孤独な赤ずきん-02

 あの日のことはよく覚えている。

 泣かないまま、ハンターらの馬車に乗って父と一緒に母、だったものをもう一度見た夜。

 馬車から降りると、リタよりも先に父は妻を確認したいとハンターにせがんだ。

 布にくるまれた胸までしかない母。

 父は、それを愛おしそうに抱きしめると絶叫し、涙をあふれさせる。

 優しい父が酷い言葉を使って人狼を罵った。そして、人を狼から守るはずのハンターも無能だと怒鳴り散らした。

 死体を抱いて怒り狂う父はこの時すでに別人のように思った。

 リタは何も浮かばなかった。

 ただ、体が冷えているとしか考えていなかった。


 粛々と村の人の手伝いで葬式が行われた。

 父は母が死んだ日から痩せてしまい、目つきが鋭くなった。髪もぼさぼさだった。頬の皺は一層深くなった。

 何もかもが終わり母の墓の周りには誰もいなくなった。父と二人で寒空の中無言で立つ。

 父は膝をついて母の墓に祈っている。

 リタがその父に声をかけられたのは久しぶりだった。

「……リタ、私は決めたよ。あいつらを退治してやるんだ。一匹残らずにな」

「ハンターにお願いするの?」

「違うよ。私とリタがするんだ」

 にっこり、微笑んだ父。もう泣いてはいない。

 そうか、良かったとこの時のリタは思った。

 父はもう悲しんでいない。

 

 父は村の有志と過去に人狼によって家族を失った遺族を探し出した。

 そして、人狼討伐隊を作った。

 猟師≪ハンター≫は国が所有する正規軍だった。

 父はそれらとは別に作った部隊を赤ずきん≪レッドフード≫と名付けた。

 母が殺された日にリタがかぶっていた赤ずきん。その日を忘れないためと、奴らの血によって全てを染め上げるという意味だった。

 リタはそう語る父が怖かった。

 ぎらついた、食べたいという衝動だけの人狼の目と同じ。

 赤ずきんをあの日以来着けていなかった。

 だって、恐ろしい出来事を思い出してしまうからだ。リタは赤ずきんという名前の部隊なんて嫌だと訴えたが聞き入れてくれなかった。

 それどころか、まだ六歳だったリタを部隊に入隊させた。父は全財産をつぎ込んで部隊を募集した。女も子供も志願すれば誰だって入隊させた。

 そこでの訓練はまるで地獄だった。

 訓練なんてものじゃない。実戦で覚えるしかなかった。

 そうじゃないと誰も守ってなどくれない。

 リタは強くなるしかなかった。

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