第39話 戦隊ヒーローだって修行くらいする2

まさか世界を救う戦いの最中に二人もイッてたなんて誰が信じるだろうか。

だがこれは恐ろしいことに事実なのだ。


「なんで戦闘中に全裸になっているんですか!?」

「なんで?フッ・・・理由なんてないさ、まぁあえて理由をつけるなら・・・風になりたかったから・・・あと逮捕されないようにしながら誰かに裸を見られることが性的に興奮するから・・・かな」

「100パーセント後半の理由でやってますよね!?」

「フン・・・心配せずとも俺のスピードなら警察が来る前に着替えることは余裕だ」

「いやアンタが逮捕されるかどうかは心配はしてない、むしろ捕まってほしい」

悪というのは以外に身近にいるもんだ。



「次は僕だね・・・」

グリーンがおずおずと話し出す。

まぁこいつは少し腹黒いこと以外は普通だし、そんなに気を張らないでもいいだろ・・・


「実は僕三流グラビアアイドルのSNSを炎上させるのが趣味なんだけど」

「何そのとてつもなく暗くて嫌な趣味」

やっぱこいつもおかしかった、初登場したときはただの地味キャラだったはずなのに。

「あ、安心してください、ちゃんとしょうもない地下アイドルもSNSも炎上させてますよ」

「いや何も安心できないんですけど、俺が何を心配した思ってるんですか?」

しかもこんな邪悪なことを笑顔でさらっと言っているのがまた怖い。

「で、最近レディ・ダークの公式ツイッターを見つけたんですよ」

「いや、まずなんで悪の幹部がツイッターやってんの」

後でから聞いて分かったことだが、フォロワー数300人くらいのなんともいえない微妙なアカウントだったらしい。

「僕・・・そのアカウント見たら無性にうずうずしちゃって・・・クソリプ送りまくってさらに偽アカウントまで使って炎上させたんですよ、ハハッおもしろいでしょ?」

「あれ?この人が一番邪悪に見えてきた」

「で、この前戦闘でレディ・ダークの顔を見たとき、ツイッターの画面の向こう側であの強気そうな女幹部が泣き顔になっていると思うと興奮して・・・



戦闘中にイッちゃいました・・・」

「結局イッてんのかイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」



グリーンのは他の二人のとは違う、異質な気持ち悪さを感じた。

「あの人の泣き顔想像するとリビドー感じちゃってハハハ」

「ハハハじゃないですよ!ヒーローがめちゃめちゃ陰湿なストーカーみたいなことしないでくださいよ!」

「いやぁ・・・僕みたいな何の特徴もないクソみたいな人間はこんなことにしか楽しみを見出せないんだよ、ハハハッ」

「うわ・・・しかもリアクションとりづらい自虐まで言い始めたよ・・・面倒くさ・・・」

一番の安パイが一番の地雷だった。

グリーンはマスクをかぶっていて顔は見えないが、間違いなく顔は笑っていないことはわかる。

というかこの人はなんでヒーローになれたんだろう・・・。



「次は俺の番だな」

「はぁ・・・」

「いやため息早くない?」

「いいですよイエローさんは・・・どうせコ○イチの10辛が食べられないとかそんなしょうもない感じでしょ?」

「いや確かに悩んでいるけどそこまでしょうもなくないよ!?」

イエロー・・・この人の悩みはどうせカレーがらみだし聞き流すだけでいいだろう。

やっと少し休憩ができそうだ・・・そんなことを思いつつイエローの話に耳を傾けた。

「このまえ居酒屋に行った時のことなんだがな・・・」

ああ・・・やっぱり食べ物関連か・・・

「ちょっと飲みすぎてトイレに行こうと思ったんだ、で・・・居酒屋のトイレってたまに男女共有のとこがあるじゃないか」

ん?何の話だ?少し予想と違うような・・・

「俺よりも先に美人な女の人がトイレに入っていったんだ・・・そしてトイレの扉の前で待っていたら壁が薄かったみたいでな・・・女性のトイレの音が聞こえてきて・・・



興奮してイッちゃいました・・・」

「それヒーロー全く関係ない話じゃねぇかあああああああああああああああああ!」


この人たちには一刻も早く正義の心を思い出して欲しい。

「修行も何も関係ないただのアンタの気持ち悪い性癖の話だよこれ!!」

「フフフ・・・まぁ焦るなって・・・話はまだ終わりじゃねぇんだ」

「アンタは終わってるけどな」

「その後美人が出たトイレに入ったんだがな、臭いが少し残っててな・・・



興奮してイッちゃいました・・・」

「結局アンタがイッた話じゃねぇか!」



本当に気持ち悪い、本当に不快だ。

吐き気を催す邪悪とはまさにこいつのことを言うのだろう。

どんな性癖も持つのは自由だが人様に迷惑がかからないようにしていただきたい。


「次はアタシの番ね☆」

「・・・」

一番の不安要素、ピンクだ。

なにせこの女、頭の中が年中ピンクで染まっている。

ここまでの話の流れ的にどうせこの人もオチは一緒だろうが、なんかこう・・・一番生々しい話になりそうで嫌だ。

あくまでもこの物語は青少年が読めるレベルに留めておかなければならないのだ。

R-18タグがついてしまうような内容は遠慮願いたいのだが・・・


「大丈夫よ、モブちゃん。私のはいたってシリアスな内容だから」

「・・・うん」

どうしよう、全く安心できない。

「・・・ついこの間町でアクギャークの下部組織が戦闘員に改造する人間を探しているって情報を耳にしたの、それでアタシはそいつらを一網打尽にするためにその組織に潜り込んだの・・・」

・・・あれ?以外にも真面目な話だ。

「でもしくじっちゃって・・・アタシがジャスティスピンクだってことバレちゃったの・・・そしてあいつらは逆にアタシからジャスティスファイブの情報を引き出すため襲い掛かってきたわ、私も抵抗したけどそのときは変身ベルトを身につけてなくて・・・体を束縛されて身動き一つもできなくなったアタシにあいつらは拷問と称して自分の肉欲をぶつけてきた・・・



っていうアタシが主役のエロ同人をさっき読んでイッたわ☆」

「いや何の話!?」



要するに自分がエロイ目に遭っている同人誌を、自分で読んで興奮していたわけだ。

ここ最近では世界を守っている彼らのようなヒーローをモデルにしたフィギュアや同人誌が出ていることは知っていたが、まさかそれを本人が使っているとは思うまい。

「てっきり何者にも屈しない強い心が欲しいとかそんな感じかと思ってたらただアンタがエロ同人読んでただけじゃないですか!?」

「見事な完成度だったわ・・・タイトルは『正義変態 ジャスティピンク!~肉欲奴隷編』だったわ。どうやら次は夏のコミケで『触手怪人編』を出すみたいよ☆」

「ただでさえ自分のエロ同人を読むことにドン引きしてるのに、その上続きまで買おうとしてるんですか!?」

ちなみに作者のペンネームは暗黒・少女らしい。

地球の平和を守るヒーローのエロ同人を書くのも若干アレだが、それを本人が読むとは世も末だ。

アクギャークの手が及ばずともこの国そのうち滅ぶんじゃないか。



「と、いうわけで俺らの弱さを聞いてもらったわけだが」

「いや全員イキやすいってことしかわかりませんでしたよ」

まずこの5人は正義を守る前にゆがんだ性癖を何とかすべきじゃないだろうか。

「クッ・・・俺たちは一体どうすれば強くなれるんだッ!頼む!何か些細なことでもいい!アドバイスはないか!?」

レッドは机を拳で叩きながら心底悔しそうに俺に聞く。

他の4人も同じように拳を握り締めたり、下をうつむいている。

話を聞く限り特に修行する必要はないと思うのだが、そんなことこの空気の中では言えない。

かと言ってこのままこの空気の中にい続けるのは気まずいしなぁ・・・

しょうがない、ここは適当なアドバイスで切り抜けよう。


「・・・えっと・・・長所を伸ばせばいいんじゃないですかね?」


このしょうもない小学校の通信簿に載ってそうなアドバイスしたことを後悔するとは、このときの俺は全く思わなかった。

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