第4話

とにかく、と那毬と留、そして気を失った少年は馬車のようなものに乗せられた。

 ような、というのは、車を引く動物が馬ではなかったからだ。


「……竜?」

「麒麟?」


 隣同士で座った那毬と留は、その生き物に内心興味津々だ。

 前に座るイネスに聞こえない声でささやきあう。


「しかし、神子様が三人とは……いったい」


 イネスは自らの隣に寝かせた少年と、二人の顔を見比べながらつぶやいている。


「座標軸のずれが関係してるのかもなー」


 ケイ、という男も同じ車中だ。


「と、言うと?」


ケイの言葉に、イネスが顔を上げる。


「予想外の人数を運ぶことになったんだ。本来の場所に召喚されないことも納得がいく。術式の失敗か、はたまた神子さんたちの世界の都合かは知らないが……」

「どんな予測が建てられる?」

「箱と鍵の力を扱える神子様がたまたま三人いた」


 人差し指を立てて、ケイが話す。続けて二本目の指を立てる。


「召喚の際、たまたま近くにいた人間が巻き込まれた」


 三本目。


「魔王側の妨害。この場合、神子様に混じって魔王側のやつを送り込めばいい」

「…となると、このまま王都へ行くのは王に危険が及ぶ…か」

「一度近くの城で休憩がてら、様子を見てみるのが良いかもな」

「ここからだと…ハインケル領主の城だな」


 イネスはすぐさま目的地を変える指示を出した。


「……那毬さんや」

「……なんだい、留さん」


 二人は見た目の年相応に、難しい話は分からない、と言わんばかりの顔で座って様子を眺めていた。

 たがいにしか聞こえない声量で話す。


「…二番目だと、思うんだよねー」

「奇遇だね。私も」


 ケイの示唆した可能性。その二番目の条件を、二人は満たしている。召喚される直前の記憶は、二人で一緒にいた記憶だ。

 つまり。


「私たちのどちらかがおまけ」

「……ふん。とにもかくにも…イネスさんとケイさんより先に、少年と話をしたいな」

「何で」

「口裏を合わせておきたいことがいくつかある。三人の安全のために」

「安全、ね」


 なるほど、と那毬が答える。


「彼らの解が三番になった場合、速やかにおまけが消されそうねぇ」

「魔王がどーたら言ってる時点で、結構緊迫してるんじゃないかと思うんだよねぇ…。神経質になって当然」

「でもさ、子どもの姿で、っていうのがわからない」

「……無力化。…したら意味ないしねぇ…」


 そこが二人とも、引っかかっていた。

 緊迫した状態で、特殊な能力を持つとはいえろくに走れもしない子供の姿だ。現に、留はすでに一度、こけている。――彼女が言い訳するところによると、子どもは頭が大きく、重心が上のほうにあるからだ、ということだ。――真偽はさておき、子ども姿ではろくに戦えないのは確かである。そんな子どもを召喚し、いったい何をどうするつもりなのか…。


「調べられるなら、調べたいところだけど」

「とりあえず…」


うぅ、と唸り声をあげ、眠りの淵から脱しようとしている少年に、行動に移す時を知る。


 困ったときは、この言葉だ。


「……といれ」


 那毬のその言葉に、イネスは御者に車を止めるように指示を出した。

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