第3話 お酒を隠した犯人に天罰を!3

アクセル唯一のギルド。多くのクエストを発注しており、冒険者を始め多くの人間が依頼を受けて報酬を得る。また、始まりの街だけありレベルも幅広い。そんな掲示板の一角に「泥棒の捕縛!未だに尻尾も掴めぬアクセル屈指の大泥棒」と書かれた依頼書を見つけた。

「コレね!この泥棒を捕まえれば万事解決!さあ、捕まえて弁償させましょう!」

いつになくやる気なのが寧ろ心配である。コイツほど空回りが過ぎるのはいないだろう。冷静になれと言ったところで自分が冷静であると錯覚してるコイツには意味がない…なんとも皮肉なものである。

「まずは情報の聞き込みだな。見つけるまで時間はかかるんだ………アクア」

いない。アイツ先走ったな。…あっはー…こういうのはなんというか面倒臭い…というより後始末はきっと俺なんだろうなと思うと本当に辛い。いや、寧ろそうならないためにも俺が今すべきことは一つ!

「待て、アクア!」

勢いよくギルドを飛び出したのであった。


いない。いないいないいない!どこにも目撃者がいない!なんで?!なんでいないのよぉぉおおおおっ!これだけ有名なら誰か1人くらい知っててもよさそうなのに誰1人として知っていない?なんで?!

「無闇矢鱈に走り回っても意味ないぞぉぉおっ!」

後方から聞こえる声に我に帰る。そうだ、有名なら噂になることもないはず。そうだった。だとしても

「それならどうやって探すのよ?普通に探しても見つからないならこうやって走り回るしか」

「心当たりがある。あそこなら多分力になってくれる物を買えるはず」

え、買う?そんな便利な物どこに売ってるの?というよりそんな場所あったっけ?このアクセルの中にそんな優秀なお店は無いと思うのだけど…強いて言えば陰湿なリッチーの店主が構えるお店くらいしか…

「ウィズのところへ行くぞ」

ですよねー。知ってた。変わりモノばかりのお店に私を満足させる品があるとは限らないけどまあ、カズマが言うなら多少は信用できるかもしれない…けどよりにもよってまさかそこに行くことになる?まさか?ねえ?

「おい、今凄く失礼なことを考えていたんじゃないか?」

察しがいい時のカズマさんは結構冷静である。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件………カズマさんにアクア様!どうかなさいましたか?」

この店主、リッチーのウィズは過去に色々あって今ではアクセルの働けば働くほど貧乏になる店主として有名になった。当然ながら彼女の正体を知っているのは数少なく…いや、そうでなければ今直ぐにでもこの場を立ち退かされるのではないかという経緯を持っている。正直言えばアクアより頼りになる。

「特定の人物を探し出すアイテムとか売ってないか?例えば痕跡さえあれば犯人を見つけられるような」

「ありますよ?」

あった。え、あったの?彼女が取り出したのは見た感じ普通の手鏡。まさかとは思うがこれに姿が映るとか。

「この鏡に探している相手の姿が映るんです」

ベタすぎる…でもまあ、いいか。

「試しに使わせてもらっても?」

「どうぞ?」

話が早いところもウィズの美徳だと俺は思う。

「でも使用する際はなるべく野外で人の多い場所にしてくださいね?」

「と、言うと?」

「受信できない可能性がありまして」

旧式の携帯電話?!まあ、それでも無いよりはあった方がいいに決まってるか。こうして、俺達は不思議な手鏡を手に入れ…借りた。

ところ変わりギルドの前。ここなら人が集まりやすい。それに…

「カズマー!瓶とってきたわよー」

十分に時間を稼げる。

「なるほど、理由はある程度理解しました。念のために着いていきますね」

先ほどと違うのは頼りになる女主人が同行していること。万が一犯人を見つけられたとしたら手伝ってもらうつもりで同行を了承した。

「さあ!犯人を暴くわよ!私のお酒の恨み晴らさずおくべきか!」

「呪いでもかけるつもりなのか…」

とまあ乗り気の駄女神を尻目に鏡に空の瓶を映した。

「正直、どのような結果になるかわかりませんからね」

おっと、ウィズさんそれは言ってはいけないことでは?と思いつつも鏡にはアクアが映る。その片手には酒瓶を持って?おっと?ソファーの近くに寄り?深く腰を下ろして?酒瓶を?開けたぁぁああっ!豪快に酒を飲むぅぅうううっ!見る見るうちに酒瓶が空になるぅぅうううっ!知ってた。

「アクアさん。これは?」

「…………はい」

「これはどういうことかな?」

「どうやら私が飲んだみたい…です」

「結局お前が犯人じゃないか!予想通り!知ってたけどさ!」

ビシッ、とアクアを指差す。

「な、どうして俺が巷で有名な泥棒だとわかった?!」

アルェ?オッカシイナー?変なのが反応したぞー?アクアのちょうど後ろにいた男性が飛び退く。

「貴様らもしかして俺を追いかけていたのか?!まさかこのタイミングで!人が集まっている中で特定したとでもいうのか?!」

アルェ?オッカシイナー?俺はアクアに怒鳴りつけてただけだぞー?

「ちょっとカズマ!早く捕まえなさいよ!犯人が動揺してるんだから簡単でしょ?!」

お前、どの口がそんなことを言えるのか。お前…本当にもう…

「おっと、俺に近づいたところで捕まえることなんてできないと思え?何せ今まで一度たりとも姿を見せたことがないんだからな!」

いや今ちょうど姿が街中に暴露されましたが?天下の大泥棒さんの素顔と声が街中に響いているんですが?

「俺を捕まえたいなら大人数で囲むくらいするんだ」

「カズマさん、こんな感じでどうですか?」

既に縛られてるんですけど?

「なっ、離せー!解放しろー!無実の民になんてことを!」

いや、暴露してたじゃん。ナニコレ本当にナニコレ?こんなヤツが大泥棒?自分から捕まりに来たんだけど。

「まあ、このアクア様にかかればこれくらい朝ご飯前よ!ところでカズマさん、ご飯は?」

あぁ、一つだけ言わせてくれ。

「お前はその前に反省するべきことがあるだろうがこの駄女神ぃぃいいいっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る