第2話 彼女と電話すると猫が病むんだが

ハルは大学で知り合った。ペット禁止のワンルームマンションに暮らしている。実家はご家族が動物苦手なので、動物と暮らすのが夢らしい。僕の自虐を交えた猫の奴隷エピソードを面白がってくれる。うちに遊びに来て、モモにつれなくされるので、モモに避けられてることは自覚があるみたい。

読んだ本、面白かったネットの話、共通の友人の話、僕らに話すことはいくらでもあった。

「通知にすぐ気がつけなくてごめんね」

「いいよー、寝てたら私も気が付かないよ」

「また、遊び行こう」

「そうだねー。モモちゃんによろしくー」


ベッドに寝っ転がって、ハルと電話してた僕は、エアコンを止めて起き上がった。

なんかいる。ドアが少し開いて、モモの尻尾だけこっち入ってる。お尻も見える。


「モモ、冷気逃げるじゃん。ドア開けてもいいから、閉めてよ」

「別に。私は、たまたまここに居たかっただけで、ドアを開けたかったわけじゃないですけど?」

「それは無理があるでしょ」

「まだ猫の思考がわからないのね」

「ネトゲの作業は全部丸投げしてるモモに言われたくないんですけど」

「させて頂いているって理解できないの」

「したくないですけど」

「これだから万年発情期のニンゲンって問題よね」


モモの機嫌が悪い。パンデモニウム・ファンタジー・クエスト18で、やりたいことでもあったのかな。たしかに長電話してれば、PCのログインとか色々出来なくてイライラしたのかもしれない。


「モモ、遊んでやれなくて悪かったよ。電話しながらは無理なの分かるよね?」

「あなたまだハルと付き合ってるの?」

「そうだよ。どんだけ仲良しか聞きたい?」

「夫婦喧嘩は犬も食わないし、彼女の惚気は猫も食わないのよ」


捨て台詞を残して、モモは部屋を出ていった。「あの女が憎い。私達の時間を奪うあの女、あの女がいるせいで!!」と、モモがストレス解消に、母さんのシルクのスカーフをズタズタに切り裂いたのを、僕はまだ知らない。後日、母さんに「モモちゃんの手の届かない場所に置いておいたのに、なんでこうなったのかしら。モモちゃん良い子なのにね」って、半泣きで不思議がられてやっと気がつくことになる。


機嫌のなおったモモに、「あたしとハルどっちが好き?」ってきかれて、「モモは家族だから愛してるよ」「ハルは社会に出て稼げるようになって、はやく家族になりたい人かな」って正直に答えたのに、超噛まれた。あと、後ろ足でザックリ切られた。お医者さんで縫ってもらいました。


知ってる人は知ってると思うけど、シンガプーラの爪は細くて固くてよく切れるんだ。モモは柱で牙を磨き、爪とぎで爪を研ぎ、いつでも戦える状態を保つ猛獣です。


武闘派でゲーム廃人の猫と暮らしています。でも、モモのビョーキはこんなもんじゃなかったわけで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る