第25話:おりん

谷を降り、やがて、平らな道が続いた。森のような感じだ。

木々の合間から大きな屋敷が目に入った。

「あれが・・・本家の・・・」お篠が指を差した。

「お~、デッケ~な・・・」山師。確かに大きな屋敷だ。

「あれは、分家のお屋敷です。」お蝶が応えた。

あれで・・分家か・・・だとしたら、本家は・・・・・

「はい、比べ物になりません。」

おいおい・・・、それじゃ、城じゃないか・・・・

「そうです。お城と言った趣(おもむ)きです。」


分家の前まで来ると、森の木々の間から一人の美女が現れた。

ゾッとするほど美しい。だが・・・、頭が少し暖かいようだ。

明らかに常軌を逸した装(よそお)いをしている。

今にも、はだけそうな真っ赤な着物を着ていた。たわわに実った二つの膨らみが、今にも姿を現しそうだ。

こんな森の中よりも吉原にでもいそうな格好だ。

「あ~ら、清貴様~・・・こんなトコまでお散歩ですか。お加減はいいみたいですね。」真っ赤な唇が怪しい。

「え・・あ、いえ・・・オレは・・・」胸がドキドキしてきた。

「こちらは、清貴様ではございません。」お蝶。

「え・・じゃ、誰なの・・・」小首を傾げた格好も艶(なまめ)かしい。

「こちらは、清雅様ですよ。おりん様。」

おりんと言うのか。この美女は・・・・

「ふ~ン・・」そう言って、オレを舐め回すように見た。うっとオレは呻いた。香水の匂いか、一気にオレの理性が吹っ飛びそうだ。

たわわな胸の谷間から目が離せなくなった。

「清まさ・様・・・そうね。清貴様は今、ご病気で臥(ふ)せってるって話しだものね。」

「ご病気・・・」篠。

「じゃ、この方が、例の・・・」

「はい、お女中・雅との・・・」

「ふふ・・・あたしは、りん。分家の者よ。」

「おりん様・・・」オレは応えた。

「どう・・・あなたが、家督を相続したら、あたしと結婚してあげても構わなくてよ。」

え・・・

「おりん様・・・ご冗談が過ぎますよ・・・」



「いいえ、冗談じゃないわ。あたしと結婚すれば、分家も黙るでしょう。」

「それは・・」お蝶も言葉に詰まった。

「ま、でも・・・江戸の方からすると・・・退屈かもしれなくてよ。」

退屈・・・

「いっや~、」山師。「こんなキレイな方がいるんだ。退屈しないですみますよ。」

「そうね・・・」りんは、オレの股間を握り、「あたしとやったら、他の女とじゃ、モノ足りなくなるよ。」と怪しく微笑んだ。

「う・・ちょ・・・」何とか、股間から手を離してもらった。

「フフ、じゃぁ、またお会いしましょう。」屋敷へと戻っていった。

意味ありげな笑い声だけが耳に残った。

オレたちは皆、呆然として見送った。

明日真は背後を気にした。何か大きな影が蠢(うごめ)いたような気配があった。








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