第28話 煌めく星の下で

バババババババババババババババッ


青空の下、大きなヘリコプターが4台が大きなコンテナ4つと共に、藤堂やルイスら6人が死守したエリアに降下する。コンテナの役割はそれぞれ異なっている。1つ目は本作戦の参加者を収容するためのBベースCコンテナ。2つ目は本作戦で発見した貴重な変異個体を収容するためのもの。そして、3つ目には救援部隊が搭乗しており、最後のコンテナには十数機の探索ドローンが乗せられていた。


1つ目のヘリコプターから本田隊長が険しい表情で降りてくる。そのまま、A班のルイスと会話をかわし、建物外にいる者たちの顔を順に確認していく。B班からは千咲、C班からは莉菜に、生存者がこれで全員かの確認をとる。2人は肩を小刻みに揺らしながら、首を縦に振った。本田は2人の頭を大きな右手で優しく撫でた。


――作戦参加人数特別派遣部隊:6名・実動部隊:18名。内、死亡が実動部隊から7名。そして、大半が重軽傷を負う事態。ラッセまでも重症。特派からはまさかの添木が意識不明の重体。史上最高難度の任務になるとは予測はしていたが...まさかここまでとは...


予想を大きく上回る被害状況に言葉を失う本田。されど、その動揺が皆に悟られぬように現場の指揮をとっていく。光合成樹林内にいる限りまだ任務は終わってはいないのだ。


「負傷者は至急本部へ搬送してくれ。もちろん、美来もだ。施設内の変異個体のサンプルを回収するために全てのドローンを起動。戦闘のあったエリアに向かわせろ。タンク・アームズの回収も開始だ。救援部隊とまだ動ける兵は引き続き周囲を警戒だ。」


――リック、サニー、ダン、ヌー、ホォツイ、カイル、エイデン... 皆よくやってくれたよ。ゆっくり眠ってくれ。


本田は、仲間たちが逝ってしまったこの地に、トクトクとボトルから酒を垂らした。



~~~



「皆の報告をまとめると暴走した美来くんが進化者エヴォルを殺害。勢いそのままに合成変異個体を粉砕。そして、美来くんの波動と硬化を確認した...と。」


「いえ、暴走は言い過ぎかと。」


本田の言葉に千咲が控えめに反論する。祐介もその言葉に頷く。


「美来ッチは俺達を救ってくれました。」


「しかし、会話は成立していなかったんだろ?戦闘時だけでなく、地下へ降りるときも莉菜くんたちを無視した...それに美来くんの表情はいつもと大きく異なっていたと実動部隊の者達からの報告もある。精神喪失状態ロストとまでは言わないものの、能力を完全に制御していたとは言い難い...のが現実だね。まあ、彼自身の記憶を確かめるまでは何とも言えないがね。」


太陽がもう少しで地平線の下におさまろうとしていた頃、光合成樹林第二研究所へと向かうヘリの中で彼らは実地検分に基づき議論を重ねていた。空中に映し出された無数の画像ホログラフィが今回の戦闘の凄まじさを物語っていた。その中でも最も目を惹いたのが、波動を使う者同士の戦闘が繰り広げられた大ホールのものであった。


「千咲くんたちのカメラにも戦闘の動画が残されていたけど、想像を絶するものだったよ。美来くんにはやはり畏怖すべき力が宿っていた。彼を暴走させないために上も死力を尽くすだろう。」


千咲は美来は断じて暴走などしていなかったと叫びたかったが、映像に千咲へと加速したものがあったため、この主張は認められそうにはなかった。そんな気持ちを察したのか本田は優しく、大きな右手を差し出す。彼はいつもなにか相手と心を近付けようとするとき、利き手で握手するという癖があった。


「まぁ、特派の皆が命を失うようなことが無くて良かった。」


千咲は同じく右手を差し出し、その手を握った。そして、窓の外へと目をやる。それに本田もつられる。そこには満点の星空が広がっていた。


「綺麗なもんだな...」


散った兵士たちの意志は生き残った者へ託され輝き続ける。さながら、光合成樹林の夜空に煌めく無数の星の如く、半永久的に...



~~~



「彼から連絡があったらしいね。第一管理研究所の寄生型遺伝子変異鉱石を破壊したと。やるものだね、美来くんも。」


「しかし、彼の波動には確たる意志が宿ってはいません。それでは、波動という力の本質を引き出すことは叶わないはず。そうは思いませんか?教授。」


「その通りだ。意志の強さがなければ波動の真の力を引き出すことなど不可能。ただ、理性を失っていたという割にはとても強力な波動を撃ち出していた。彼は...いったい...。仮説が無いわけではないが。」


「僕もそれについて断定することは出来ませんが、仮説ならあります。」


「ほぉ、聴かせてくれないか?」


「彼は既に意志を託されている。それが仮説です。」


「なるほど。同じことを考えているようだ。」


「美来はまだ能力に、力に使われています...」


風が強く吹いており、今日は星たちの輝きを雲が隠していた。彼らが話し込んでいたのはイギリスの夜空の下。オルドリッジ財閥の本社ビルの屋上であった。そこからならば、嘗てヨーロッパで最も高いと言われたザ・シャードすら眼下に見下ろすことが出来た。


「君はそろそろ光合成樹林むこう行くんだろ?」


古賀教授が白いコートを羽織っている男性に尋ねる。


「ええ。ケレイブも連れていきます。」


「そうか。それと、あの子はどうするんだ?彼ももう連れていくのかい?」


「いえ、彼はもう少し後で送らせます。いろいろ、準備の方も大変そうなのでね。」


「なるほど。」


そう教授が答えた直後、一瞬が吹いた。


「ケレイブか。」


「そうです。義仁さん。」


先程まで2人しかいなかった空間に突如として現れる金髪、碧眼、高身長の男。高級ブランドのスーツ完全に着こなし、義仁の前に跪いていた。


「完全に覚醒させるために、少し荒療治ではあるものの、光合成樹林で過ごすことが最善策だと考えたんだが...奴らは未だ、美来に対して、本当の彼についての情報を与えるつもりはないらしい。情報を制限し、家畜のように美来の力を搾取しようとする。それが奴らのやり方か...まるで、変わっていないな。」


「義仁さんの仰る通りです。あなたの言葉に間違いはない。」


そう答えるケレイブを一瞥し、硬化させてつるぎのような形状へと発現した手を、夜空を穿つように突き上げ言い放つ。


「それでは意志を持たぬ同胞に、本当の自分というものを問質といただしに行こうか。」


夜空を覆ていたはずの雲にぽっかり穴が開き、そこから真ん丸な月が顔を覗かせていた。

物語はさらに加速していく。















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