フィル達を村に連れて行くことに賛成しているとは思えない他の二人に相手せず、独断で意思決定をしている。

 フィルから見ると三人共に大差ないように齢若く見え、大体カトレアと同じくらいの齢という所だろう。


「こんなとこに人がいるのにも驚いたけど、泊めて貰えるんだったら有難いわね」

「そうだな……しかし、こんな魔物が多いところにある村が無事ってのも妙な話だ。ガルハッドからも結構な距離がある」

「まあ、細かいことは考えなくていいんじゃねえか? こんな森の奥だし、魔物も案外こっちの方までは来てない、とかな」

「だったらいいんだが……」


 当たり前のことだが、リコンドールの町を出てからずっと野営だったため、一晩の宿を貸して貰えると聞いて、ディアなどは特に上機嫌である。

 不可解な点も多いが、ゴーシェも状況を受け入れているようだ。


(まあ、村に案内してくれると言うんだ……落ち着いてから詳しく聞けばいいか)


 この一帯の状況を確認できる機会だとフィルは思い直し、前を歩く者達に続く。


「しかしクゥ達は何であそこにいたんだ? 森の奥に住んでるというが、あそこは昔の街道沿いだ」

「ん? ああ、ここ最近化け物がこっちの森の中にまで入ってくっからよ。村のもんでかわりばんこに見回ってるのよ」

「まさかお前らも魔物と戦うのか?」


 クゥの言葉に少し信じられないという気持ちでフィルは言葉を返す。

 見た限りクゥ達の武装は魔剣ではなく、たった三人で魔物と戦えるとも思えない。


「当たり前だべ。あんまり数が多くなかったらな。さっきみたいのはダメだ」

「そう言っても、あの数が森に入ってきたら、流石に村も危ないんじゃないか?」

「そりゃあ、アレだ。守り神様が化け物を殺してくれっから」

「守り神?」


 またも聞きなれない言葉だな、とフィルは思う。


「ここの森は守り神様が守ってくれんのよ。俺達はその手伝いをしてるってわけだ」

「守り神ってのは一体何だ?」

「森にずっと住んでる狼の守り神様だ」

「狼だと?」


 フィルの頭には、魔物に襲われた時に現れた巨大な狼の姿が蘇る。

 以前仕事をした時に人を襲うことも分かっているし、魔物であることを確認しているため、クゥがそれを指して言っているとも思えない。


「まさか、巨大な狼のことじゃないだろうな?」

「んだ。ってかまさかおめえ、守り神様を見たのか?」

「さっき魔物に襲われた時に見たが。クゥ達が出てきた方に消えてったんだが」

「うへー本当か! 守り神様が人前に現れるなんて珍しいこともあるもんだなあ!」


 クゥの言によると、にわかに信じがたいがフィル達が見た狼型の魔物――ワーグ、それがクゥ達の村の守り神だという。


「お、おい本当にそれが守り神なのか? 俺達は魔物だと思っているんだが」

「ははっ、何言ってんだべ。お前、守り神様と化け物を一緒にすんでねえ」


 真偽を確かめようと少し上ずった調子になったフィルの言葉は容易に否定される。


「それとな……」


 足を止めて振り返り、じっとフィルを見据えるようなクゥの眼差し。


「村でそんなこと言うもんでねえぞ。殺されちまっても仕方ねえ」

「お、おう……」


 ゆっくりと舐めつけるような視線の後に、引きつるようなフィルの顔を見て笑うと、クゥは再び歩き出した。他の二人も少し視線を残すと、後に続く。


「おいフィル、何か雰囲気がおかしくないか? 魔物の村とかじゃないだろうな」

「いや、どう見ても人間だろ。考えすぎだ」

「だったらいいんだけどね……」


 ゴーシェやディアもやり取りの間に口を挟まなかったが、フィルと同じような違和感を感じていたようだ。

 ワーグが魔物であることは三人共に確認済みであり、以前廃村で出会ったワーグと、先ほど出くわした巨大な狼はどう見ても同一種のものだ。


 フィル達は杞憂であればと思いながらクゥの後を追っているものの、後ろを歩いてこちらの会話には混ざってこないトニとカトレアは能天気にお喋りをしている。


「というかまだ着かないのか? すぐ近くと言っていたが、もう随分と歩いている」

「もうちょいだ。まだちょっとしか歩いて――」

「止まれ」


 前を歩くクゥが顔だけをこちらに向けて返事をした所で、前方から聞き覚えのない鋭い声がかかった。


「……クゥ、どういうことだ。何だそいつらは」

「お、親父!」


 見ると、前方の木陰から突如現れた複数人が矢をつがえてこちらに構えていた。

 クゥの父親という男が正面に立つ。


「おいフィル、こりゃあ――」

「動くなと言っているだろうが」


 急に矢を向けられたフィルとゴーシェが構えようとした瞬間、左右の木陰からも同じように弓を構えた男たちが現れ、フィル達に向けて矢を引き絞っている。

 為す術もなく両手を上に上げるが、後方にちらりと顔を向けると後ろにも同じような姿の男達がいた。完全に囲まれている。


「ちょ、ちょちょっとどうするの、フィル?」

「……トニ、黙っとけ……お前も気付かなかったか? ゴーシェ」

「ああ、全く気付かなかった」


 森の中であれば、野生動物の存在も音や木の動きからいち早く察知するゴーシェが、まさか隠れ潜む人間に気付かないとは思えない。フィルにも他者や敵などから向けられる意識を察知できる力があるが、同様に敵の気配には気付いていなかった。


「かなり森に慣れた奴らだな……」


 現れた男達がどれもクゥ達と同じような装束を纏っているのを見ると、恐らく村の人間だろう。しかし今、明らかに敵対心を向けている男達を見ると、少なくとも歓迎されていないことだけは分かる。


「主ら、何者だ。ここらに里の人間以外の者がいるはずがない。まさか化け物の仲間ではなかろうな?」


 面と向かってフィル達と対面した集団の中から、クゥの父親らしき男が進み出る。

 先ほどフィル達が思っていたようなことを逆に言われてしまう。


「親父! こ、これは……」

「黙っとれ、クゥ」


 男はクゥ達の三人を手で退けて道を作ると、真っ直ぐとフィルの前に歩いてきた。


「面妖な。お前らから化け物の臭いがする。それと――守り神様の臭いも」

「フィル!」


 二人並ぶフィルとゴーシェの目の前に立った男は、クゥと同じような獣の毛皮の被り物のその奥から、怒りとも言えないが鋭い視線を遠慮なくぶつけてくる。

 後ろからのトニの声には、制止するようにと手だけで返事を返す。


「旅の者といった様相だが……この辺を歩く人間などここ数十年いない。怪しいな」

「待ってくれ。俺達はガルハッド国王の命で、山人の国――ミズールバラズに向かっているところだ」


 相手の息遣いも分かるほどの距離で話す男に、フィルは素性を明かそうとする。


「山人の国だと……? 何を言っている、山人の国への道は化け物の巣窟だぞ。それにガルハッド国と言ったか、北の都だな」

「ああ、そうだ。北から来た」

「北の道も大分化け物が多い……五人で来れるとも思えない。それにその臭い……」


 頭の先から足の先まで、まるで体の芯を見透かすような眼差しで、男はフィル達を観察し続ける。

 その男が、フィルの腰に帯刀している刀剣に止まった。


「北の方は魔物が少なかった。ここに来たのは魔物の群れに襲われている時に――」

「おいフィル!」


 男の問いになるべく忠実に答えようとフィルが返していた言葉は、横にいるゴーシェの叫びにより止められた。


 フィルの首元で静止する刀身。

 言葉を遮ったゴーシェの叫びは、フィルが帯刀している刀剣を目の前の男が瞬時に抜き出し、首を飛ばさんとする一閃を目にしてのことだった。


「なるほど、この剣か……となると――」


 一人、得心とくしんがいったような顔になった男は、言葉の途中で体の向きを変えてゴーシェの腰の剣を抜き出す。


「こちらが守り神様の臭いの理由か」


 抜き出した刀剣を静かに見つめる男。

 その男の守り神・・・という言葉は、明らかにゴーシェの刀剣を指していた。


***


 フィルは先ほど森の中で対峙した男――この村の長であるファングという名の男の家に、一人招かれていた。


「なるほど、話は分かった」


 木の卓を挟んで座るファングが、フィルの話を聞き終えて頷く。

 招かれていると言っても、武装はファングの部下と思わしき男たちに回収されており、ゴーシェなどの他の四人も同様に武装を解かれ、別の建物に連れて行かれた。要するに人質だ。


 フィルは嘘を言っても仕方のない状況であるし、特に嘘をつく必要もないと思ったため、なるべく確実に事実に沿うように話していった。

 目の前の男――ファングの反応は、良かったと言えるだろう。


 先ほど森の中で囲まれた時にあった緊張感も、今は「クゥを息子だと言っていたが、大分喋り方が違うんだな」なんて感想を心の中で呟くくらいの余裕はある。


「解せない点がある。我等の守り神様――お主はワーグと呼んでおったが、守り神様が村で人間を襲うとは到底考えられない」

「しかし、事実だ。ここからかなり北の方だが、廃村がある。そこにいけばワーグの死体もある。行きにも見てきた」

「残念だが、そこに行って確認することはできん。我等には……やる事がある」


 フィルの話は納得できたというような態度を今でこそ取るファングだったが、ここにきて歯切れの悪い喋り方をする。


「ひとまず、これは返しておこう」


 そう言って、フィルの刀剣を卓上に置いた。


「納得してもらえるのは有難いが、さっきまで警戒していた割には随分とあっさりしているな」

「時期が時期だけにな……我等は隠れ里に住んではいるが、外との交流を経っていたわけではない。化け物共が現れるまでは、北の国――ガルハッドや山人の国の行商人なども、たまに里に訪れていた」

「そうなのか。時期ってのは何のことだ?」

「それは里のことだ……今日はいいだろう。客人に宿を貸す。案内の者を呼べ」


 説明を聞いてから、ファングの雰囲気は徐々に柔らかくなっていった。

 村に入ったあたりからそんな様子であったため、もしかしたら最初から人間であるフィル達のことは然程危険視していなかったのかも知れない。

 ファングが部屋の中にいる部下達に声をかけると、男達は警戒を解いて部屋を出て行った。


「仲間の者の所にも案内させよう。しかし、やはり面妖だな。化け物の力を奪い取る武器とは……魔剣と言ったか。これは我等にも扱えるのか?」

「ああ、多分な。詳しい奴がいるから説明させようか」

「そうだな、明日にでも頼む。警戒していたとは言え、手荒いことをしてすまなかった。旅の疲れもあるだろう、今日は休んでくれ」

「すまない。お言葉に甘えさせてもらうよ」


 そんな会話をしていると、先ほど部屋を出て行った男が戻って来た。


「案内します」

「それじゃあファングさん、また明日。宿を貸して貰えて感謝してるよ」

「ああ。気にするな」


 簡単な挨拶だけで済ますと、建物の入口で回収された武具を返してもらい、案内役の男に従って村の中を歩いていった。


「フィル! よかった、無事で!」


 フィルと別れたゴーシェ達が連れて行かれた建物に行くと、皆すでにフィルと同じように荷物などを返してもらっていたようで、トニが声をかけてきた。


「ああ。思ったよりすんなり納得してもらえたよ」

「いやーびっくりした。危ない旅だとは思っていたが、まさか同じ人間に殺されるんじゃないかってヒヤヒヤしたぜ」

「本当ですね……」


 軽口を利いているようなゴーシェだったが、言っていることは至極全うだ。魔物にならまだしも、人間に殺されていたら世話はない。

 先ほど、森の中で囲まれた時から言葉を発していなかったカトレアなど、未だに青い顔をして消え入りそうな声で呟いている。


「すまんかった、フィルさん。まさかここまで警戒してるとは思わなかったもんで」

「父がすいません……」


 ゴーシェ達がいた建物には、クゥとその妹のジャニスが来ていたようだ。

 村まで案内した時には被っていた毛皮は脱いでいるようで、クゥは跳ねっ返り放題というような黒髪を、ジャニスは意外にも村の女の子というような大人しく後ろで編んだ黒髪を、それぞれに見せていた。


 村に誘ったものの、待ち伏せのような形でフィル達が捕まったことに少し後ろめたいような気持ちでもあったのだろうか、悪びれた様子だ。


「いいってことよ。こんなとこにある村だからな、そりゃ警戒もするだろ」

「ゴーシェさんは話が分かるじゃねえの。美味いもん出すから許してくれ」

「お、飯も出してくれるのか。そりゃ助かるな」

「色々と、都の話とかも聞きたいからな。そんじゃ俺が宿に案内すっから」


 早速という様子で、クゥとジャニスが建物の外に出て行き、フィル達も後を続く。

 村に来るまでに一悶着があったため、外は夕暮れ時の時分となっていた。


 改めて村を見ると、深い森の奥にある村にしては比較的大きい集落だった。

 村の人間は、先ほどのファング達のような狩人のような格好をしている者もいれば、普通の村人のような格好をしている者もいる。しかし、村の外から来たフィル達が珍しいのか、皆一様に動きを止めて、フィル達を見ていた。


「ああ、それとディア」


 クゥの後に続いて歩きながら、フィルはディアに声をかける。


「ファングさん――さっき会ったこの村の長が、魔剣のことを聞きたいそうだ。明日にでも行くから付き合ってくれ」

「分かったわ……私も、この村の人達のことがちょっと気になるから、丁度いいわ」

「気になるってのは、何のことだ?」

「……それも、明日話しましょ」


 酷く疲れた様子のディアが話をすぐに打ち切るが、無理もない。

 フィルも先ほど生死が危ぶまれた時には、内心では完全に狼狽していたからだ。

 積もりに積もった旅の疲れもあり、皆明るく振舞うがへとへとなのだろう。


「ここを使ってくれ。都の人間から見たらボロ屋だろうが、一応は使える」

「いや、雨風を凌げるだけでも助かるよ。それに随分と綺麗な建物じゃないか」

「空家だったけど、使えるように掃除はしといたからな」


 クゥが案内した家屋は、村の中にある他の家と変わらないほどのものだった。

 遠慮なく扉を押し開けるクゥに続いて入ると、家財などはほとんどないものの、確かに管理が行き届いているようだ。


「旅の泥を落とすべ? いるんだったら湯を用意させるけど――」

「はいはい! 必要です! 助かるわあ」


 クゥが体を拭うための湯を用意するかを聞いたところで、急に元気になったディアが凄い勢いで返事をする。

 ここまでの旅の行程で、水場を見つけた時に簡単に体を拭っていたが、皆一様にかなり汚れが溜まっている。ディアやカトレア、それにトニも不満こそあげなかったものの、当たり前だが気にはしていたのだろう。


「じゃあちょっと待っててくれ。飯はその後だな」


 女達は奥の小部屋に三人で入り、フィルとゴーシェは特に気にせずにその場で、用意された湯で体を拭った。ファングが気遣ってくれたのか、有難いことに替えの衣服まで用意してくれた。カトレアなどは「明日に服を洗いますね」と嬉しそうにしていたものだ。


 久々にさっぱりとした面々に、クゥとジャニス、それに二人と一緒についてきたスールカも混ざり、これも久々にゆったりとした夕餉を取ることになった。

 村で作ったと言う酒も振舞ってもらい、ゴーシェも満面の笑みになっている。


 運び込まれた料理も、予想していたものよりかなり豪奢なもので、流石に狩人の村ということもあり、鹿肉や鳥肉を炙り焼いたものなどが出された。


「いやー、こんな所で休息が取れるとは思わなかったな。本当に二月歩き尽くめかと思ってたぜ」

「その予定だったけどな。しかし、助かるな」


 すっかり気を良くしたゴーシェは、すでに同じように酒が回っているようなクゥと意気投合しているようだった。


「フィル、ここで数日滞在させてもらえないかしら。色々気になることがあるの」


 ディアも久々の休息に流石に安堵した様子で、そう言う。

 幸いなことに今日のファングとの話では、向こうもこちらに用があるようだったので、無碍には断られないだろう。


「明日ファングさんの所に行くときにでも聞いてみよう」

「是非、居てください。山人の国に行くと聞きましたが、ここからの道中もかなり険しいと思います」


 声を返すフィルに、クゥの妹――ジャニスも顔を綻ばせて好意的に声をかける。


「そうそう、都のことも色々教えてもらいたいしな!」

「俺が何でも教えてやるよ! いやー、この料理も懐かしくていいな。狩人だった時のことを思い出すぜ」


 すっかりと気が合った様子のゴーシェとクゥがやんややんやと騒ぎ出す。

 ふと、そういえばゴーシェが狩人だった時の話はあまり聞いたことがなかったな、とフィルが思う。


「そういや、ゴーシェの狩人の話はあんま聞いてないな。というか、お前本当に狩人だったのか?」

「何度もそう言ってるだろ! もっとも俺の村はここより大分ガルハッド寄り――森に入ったあたりの場所だったから、こんな感じの所じゃなかったけどな」

「お、ゴーシェさんも狩人だったか。じゃあ明日一緒に狩りにでも出るべ」


 酒の勢いもあってか、場はすっかり盛り上がっていた。

 トニやカトレアはそんな様子を見ながら微笑んでいるだけで大人しかったし、クゥと共に来たスールカも話は聞いているようであったが黙々と食事をするだけでやはり寡黙だった。


 騒ぎ立てるゴーシェ達の雰囲気につられてか、皆一様に疲れを忘れたように食事を楽しみ、その晩は静かな夜を過ごした。


 フィルも同様にゆっくりと眠りに入るために、今後の道程などの考えを忘れる。

 ――村の外から感じる、何らかから向けられる視線のような気配を除いては。

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