ぼくとエナの あいうえお

日望 夏市

第1話〜第5話 あ行

第1話 あしたの あしたが あるところ



「日曜日に帰る」


ぼくはそう言い残して 電車に乗った

心地よく揺れる 電車の中で いつしかぼくは眠ってしまった

電車が止まり ドアが開き 慌ててぼくは 飛び降りた

眼鏡を拭いて よくみると そこは土曜の駅だった


日曜の駅は となり駅 時間は 水の時 

日の時まで あと4つ

待てど暮らせど 電車は来ない

日曜日に 日曜の駅で 日の時に エナに会える


仕方が無い 歩いていこう

荷物は全部 土曜の駅に 置いていく

カバンの中の 重い月 ポケットの中で ガチャガチャとうるさい金

この際 水も必要ない エナに会えれば 問題ないさ


靴は  はいていこう アスファルトは まだ熱い

日の時までは あと3つと半分

あせる気持ちを押さえて ゆっくりと ゆっくりと

日の時までは あと1つ


そして

日曜日に 日曜の駅で 日の時に エナに会えた

うれしくて ぼくは エナに こう言った


「日曜日に帰る」


そしてぼくは また 電車に乗った

日曜日に 日曜の駅で 日の時に エナに会うために


おしまい



第2話 いしの いしきは いつかの いのち



19歳 最後のプール 帰り道 石ころけった 川沿いの

コスモス畑の すぐそばで 大きな石を けとばした

つま先を おもいきり ガツんとやってしまった


「あいたたた」


大きな石を 持ち上げてみると そこに小さな ぼくがいた


ぼくはおどろいて その大きな石で 

小さなぼくを ガツんとやってしまったのだ

それ以来 ぼくの意識は 硬く固まってしまった


あれから ずいぶんたってしまった

小さなぼくは まだ あの石の下


エナの魔法のフライパンならきっと

固まった ぼくの意識を 解かせるかずだ


「エナ 君のフライパンで ぼくを あの場所に 

連れて行ってくれよ ちいさなぼくを 救うのだ」


そういうと エナは早速 ぼくに 魔法の使い方の指導をした

フライパンに またがって エイッ とやるのだと

何度やっても 魔法はきかない

いすの上にのっかって エイッ とやったとき

テイブルの角で つま先を ガツんとやってしまった


エナは ずるい顔をして ニヤリと笑い

ゲラゲラお腹をかかえ 転げ回った


「やられた だましやがった」


ぼくはプィとそっぽを向き となりの部屋のドアをバタンとしめた


「あれれ? いつの間に?」 


そう ぼくの意識は 解けていた


「なーんだ やっぱり 魔法 使えるんだ」


エナの フライパンは すごいなぁ



ちいさなぼくは まだ あの石の下に いるのかなぁ



おしまい




第3話 うしの うえの うちゅう うさぎ



今日は朝から 宇宙ウサギと一緒に お散歩がてら 公園へ

宇宙うさぎが 公園のめがね池の さかなを見たいというので

クリケット広場を 横切って行くことにした


クリケット広場では いつもの連中が 

ベースボールをしていた

ホームベースも ピッチャーマウンドも バッターボックスも

それぞれが 好きに決めていいルールで

ベースボールをやっているらしい


「そんなの ほんとうに おもしろいのかなぁ」


広場を抜けて めがね池に着いた

池には たくさんのさかなが 泳いでいる

電気キンギョに すいかクジラ フタコブめだかに 足なしイカ

宇宙ウサギの お気に入りは オヤジ亀らしい


「あんな気持ちの悪いもの どこがいいんだろ」


どこからか 三色ウシがやってきた


「モー」


三色ウシくん どこからきたのだ?

このへんじゃ 見かけない顔だな


「モー」


宇宙ウサギが ウシの背中に飛び乗った


「ウサギくん 気に入ったのかい?」


そこへ 公園の管理人のおじさんがやってきた


「公園に ペットを連れてきては いけません」


と注意されたのだが


「宇宙うさぎは ペットじゃない!」


というと ウシはどうだと いうことなのだ


「ぼくは 飼い主じゃない!」


聞き入れてもらえず 宇宙ウサギを乗せたまま 

三色ウシを 連れて帰ることにした

三色ウシの背中で 宇宙うさぎは 楽しそう


「エナ 三色ウシを 連れてきたのだよ」


エナは お皿を ペロッとなめる 瞬間だった

まだ11時半なのに もうおひるを食べている



「食いしん坊め!」



「ぼくの おひるは あるのかい?」


エナは 首を横に振った


振り向くと 宇宙ウサギと三食ウシは いなかった


「ぼくは お腹が すいたのですよ」



おしまい






第4話 えいえんの  えんぴつと  えいち



ガリガリガリガリ ガリガリガリガリ


となりの家の  発明家

今日も  ジジイは  エンピツを けずる

何やら不思議な  エンピツで

けずっても  けずっても  減らない  無限エンピツ


ガリガリガリガリ


字を書くわけでもなく ただひたすら  けずるだけ


ガリガリガリガリ


ジジイの発明は 液体ケシゴム  やら  クネクネ定規 

裏側カメラに  ふわふわトンカチ 使えないものばかり


唯一  無限エンピツだけが 実用的なのだが  

ジジイはただ けずっているだけだった


となりの窓が  開いていた


「発明ジジイ  無限エンピツの作り方を ぼくに  教えてくれよ」


ジジイは  ぼくに

猫のツメと  赤ん坊の髪の毛を 粉末にして  チョーゴー剤を作り 

それを  土に混ぜ  タネをまくと 3年後に  無限木が  出来上がる

芯は無限木を  燃やして 作るのだよ と教えてくれた


ぼくは早速  調合に取りかかり

完成したチョーゴー剤を  ハチミツ瓶にいれて

キッチンの戸棚の  奥へ隠した


だってさ  エナに見つかると ひどいことに  なるからさ


そもそも  ぼくたちが ココに取り残されたのは 全部  エナのせいさ

彼女のイタズラで リアルにつながる エンタルネットシステムを 

一瞬で破壊  してしまったのだから


ある夜  となりの家が  騒がしい どうやら  

発明ジジイが 死んでしまったの


なみだババアは  大声で 泣いていたのだよ

もっとも  ジジイの人体実験のせいで 

以前から  ババアは涙が  止まらない

ジジイの死で  泣いているのか どうだか  わからないのだけれども


エナは大急ぎで  キッチンへと かけこんだ

いつもの  イタズラの顔をして


「エナ!」


もういない。ハチミツ瓶はどこ?


それから  3年たった  ある日

なみだババアが  泣きながら 笑っていたのだよ


ババアの家からは


ガリガリガリガリ


「あ!」



これが  無限ジジイの  

誕生の秘密なのです


おしまい






第5話 おおきな おさらの おいしい おむれつ



エナが 夕方から お誕生会を開く  というので

朝から 部屋の飾りつけやら お料理の仕込みで 大忙し

両手を広げた 2つ分の おおきな オムレツを 作るんだってさ

風船ダチョウの タマゴ3個分だから

そりゃもう 大きいの なんのって


お客さんは


おとなりの無限ジジイと なみだババア

宇宙うさぎと 三色ウシ 亀のおっちゃんのほか 

水たまりの妖精や チョコレート少年などなど 

総勢4人と 3匹と半分と 5個と 1枚と 0.2グラム


いつものメンバーだのだよ


ぼくは プレゼントは 何がいいものかと 考えた

以前 無限ジジイに教えてもらった ゴムネジを作ることにした

これなら 伸縮自在だし どんなネジ穴にも ピッタリはまる


グミと ガムと 風船ダチョウのタマゴの殻

ちょうど エナが オムレツに使うしね

これらを 溶かして 混ぜて 型に流し込めば できあがり

きっと よろこんで もらえるさ


そうこうしているうちに 夕方になりました


「持ってきた プレゼントは 窓際のテイブルに 置いてください」


宴会がはじまった


エナは 中央テーブルの 巨大なお皿に 大きなオムレツを  盛り付けて 

ローソクを立て 火をつけた

みんなで バースデーソングを 歌うのですよ


「ハッピー バースデー !!!」


「ところで エナ 今日は 誰の 誕生日なんだい?」


カレンダーを見ると 誰の誕生日でもない


「エナ!?!?」


エナは お腹をかかえて ゲラゲラ笑いだした


「やられた!」


まぁいいやと いうことで 

みんなで エナのオムレツを たいらげたのです


「ふー  おなかいっぱい」


窓際のテイブルの プレゼントは 

1つ残らず なくなっていたことに


だれも 気がつかなかったけれどね



おしまい

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