第2話

「やっぱり少し探索しよう」


二人揃って体操座りなどして、海をながめて四半刻。


留は立ち上がってそう言った。



「………なぜまた急に」


 見上げる那毬は友人の突然の言葉に少し戸惑う。


「やっぱり、現状把握って必要だよね!」


 いつになくはしゃいだ声を出す留。

 あまりにもわざとらしい。


「……本音は」


 那毬の胡乱げな視線に、留が明後日の方を見る。


「…こうしていることに飽きました」

「早いよ!」


 マイペースな留の言動に、那毬はがっくりと肩を落とした。


 渋る那毬を引きずりながら、留は浜辺をフラフラと歩く。

 浜辺の感触も、海の色も、元の世界と変わりはない。


「はーまべが続く―よー、どーこまーでーもー」

「ホントにね」


 留が替え歌を口ずさみながら前を歩く。

 前も後ろも同じような浜辺の風景だ。あい変わらす空には二つの月が浮かび、左には亜熱帯を思わせる森が、右には海らしき波立つ水辺がある。


「すごく大きい湖の可能性もあるのよね」


 右側をみて、留がつぶやく。


「……塩水かどうかなめてみる?」

「やめとこ。私達、ここの食べ物が合うかもわからないし。そもそも海の定義って、塩水関係ある?」

「さぁ?」


 そんなもの、元いた世界で考えたこともない。


「しかし、なんのイベントも起きないねぇ…」


 ダラダラと歩きながら、今度は那毬が言った。


「でも怪物が来たら嫌」


 子どもの姿ではおそらく、怪物のいい餌になるだけだろう。

 大人の姿であったとしても、道具も何もない状態で勝てるとは思えない。

 よくあるファンタジーの怪物の姿を各々思い浮かべながら、二人は顔を青くした。


「同感…、と?」


 進行方向に何かがあった。

 目を細めてみてみるが、良く分からない。


「…近づきますか」

「……適度な距離まで」


 そうして二人して五歩だけ近づく。


「……人だ」

「わー、第一村人発見ー?」


 目を眇めてようやく分かる正体は人、だった。

 ダボダボのスーツを着た、小さな男の子だ。スーツは元の世界にいたときにみた、企業戦士サラリーマンの戦闘服そのものである。


「………なーんか、第一村人じゃなくて、よそ者発見した感じ?」

「明らかに私達と一緒」


 自分たちと同じような状況の男の子に、おそらく彼も飛ばされてきたのだろう、とあたりをつける。


「……どうでしょう、那毬さん」


 留は那毬を見上げる。ほんの少し、那毬のほうが背が高いのだ。


「どうしましょう、留さん」


 那毬は留を見下ろす。

 二人は顔を見合わせた。無言のやり取りが一瞬のうちに行われた。

 結論は一瞬で出た。


「子どもじゃ男の利点もないよね。これ以上お荷物は無理。自分で精一杯」

「私人見知り」


 もう一度男の子を見る。

 留が手を合わせた。


「健闘を祈る!」

「…右に同じ」


 那毬も同じように手を合わせると、背を向ける。


「そろそろ戻ろうか」

「そうしよう」


 砂浜に残る二組みの小さな足跡をたどり、二人は元の場所を目指す。

 足跡は、増えない。

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