第10話 走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!

 電波監視官、十和田・太陽。

 三十路を迎えた彼は、少年のような大人だ。

 いや――――少年そのものだ。


 愛読する雑誌は、陰謀論や超常現象を扱うオカルト誌で、今でも匿名の告発集団アノマロカリスだのC・Eye・A出身のスウェーデンだか言うハッカー達に心酔している。


 この男を構築したのは、小学生の頃に見た、少年探偵が活躍する漫画の影響が大きい。

 身体は子供だが大人顔負けの推理を発揮し、難事件を解決する少年探偵に、彼も学校の友達も夢中になった。

 よくクラスメイトと一緒に、探偵ごっこで夕方まで遊んだ。


 中学生になると、世を騒がせる陰謀に魅了され、インターネットでむさぼるように情報を集めては、独自の推理を打ち立て世界の謎に一人で挑み、楽しんでいた。


 高校生になり、ミステリー小説を読みふけるかたわら、アマチュア無線の資格を取得すると、何処かに潜んでいるかもしれない、テロリストや国際スパイの暗号無線を真剣に傍受しようとする。


 大学では、ミステリー研究会とオカルト研究会を掛け持ち、浮世離れした存在として、友人達から奇異な目で見られつつ、謎という謎を探して回った。


 進路を考え始めた頃、刺激を求め警察官になる事を考え、脳内で警察へのサクセスストーリーを思い描く。


 警察学校で厳しい訓練を耐え、晴れて卒業。

 新人として交番に勤務。

 ある日、通報を受け近くで起きた銀行強盗の現場へ駆け付ける。

 そして遅れを取った警視庁の代わりに、強盗達を説得中、警視庁の刑事が到着し銃撃が始まり巻き込まれ殉職。


 それか配属されたばかりの警察署で、一人の革命戦士が乗り込み、トレンチコートを広げると、身体に巻き付けたダイナマイトを盾に社会の不平を訴える。

 それを果敢にも十和田が説得をし、自爆を止められる寸前に、警視庁の特殊部隊が突入し、気が動転した革命戦士が自爆をする。

 爆発の巻き添えになり十和田は殉職。


 或いは、通報を受け高層ビルのパトロールに出向くと、既にテロリストがビルを占拠していて運悪く巻き込まれて……。


 という具合に、ミステリー小説で鍛えられた豊かな想像力が、彼の警察官への道を閉ざした。

 

 自衛隊の入隊を考えるも、ネット動画で鬼教官に怒鳴られ、ベソをかきながら訓練を続ける新人自衛官を見て血の気が引いて断念。


 消防隊も念頭に置くが、基礎体力が規定に達していない為、試験すら受けられない。


 自分の冒険心を満たしてくれる刺激的な職を探していた時、ネットで“電波監視官”を知った。


 総務省のコラムに書かれた、違法電波の一斉検挙。

 動画サイトにアップされた、電波監視官が受信装置を持ち足で違法電波を捜索し、時に警察官へ専門知識を至難する姿を見て、刑事ドラマや探偵小説に通ずる物を感じ、この職を選んだ。


 電波監視官になり、ゆくゆくは警察では手におえない事件に遭遇し、解決に導く事を夢見ている。


 だが、実際なってみると崇高な職務は無線利用者から来る苦情の対応と周知による足を使った呼びかけだ。

 やはり、電波Gメンと言えど公務員。

 元々、飽きっぽい性格の彼は、日々のルーティンワークと言う刺激が乏しい生活に苦痛を感じている。

 

 だが、彼の冒険心は役所の職についても、廃れることはなかった。


 電波監視官の仕事を、なんらかの形で退職するか、定年を迎えた後、盗聴器の発見や電波技能を駆使した調査を、生業なりわいとする私立探偵になろうと考えている。


 或いは、勤続中にテロリストや国際スパイの無線を見つけ、連絡網を壊滅に追い込み、警察から表彰を受けて、電波に関する専門のアドバイザーと言うポジションを獲得し、将来は警視庁専属の相談役として活躍することを夢見ている。


 そう、彼の将来的ビジョンで言うと、事件は現場で起きるのではなく会議室で起きるのだ。

 

 その為に例え飽きがこようと、今の職は続けて行き、ひたすら業務をこなしていく。

 いつか遭遇するであろう難事件の為に――――。

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