第24話 終わらぬ戦い

ズガガガガガガガガガガガッ!!!


澄みきった青空の下だというのに、彼らは不燃性の毒霧漂う空間で激しい火花を散りそうな戦闘を繰り広げていた。


「ルイス、これ、もうすぐとれそうだっ。」


タンク・アームズに付着している巨大イカの変異個体がとばした緑色のジェルの除去作業をしていた2人からの吉報に、ルイス、藤堂、残りの実働部隊隊員2人も心の中で大きくガッツポーズをとる。ずっと、藤堂の絶え間ない特攻、それを最大限活かすためのルイスが中距離から銃撃を加え、残りが遠距離から攻撃を加えていたが、依然として、銃撃は巨大イカ自身が全身から分泌した緑色のジェルの鎧により弾かれていた。突破口が無い手探りの戦闘であったが、今ここに確かな希望が湧いて出たのだった。


「よし、あともう少しだ。もちこたえるぞ!!」


「もちろんですよ、ルイスさん。」


そう威勢よく返答する藤堂だったがパワードスーツのエナジーがもう底をつこうとしていた。エナジーが尽きれば、これまでのような、やぶれかぶれの特攻も続けられなくなってしまう。エナジー切れが意味することは、推進装置ブスーターや耐衝撃装置が使えなくなるということである。いくら藤堂の特異能力が肉体強化でも奴の猛攻をそれのみで耐え凌ぐことは不可能だ。

だからこそ、勝負はエナジーが尽きる前に決さなくてはならない。


藤堂は地面にアンカーを撃ち込み、遠心力を利用し対象の胴体へ接近し、スーツに搭載されている漆黒の刃を突き立てる。正式名称は超音波切断刀ウルトラソニック・ブレイド。特派の技術開発部によるもので鋼程度なら当てるだけで切断可能である。光合成樹林内でも使えるように使用時に火花が飛び散らないように刃にコーティングがなされている。欠点は使用時の電気消費量が尋常ではないことと、刀身が短いことだ。後者の理由により、巨大な個体には一発で致命傷を与えることが困難なのだ。


「うおりゃああああああーッ!!」


藤堂の渾身の斬撃が鋼を凌ぐ強度の緑色のジェルを貫通し、銃撃だけでは届きえなかった肉体へと至る。しかし、致命傷には程遠い。ルイスも中距離攻撃から、斬撃をくらわせるための接近戦を試みる。ルイスは藤堂とは違い、近接戦闘はスーツ着用時でも下手をすれば戦闘不能に陥る危険性はあるが、今はリスクを承知で飛び込むべきだと判断したのだ。藤堂は胴体に、ルイスが樹の幹のような足に、斬撃をお見舞いする。ボッボッボッボッボッと変異個体が悲鳴に似た音を発する。


――まずいっ、エナジーが...


「除去作業完了。お二人とも、退避を!!」


待ち望んでいた声を合図に、藤堂とルイスがその場を離れる。怒涛の斬撃の嵐で、身体に大きな傷を負った変異個体はその場から移動することが出来ない。ガシャンと音をたて、電磁波放射弾の照準が固定される。そして、対象の頭上で炸裂する軌道で弾が撃ち出された。一発目と同様、電磁波放射範囲の水分が一瞬で水蒸気へと変化する。イカの全身から湯気が立ち昇り、その身体はみるみるうちに縮んでいく。その断末魔はボボボボボボボボッという何とも気持ちが悪い...いや、命懸けのものであった。


辺りに湯気が立ち込める中、脱力したようにルイスが呟く。


「何とか...凌いだな。」


「ええ。なんとか。」


藤堂は非常用エナジーに切り替わったスーツの表示を見ながら返答した。2人がいる場所へ実動部隊の4人も集まる。それぞれが今という結果を生み出せたことに称賛をおくり合う。そして、ルイスがこの戦闘の決め手となった唯へ感謝の言葉を贈る。しかし、返答がない。スーツのマスクに表示されているのは通信エラーという文字。


「まさかっ」


そこにいた皆が視線を上にやる。そこで彼らが見た物。それは


銀翼錯乱蝶シルヴァー・ジャミング・バタフライ...」


「文明殺しが何故こんなにも?」


「今、電磁波放射弾の影響で殺虫グレネードが吹き飛んだ途端にここに群がって来るなんてな...まるで、あの超兵器タンク・アームズが通信ありきのもんだと理解してるみてぇじゃねえか。」


「ルイス、でもこいつらだけなら一瞬でやれるだろ。さっさと―ッ!!


話していた隊員の顔が硬直した。いや、それは彼に限ったことではなかった。

皆がいる場所から見える樹林の中からあのおぞましい音が響くのが聞こえたのだ。

ボッボッボッボッボッ

一体、二体...そんな生温い数ではない。あの変異個体イカの大合唱が樹林から響いてきたのだ。次第に足音も聞こえてくる。そして、とうとう樹林から群れを成した巨大イカが姿を現した。そのほとんどが先と同じかそれ以上の大きさをしている。その数およそ十数体はいるようだ。


「おいおい、一体でも苦戦したってのに...これは...」


ルイスが苦笑いで再び銃を構える。


「藤堂。エナジーは?」


「すいません。もう...」


「だよな。」


生き残ったことを安堵していた5人は、既に自らが辿る運命を自覚し始めていた。それでも、諦めることだけは許されない。任務は死ぬまで全うする。仲間のためにも。皆そう心に誓っていた。だからこそ、皆、武器を構えた。


「さあ、俺たちの足掻きを見せてやろうじゃねえか。道半ばで命を落としたリックのためにもな。」


一同は大きくうなずき戦闘を開始した。




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