第12話餌付け
「これがお酒……」
「他にも肉と野菜を使った料理がある」
同族とはいえ、養分の取り合いをする以上、その実を食べる事もある。
だから共食いにはならない。
「一つ提案したい。交渉しよう」
「逃げないなら、その提案を呑もう」
「分かった。もう逃げたりはしないよ」
観念した事が伝わったのか、それとも交渉の中身が魅力的なのかは分からないが、拘束を解かれて地面に降ろされた。
「ならば宜しい。改めて、私はアルウラネだ。宜しくね」
「名前は無いの?」
「植物や動物の個体に名前を付けるのは、人間や亜人くらいなものよ。名前がなくても支障はないし、仲間は山火事とかでドンドン死ぬし」
分かるような、分からないような。
アルウラネって亜人に分類されないのか?
「人間は認めていないってだけ。エルフやドワーフと交流はあるわ。でも、部族としても成り立たないくらい、人型は数が少ないの」
なるほど、それで名前を付ける意味が、薄いと言えるのか。組織的な行動ではなく、個人単位、班単位のグループなら、名前がなくても問題にはならない。
ただ、俺が個人的に不便に感じる。
「そうか、しかし……名前が無いと、明確な個体としても見てもらえないぞ?」
「一人前か半人前かの区別として、名前は必要だと言いたいのね」
「だから、こうしよう。俺がアンタに名前を付ける」
「その対価として、私が新入りに名前を付けるのね」
そういうこと。人が二人組になった時点で、それ以降は個人での行動ではなく、集団での行動を余儀なくされるからな。
さて、名付けか。安直だが、髪にある花々が雪の結晶に見える。桜吹雪ならぬ花吹雪、それを略したモノで行こう。
「今日から、アルウラネのブッキーだ」
「新入りは、人間臭い雑草だから、老子よ」
老子、確か蓬莱という島に住む仙人だったはず。
「……異世界人でもいるのか?」
「居るには居るけど、人間の異世界人は希少らしいわ」
ブッキーからその辺りを詳しく聞くと、最初にエルフから聞いた話だと前置きされた。
何でもこの世界の人間種は、絶滅危惧種になっているらしい。人間専用の保護区が設けられており、村や町の規模で国が内部にあるとか。
それを管理するのが魔王だ。
そもそも、人間は他の動物と比較すればとてつもなく弱い。だが、道具を造り出す事で、動物の反応速度以上の攻撃により、害獣を駆除したりして栄えて来た。
その発想力を残しつつ、動物や昆虫の能力をナノ・テクノロジーによる、遺伝子強化手術にて、野獣や節足動物の戦闘因子を取り込み、獣人や昆虫人へ変身したのが、獣人達の祖先となっている。
魔法技術の発達に伴い、幻獣の生態系が調査されていくと、今度は幻獣種の戦闘因子を取り込んだ、幻獣人種が台頭した。その代表格がワーウルフだ。
妖精の因子を取り込んだ人間が、エルフやニンフ族の祖先という説もあるらしい。
更に上を目指して、生物の頂点に君臨するドラゴンをベースとしたのが龍人族。しかしながら、幻獣人種が現れて間もない頃には、既に朧気ながらも確認されたので、本当にドラゴンの因子を取り込んだのかは定かではないと言う。
かくして、純粋な人間族は衰退し、
しかし、それを快く思わないモノがいた。神話の世界にいる神々である。
神々と亜人の争いは激化し、ある時を境に神々は神話を超えて連携し、亜人達も種族を超えて結束を固めた。
戦時中、更に人間は数を減らし、大陸の片隅へと追いやられる。
そんな中、人間が技術と叡智を結集させて造り上げた、神の因子を取り込んだ神人種が誕生した。その神人達と亜人達の連携により、神々をようやく退ける。
が、亜人達も消耗していたので、神人達の暴走を止められず、国を牛耳られてしまう。
数は少ないものの、力の差がはっきりとしているので、亜人達は苦渋の決断として奴隷の如く従い、神人達の横暴な振る舞いに耐えた。
けれども、終わりは突然やって来る。
ある日、何処からともなく、魔法使いとお仕着せを着た戦士が現れたかと思うと、神人達に弓を引き、破竹の勢いで軍の亜人達を蹴散らし、神人達の首を剣で跳ねていったのだ。
魔法使いは国を改めて魔王となり、戦士はメイドとして魔王を支えた。異世界人特有のチートと、絆のチカラが戦力の本質なので、亜人は元より神人すら敵わなかったのだ。
しかしながら、魔王とメイドは純粋な人間である。
それも異世界人のコンビなので、なおの事この世界では風当たりが強く、魔王の政策に従わない亜人が多かった。
神々との戦争では置き土産とばかりに、神話の出入口を残していき、一定期間が経つと強大な魔物が現れる。
種族が結束したものの、それで禍根が消える訳では無いので、種族同士の対立や紛争に介入しなければ、魔王の支持者が減ってしまう。
更には人間族の保護をしなければ、神話の世界が消え、世界そのものが暗黒の時代に、突入してしまい兼ねないと言うのだ。
はっきり言ってしまうと、亜人種は人間によって造り出された存在。という事になる。
少なくともこの世界では、亜人と人間の関係が逆転しているようだ。
普通の異世界モノなら、亜人種は人間から迫害されたりしている。エルフが奴隷というのもテンプレだし。
人間はとても少ない、少ないが故に保護区へ強制連行を免れ、点々と暮らしている連中もいるとか。
保護対象者なので、抵抗されると後々が面倒になり、仕方なく町や村を丸々残す場合もある。
それを当然だと勘違いするのが人間で、エルフやドワーフは距離を取ってしまう。
そんな町や村の連中を、緩やかに衰退させるのが人間への尊厳だと。
そういう連中を延々と生かす理由はない。保護区の人間だけで十分なのだ。
この世界線、マジでヤバいわー。想像の延長線上とはいえ、結構生々しい。あり得なくもない話だし。
現代でも整形すれば、エルフっぽい耳を作り出せる。コスプレやらVRやらで疑似体験も出来る。いや、コスプレは違うか。
「亜人種はエルフとドワーフが最も多い。私のような、モンスター以上亜人種未満も、かなり存在しているとか」
「そうなのか。ところで、俺はアルウラネでいいのか?」
「その死体とほぼ同化しているし、良いんじゃないかな。プラント・モンスターの、正確な分類すら完璧ではないから、新種個体、もしくは特異個体で十分よ」
これは虫型亜人種にも言えて、膨大な種類があるので、総称としているらしい。
じゃあ、植物型亜人種もそれでいいんじゃね?
そこまでして、人間の分類に習う必要は薄いのでは?
この答えが、人間種の保護に繋がると言う。
なんでも、宗教による信仰をするのは、人間だけらしい。亜人種は自然そのものを、有りのまま受け入れている。
台風や雷を神格化したりはしないのだ。
信仰とは思いであり、思いとは神や魔がそうである存在たりえんが為に必要不可欠なモノ。
信仰は糧となるので、それが欠けると神や魔はチカラを発揮できない。
人と神と世界。
この三つはどれか一つが欠けてもいけないよう、巧妙に仕組まれている。
人の信仰で神は生き、世界は広さと奥行きを認識する。
神は人を創り、世界という住処を得る。
世界は人という想像力の塊によって支えられ、神を創った。
詳細を付け加えて、まとめると。
人がいなければ神は生まれず世界は止まり。神がいなければ人はただの動物と変わり無く、世界は増えず。世界が無いと神はその場から動けず、人は生まれもしない。
これらはこの世界では常識らしく、脈々と受け継がれる宗教と信仰のお陰で、人間は手厚く保護される権利を持つ。
亜人種は保護責任者という立場だ。めんどくさいと切って捨てれば、総スカンをくらう。
だから、保護区へ近付くモンスターを、魔王とその軍が退ける役目を担う。
……自衛すらさせないのか。クソみたいな制度だな。
自衛させれば、死人が出る。絶滅危惧種の人口が減る。まるでパンダですね。
「喋り疲れたわね。続きはまた今度にしましょう」
「最後に一つだけ」
「……何?」
「妖精ってどこにいるのかな」
「この森からは居なくなったわ。エルフ達が住む村や、人間の町に移ったの」
妖精は何処にでも居るが、甘いモノやイタズラ目当てで、町や村に移るらしい。
イタズラが過ぎると追い出されるが、甘いモノをくれる人にはなつく傾向を持つ。
見た目は二頭身の幼女に羽が生えているという。妖精単体は弱いが、群れで動くとドラゴンすら威圧するらしい。
威圧するだけで、攻撃魔法は苦手。
つまり、虚仮脅しですね分かります。
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