魔術防災対策課
森林木草
採用試験
第1話 3つの試験
部屋の中には1つのテーブルがあり、テーブルを挟んで向かい合うように2人の男が椅子に座り、部屋の隅には1人の女が立っていた。
入り口に近い方の椅子に座った男はリクルートスーツに身を包み、背筋を伸ばして向かいの男を見据えている。
「あまり気を張らなくていいよ」
もう1人の男が穏やかに言った。
着ているワイシャツにはシワが目立ち、ボタンを外した首元はヨレヨレと広がり、袖は肘まで捲り上げている。
「会社の面接っていっても、そんな大袈裟なものじゃないからね」
「はい!」
よく通る声でリクルートスーツの男は返事をする。
返事に若干驚きながらも、男は頭を掻きつつ話を始める。
「うちは面接の回答の良し悪しで採用を決めたりはしないんだ。テンプレートみたいな回答は求めていないからね」
「はい!」
続けてよく通る返事をする。
男はまたも頭を掻きながら、片手でテーブルの上にある急須から、2つの湯呑みにお茶を入れる。
1つをリクルートスーツの男へ差し出す。
「まあ、気楽にやればいいって。お茶でも飲みながら」
おずおずと差し出された湯呑みを受け取る。男は手を離すと、指で「3」を作った。
「うちは面接で採用を決めないかわりに、みっつの簡単な試験を行います」
「はあ、、?」
湯呑みに口をつけ、男の突き出す指を見つめる。
その直後、リクルートスーツの男は崩れるように椅子から倒れ落ちた。
男は薬指と中指を折り「1」を作った。
「試験その1『人を信用するな』」
人差し指を立てたまま部屋の隅に立つ女へ向けると、堪えていた憤りを露わにした。
「どうなってんだ! これで8人目だぞ! 今年のリクルーターは人を見る目がないのか! どいつもこいつも1次試験で素直に落ちやがって!」
「まあまあ、落ち着いて」
女は冷静に言う。
「次の子はまだわかりませんよ」
鼻息を荒だてた男は腕を下ろした。
「どうだかな。さっきもそう言って、この男だ」
床に寝転びイビキをかく男を顎で指した。
入口の扉から作業着を着た大柄な男が入って来ると、慣れた手つきで男を肩に担ぎ出て行った。
「テーブルに急須が現れた事に微塵も違和感を示さないとは! ハッキリ言ってバカだ!」
「確かにバカでしたね」
女も同調して冷静に頷く。
「まあ、ジンクスでもあるではないですか、『9人目は大物が来る』って」
女の話に男は鼻を鳴らした。
「ジンクスね」
「それが吉と出るか、凶と出るか」
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