第44話 モブキャラだって部活ぐらいする2

ここは「主人高校」、物語の主人公になるようなやつらがうじゃうじゃしているのだ。

対して、何の特別な力を持っていない僕たちモブキャラも少なからずそこに存在する。

そんな学校であるここならではの問題点、それが


モブと主人公の能力差である。


部活動一つとってもその差は顕著に表れる。

主人公たちは人間離れした身体能力や技術を当然のように持っているが、僕らモブキャラはそうじゃない。

スポーツだろうと、音楽だろうと、芸術だろうと決して彼らのレベルにはたどり着けないのだ。

だからこの学校ではモブキャラは基本的に部活に入らない。

入っているとしても、試合などには一切出ない、なぜなら勝負にならないからだ。

主人公に蹴散らさられるだけの存在、それが部活におけるモブキャラの役割である。

そしてそれをわかっていない人間もちらほらいるのだ。


あのシュートを見た後もキャプテンの翼に

「シュート技は難しくても、さすがにドリブルで分身くらいはできるよね?」

と笑顔で言われ、サッカー部の厳しさを理解した憧は、体調が悪くなったと適当な嘘をついてサッカー部の見学から抜け出してきた。

そう、彼ら主役は自分たちができることは、世間一般的にみんなできると考えているのだ。

もちろんそんなわけはない。


「サッカーなんて人間のやるスポーツじゃねぇよ!」

先ほどまで、サッカー部のエースを狙っていた男が、いけしゃあしゃあとそんなことを言っていた。

まぁボールから炎が出るのが当たり前、みたいな超次元サッカーの世界に突然一般人が放り込まれればこうなるだろう。

あのままあのサッカー部に入っていれば憧はきっと、生きて戻ってこれなかっただろう。

主人公が集まるこの学校で部活をするということは、それ相応の生き残る覚悟と能力が必要なのだ。

少々荒療治だが、これでこいつも部活動の危なさを理解してくれるだろう。

「これでわかっただろ?この学校で部活をやっていくのには相当な覚悟がい」


「やっぱ高校生の青春といえば野球だよな!」


「・・・」

ぜんぜんわかってくれていなかった。

「・・・あれを見てよくまだ部活に入りたいだなんて言えるな・・・」

「あれはサッカー部が特別おかしいだけだって!流石にあんな滅茶苦茶な超能力ショーをしている部活は他にないだろ」

「そうだといいがな・・・まぁお前が納得するまで付き合うけどよ・・・」

「まぁ任せておけって、実はこう見えても俺はパワプロ2018で50回以上甲子園優勝してんだぜ・・・」

「その情報でお前に何を任せられるんだ・・・」

こんなことを言っているが、果たしてこいつのメンタルはこれから襲い掛かってくる現実に耐えられるのだろうか。

と、そんなことを話しているうちに野球部のグラウンドに着いた。

フェンスの向こうでは球児たちがさわやかな汗を流しつつ、練習をしている。

人数は10人前後といったところか、思っていたよりも少ない。

だが、部員一人一人がしっかり声を出しているため、人数の割に活気があるように感じられる。

と、ここで憧が急にソワソワし出した。

「そういえば・・・急にアポなしで来ちまったけど大丈夫か・・・?」

こんな時期に部活に入ろうと意気込む割に、こういうところで気を遣うのがコイツだ。

「大丈夫だ、ここの部長とも知り合いだから話はつけてある」

「そうなのか・・・お前って意外と顔が広いな・・・」

フェンスの外でコソコソと話していると


「おーーーーーーーーーーー!そこにいるのはモブか!?」

バカみたいにでかい声が聞こえてきた。

フェンスの向こうから、無造作なヘアの背の高い男がこちらに向かって大きく手を振りながら走ってくる。

「あれがこの野球部のキャプテン、三年生の『茂野 雄馬』先輩だ」

「へぇ・・・あれが・・・」

キリッとした爽やかな顔立ちに、服の上からでもわかる鍛えられた体、まさしく高校球児という感じの人だ。

何となくだが、この人は幼稚園の頃にデッドボールが原因で父を亡くし、卒業後にメジャーに生きそうな顔をしている、あくまで何となくだが。

こちらの近くまで来た茂野先輩が憧に向かって手を差し出す。。

「へぇ・・・お前ががモブの言っていた体験入部希望者か!俺はキャプテンの茂野だ!よろしく!」

「は、はい!2年の夢見 憧といいます!今日はよろしくお願いします!」

茂野先輩の大きな声に気圧されたのか、憧はどこかぎこちないように見えた。

そんな憧に対し緊張をほぐすために茂野先輩は豪快に笑いながら憧の肩を叩いた。

「はっはっは!そんな緊張しなくてもいいぜ!今日はあくまで体験入部だしこの部活の雰囲気さえ知ってもらえればそれでいい!」

「いや・・・でも俺ホントに野球初心者で・・・全然やったことないんですけど・・・」

「大丈夫だ!野球を好きだって気持ちさえあれば、どんな奴だってこの部は歓迎するぜ!」

なんだか数時間前にも同じようなセリフを聞いた気がする。

憧も俺と同様に先ほどのサッカー部のことを思い出したらしい。

「もしかして・・・高校野球って燃える魔球とか、消える魔球とか投げれなきゃだめ・・・ですかね・・

おずおずと茂野先輩に聞いてみる。

対して茂野先輩は

「アッハッハッハ!!何を言っているんだオメェは!面白れぇな!」

爆笑していた。

「で、ですよねー!スポーツでそんなこと起こるわけないですよねー!アッハッハッハ!」

憧も先ほどの非現実的現象を忘れようとする一心で笑った。

そう、現実的に考えてボールが燃えたり、凍ったりすることなんてありえないのだ。

この野球部は先ほどのサッカー部と違いそこら辺の世界観がちゃんとしている。

憧も安心したのか、さっきよりも表情が明るい。

「モブ!俺この部活ならやっていけそうだ!」

「・・・そうか・・・よかったな」

俺は憧の無邪気な喜びように、そっけない返しをしてしまった。

なぜなら、俺はこの時点で予感してしまっていだのだ。

この高校の部活がそんな普通のわけがないと。


その後、30分ほど練習を見たが、その内容は普通の野球部の練習そのものだった。

バッティングにノック、投球練習など特に変わった様子もない。

スポーツ漫画にありがちな、特殊なギプスをつけた練習や、地獄の千本ノック、真夜中のフライ処理などは行われていない。

いたって常識の範囲内の練習をしている。

だが普通とはいえやはり真夏の炎天下で行われる高校野球の練習は、相当に厳しいものだ。

「すげぇ・・・よくこんな暑い中あそこまで動けるな」

思わず口から感嘆の言葉が出た。

先ほどまで安心しきっていた憧も、若干不安になってきたようだ。

「ひぇ~・・・やっぱ野球部の練習ってキツそうですね・・・俺耐えられっかな・・・」

「んあ?なんだそんなこと気にしてんのか?」

「は、はい・・・俺今までちゃんとしたスポーツ系の部活やったことなくて・・・ついていけるか心配です」

「ハッハッハ!安心しろ!俺らにはあの人がついてるからな」

「「あの人・・・?」」

俺と憧は同時に声を上げた。

「ああ、俺たち主人高校野球部は今まで長いこと予選敗退が当たり前の弱小チームだったんだ・・・でもあの人がこのチームに来るようになってからすべてが変わった」

「へぇ・・・」

そういわれると確かに、この高校の野球部の活躍を聞くのは最近になってからのような気がする。

「あの人がこの部活に来るようになってから、部員全体の能力が飛躍的に向上したんだ・・・まぁ何人かいなくなったりもしちまったが」

「え?どんな人なんですか?もしかしてめちゃめちゃ厳しい鬼コーチとか・・・?もしそうだったら素人の俺が耐えられるか心配で・・・」

「ハッハッハ!そんなんじゃねぇよ、あの人にかかっちまえばどんな素人も一瞬で上手くなっちまうんだ」

「・・・そんなうまい話あります・・・?」

俺は思わず懐疑的な眼で見てしまった。

フィクションでもそんな簡単に野球がうまくなるような話を聞いたことがない。

「フ・・・俺も初めは信じられなかったが今じゃこの人に任せれば全部大丈夫っていう安心感を持てる人なんだ・・・」

「へぇ・・・いったいどんな人なんだろう・・・会ってみたいな・・・」

憧が目を輝かせて呟く。

「おっ、それならちょうどいい。確か今日も部活に来る日だしそろそろ・・・おっ来た来た!」

部長の目線を追うと、そこには一人の男がいた。

ちょうどグラウンドの出入り口から入ってきたようだ。

「紹介しようこの人こそ俺たち野球部を強くしてくれた・・・



ダイジョーブ博士だ」



「ワタシ、どいつカラ来タダイジョーブ博士デース」



「安心感の欠片もねぇ!!」



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