真矢 夢の邂逅

受け入れ難い光景が広がっていた。


既に見慣れつつあるあの青髪の彼女、そして何故か彼女が凶器……銃口をこちらに向けている。


味方じゃなかったのか、そう言いたいがやはり口は開かない。

そして例の如く代わりに自分が口を開く。


「いい加減、これで最後にするぞ」


何をだよ、自分に聞きたいが答えてくれるわけもない。


「いいけど、死ぬのはあたなだから」


状況についていけず混乱する中、冷静に自分はポケットからモノを取り出す。


これは……手紙?


かろうじてそれを認識した頃には、既に意識は離れかけで、自分にメッセージを送られることも、ヒントを得ることもなかった。




「…………」


意識が戻る。電車の振動が耳に、体に伝わる。


ガタンゴトン ガタンゴトン


平日の11時だと人は少なく、自分以外は5.6人程度がバラバラに座る程度だった。


ガタンゴトン ガタンゴトン


揺られる度に何かが溢れそうになる。

理性が吹き飛んで何か別のものになってしまいそうになる。


ガタンゴトン ガタンゴトン


夢を思い出す、最初の夢とは正反対だ。

どうして敵同士なんだろうか、それとも喧嘩なんだろうか。


次は〇〇、〇〇です。


聞き覚えのない駅名が聞こえる。ここが目的地だ。


電車を降り、ホームで辺りを見渡す。

降りた乗客は自分だけで、駅に人影も見当たらない。

線路の向こうはと言うと、人気の感じられない住宅街。

もちろん人は住んでいるんだろうけど、風化して色あせた家と静寂からは寂しさしか感じなかった。


足音を立てるのも億劫になって、できるだけ静かに改札を出る。

スマホを取り出しマークした場所を見る。


徒歩10分


バスも出ていないようだし、10分間寂しさと過ごすことにした。






左方向、10mです。


ナビの無感情な声に従い、左を見る。

錆びて使い物にならなくなったフェンス、サバンナのように荒れた敷地、あちこちが蔦に絡まれている工場らしき建物、そして―――


「倉庫……」


小さく声に出す。

静寂のせいか、何度も頭の中で自分の声が繰り返される。


呆然と立ち尽くしていると、物音がした。


倉庫の方から?


まさか本当に、夢の人間たちが根城にしているのだろうか。


不安と期待を8:2くらいの気持ちで、歩みを進める。

夢で見たままの、鉄の扉があった。

重そうな扉は案外滑りがよく、不自然な程あっさりと開いた。




感想を一言で言うなら、小学生の秘密基地だった。

寝袋が無造作に置かれ、真ん中にはちゃぶ台と座布団、ソファ、統一性の欠片もない空間。

そしてどこから引っ張ってきたのか、まだ生きていそうなテレビとラジオ、固定電話。

まず人が暮らしているのは間違いなかった。

壁に沿うようにして置いてある小さいコンテナのようなもの、どこから開けるのだろうか。


これ以上中を調べても何もなさそうなので、とりあいず外に出てみる。

先と全く変わらない寂しい景色、人が来る気配が不自然な程ない。

廃工場に近寄る人間なんて いる方がおかしいだろうが、住宅街の真ん中にぽつんと取り壊されずに残っているのもおかしな話だ。


考察にふけっていると、フェンスを乗り越える音がした。


まずい


直感的にそう感じて、倉庫の裏側に回る。

学校をサボっているという意識と、何となく立入禁止のような予感から、人に見られるのは避けたかった。


こちらの姿が見られないようにこっそりと向こうの姿を伺う。


「………え?」


思わず素っ頓狂な声が洩れた。

女子高生だ、いや大学生かもしれないけど、とにかく私服の未成年の女子が早足で倉庫に向かっている。


意識せずに深く観察していることにはっとし、駆け足で女子が入ってきた方とは逆側のフェンスから逃げ出すように去っていった。

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