忍者館殺人事件 第二の容疑者

東山ききん☆

序章(HOME)

第序話

 生きていれば良いこともあるが、状況が好転する事はない。

 時間の経過とともに、取り巻く環境は悪化するばかりだ。問題は解決しないし、頼れる知人も減り、快を得ることばかり上手になる。


 西大寺千秋がこのような考えに至ったのはごく最近のことで、実のところ、ふと思い付いた気まぐれなのだが、全く根拠が無いわけではない。


 根拠というか、周囲からの押し付けを受け入れて無理難題を抱え込み、自ら主体的に行動すれば裏目に出て、気が付けば刃傷沙汰だ。

 刃傷沙汰は初めてではない。


 如何様なややこしい過程を経れば、全く以って抜き差しならない現在のような事態に陥るのか。


 普段会わない親族に十年ぶりに顔を合わせたのが原因なのは考えるまでもない。




 西大寺千秋は叔父を尊敬していた。


 千秋の両親は極めて変人であり、家庭はご近所からも遠ざけられ、ここ十年程親類縁者との付き合いは無いし、最早この時点で修羅場だと言ってしまっても過言ではないと千秋は思うのだが、しかし、十年前迄は親類縁者との付き合いは続いていた訳だ。

 

 この世全ての厄災を芳香剤にして部屋に飾っているような性格の両親と、断続的とはいえ十年前迄付き合いをしていた数少ない良寛様が、当の叔父である。

 名前を西大寺冬次という。


 千秋が叔父と最後に会ったのは七歳の時で、当時は物心付かなかったが、叔父の常識人ぶりは現在を振り返れば大変に素晴らしかったと思う。

 なんと言っても、父親と違って会社員をしている。


 囲碁の打ち方や競馬のシステム、将棋の駒の役割など、子供ながらに気になることは何でも教えてくれた。

 そんな優しい叔父だが、父との関係はどうなっていたのか。


 四、五歳の時は年四回は叔父の家を訪ねていたが、六歳には正月と夏にしか顔を合わせず、回数は減っていった。

 そして、七歳の正月に会って、それっきりだ。

 年賀状も三年に一度くらいしか来なくなった。


 千秋の知る親戚付き合いと言えば後は母の実家くらいだ。

 そんなものだから、父の口から叔父の名が出た時は大層驚いた。


「叔父さんに会ってみないか。」


 聞けば、父は叔父と会うのは面倒くさいのだが、メルアドは交換しており、個人的にちょくちょく近況を報告しているのだという。


 メルアド交換と言えば、千秋は従姉妹、つまり叔父さんの娘を電話帳に登録している。

 何年か前に、何年かかけて、お互い年賀状にメルアドを書いて交換したのだ。


 中学に上がる頃には、従姉妹の強い勧めで、ネトゲで貝を拾うだけのクソオンラインゲームにハマり、友人を何人か失いながらもこのゲームを極めた仲である。

 スカイプの履歴を考慮すれば、従姉妹も今では立派な引きこもりニートの筈だ。


 思えば千秋も四月から高校二年生だ。

 そんな従姉妹の西大寺真冬は一歳下なので、今年高校に入学する筈なのだが。


「実は従姉妹の真冬がお前んとこの錦城高校に受かっててな。」

「父さん、今からでも真冬は留年させるべきだと思う。」


 千秋は即答した。

 こうして、千秋は叔父と従姉妹の無謀な自殺行為を止めに、十年ぶりに叔父の元を訪ねたのである。


 まさかこれが西日本全体を巻き込む大事件と、それに連なる"あの連中"達との血風吹き荒ぶ肉塊の地獄巡りになろうとは、この時はまあ流石に予感くらいはしていた。

 千秋はその手の経験が豊富だからだ。


 これは西大寺千秋の百五十七日間に及ぶ旅行の記録である。

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