11 肝試しの祟り

 美味しい朝食を堪能したあと、外せない用事があるという松籟さんをお寺まで送り届けてから、僕と先輩とで勾玉の調査をすることになった。

 松籟さんには何かわかったら連絡すると約束し、例の火災現場へと向かう。


 駅から徒歩二分くらいの場所にあるそのアパートは、まだ割と新しい感じで、二階の西の角部屋に青いビニールシートが張られていた。

 あそこが現場で、延焼はなかったようだ。

 消防も野次馬の姿もすでにないが、パトカーが一台停まっているので、僕らは少し離れたところに車を停め、通行人のフリをして、現場の前を通りすぎる。

 水色のワイシャツ姿の先輩なら、通勤中の会社員に、紺のTシャツの僕だって、通学中の大学生に見えるだろう。

 住民の行方も出火原因も不明の今、不審者扱いされて職質でもされたら、先生にまで迷惑がかかってしまうから気を付けないと。


「火事場だからか、気の乱れた跡がありますね。今は何もないみたいですけど」

「せやな。どっかでモーニングコーヒーでも飲みながら、ネットで情報収集するか。あっ、ドリンクバーはいややで」


 先輩の我が儘で、隣町まで車を走らせ、チェーンぽいけど見たことのない珈琲店に入った。

 そこで先輩はお店の名前が付いたブレンドを頼み、実は珈琲が苦手な僕は紅茶と迷いつつアーモンド・オ・レを選ぶ。

 まだ九時前だけあって、広々とした店内に客は少なく、店員のお姉さんが横を通るとき、チラチラと先輩の様子を窺っていくのだけ気になるが、この分なら、珈琲一杯で長居してても怒られなさそうなのはありがたい。


「ネット社会って怖いわぁ。もう色々出とるで。名前もガッコもばっちしや」

「どういう人たちなんですか?」

「すぐそこの大学の生徒や。名前はまあどうでもええけど、そないなことより、めっちゃ気になる書き込みがあるで。祟りとちゃうかって」

「祟り?」

「せや。あいつら、男二人の方な、肝試しにいったんやて、一週間ほど前、近くの山に」

「一週間前っ」


 勾玉が盗まれたのと同じ頃だ。


「な? 可能性大やろ」


 今度は素直に頷かざるを得ない。


「それで、女性の方は見つかったんですか?」

「まだや。ただ、コイツら、その女にしつこく付きまとってたみたいやな。女はかなり迷惑しとったようや。せやから、男どもが強行手段に出て、女が報復したんやないかとも書かれとるわ」


 ここで座ってスマホを弄ってるだけで、いろんな情報が入ってくる。

 信憑性はともかく、ネット社会って本当に怖い。


「あの勾玉は人の理性を狂わすもんやから、ヤツらが持ってったとしたら、日頃溜まってたもんが抑えきれんようになって、無理矢理女をモノにしようとしたっちゅう可能性もあるわな」

「だとしたら、勾玉はどこにあるんでしょうね? 外から見た感じ、あの火事場にはなさそうでしたけど、男の自宅ですかね。それとも、女性が持ってったんでしょうか?」

「そこで、オマエの出番や。現役大学生くん」

「は?」


 なんか、ものすごくよくない予感がする。


「さすがに住所まではわからへんから、ガッコで誰かに聞いてくるんや」

「無理ですよぉっ。僕、他校生ですし、先輩みたいに、事務のお姉さんたぶらかして、住所聞き出すなんてこと出来ませんっ」

「アホか。そんなんオレかて出来ひんわ。有名な大学やし、一人くらい知り合い居てるやろ。オレは、一人寂しくここで待っとるから、頼んだで」


 横暴だと思っても、いってもムダだとわかってるので、僕は内心泣きながら店を出た。

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