第3話

 次の日、二日酔いの頭を抱えておれは花園神社の裏手にある雑居ビルを訪れた。明後日でもいいとは言われていたが、特にすることもないし、なによりオトタチに会いたいというのが本音だった。名刺の住所のビルには看板が出ていなかった。

 薄暗くせまい階段を3階まで上ると、グレーの重そうな鉄のドアに

「天の御柱芸能社」

 とプレートが貼られていた。

 大丈夫か?と思いつつおれはドアをノックすると

「はーい」

 と透き通った声がしてドアが開いた。

「もう来てくれたんだ。ありがとう。昨日はだいぶ酔ってたみたいだけど大丈夫?」

 そういってオトタチはおれを中に招き入れた。彼女はブルーを基調としたチェックのワンピースを着ていた。ノースリーブなので、白い肩がまぶしかった。

 中は20畳ほどの広さだ。部屋を入るとすぐに応接セットがあり、その向こうに机が3つ置かれていた。そのほかには何もない。やけにがらんとしている。

 向かい合わせになっている机の、俺から見て左手には40代くらいの女性が座って事務をとっていた。右の机はオトタチのものだろう。その奥の、窓を背にして正面を向いている机にはスーツ姿の男性が座り、書類に目を落としていた。

「竹見専務、大山武雄さんいらっしゃいました」

 竹見と呼ばれた男性は顔を上げた。その顔には立派なあごヒゲが蓄えられ、意志の強そうな眉毛が印象的だ。髪型は長髪をオールバックにして、後ろで束ねた独特のものだった。その髪型を除けば、社会の教科書に載っていたリンカーンにそっくりだと思った。

 竹見専務はおれを見たとたん相好そうごうを崩した。

「やあ、どうも、わざわざありがとう。私専務の竹見と申します。まあ、そこに座ってください。大月おおげつさん、お茶入れて」

 大月と呼ばれた中年の女性もおれにあいさつをし、お茶の準備をするために席を立った。専務は立ち上がっておれに近寄ってきた。身長180センチはあるだろう。しかもかなりがっしりとした体つきで、非常に高そうなスーツを着ている。彼はテーブルをはさみ、おれと向かいあってソファに腰を下ろした。

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