1W(ワット)  俺の実家は電気屋さん


 実家は、いわゆる街の電気屋さんだ。


 親父がそろそろ店の後をげと言う。

 俺は今まで高校生だったが、大学に進学をするか、上京して就職をするか悩んでいた。


 街の電気屋さんのお店は暇そうに見える、が、実はものすごく働いている。


 それはお店以外にあり、発注者から工事などの依頼で現場に向かうからだ。

 現場での仕事内容は、例えば新築住宅。住宅の電気が使えるよう内装前に、分電盤と無数の電気配線と照明などと設置する。同じくして、テレビのアンテナ、ケーブル配線、ブースター、分配機のなどの設置して内装後に、スイッチにテレビと電気のコンセントなどの設置、そのあと家電の施工もする。


 さらに新築住宅以外にも、大手家電量販店から家電の設置工事の依頼、一般家庭からはサービスの対応と工事、たまに家電修理の依頼もある。


 街の電気屋さんの仕事はたくさんあり、覚えることも多い。出先の現場に季節は関係なく、暑さと寒さに耐えられること、あと、重い物も持つので体力と気力が必要だ。そして施工ミスがなく、知恵が回り綺麗で丁寧かつ仕事が早いことも求められる。俺はそんな現場の厳しさを知っていたのだが、俺の進路に、店の後を継げと言う親父の言葉が引っかかる。


 街の電気屋さんの季節は夏だった、うだるような暑さが来ていた。


 夏と冬は店が一番忙しくなる。この季節は大手家電量販店と一般家庭からの依頼が殺到して忙しくもあり、かき入れ時でもあるからだ。


 そんな時期、急に街の電気屋さんのほうにお客さんが電話をされても、即日対応が難しくなる日もある。そこで余計な話だが、ぜひ夏と冬以外の閑散期に連絡してもらえると、スムーズに対応ができると思う。


 忙しい親父が俺に跡継ぎを頼んだのは、色々思うことがあってのことだと思う。歳で季節の気温差に体が付いていかない、繁忙期に人手が足りない、人手を入れてもアルバイトが思うように動かない。そんな中で気心が知れた息子と現場で仕事が出来たら、施工の仕上がりも良く、早く楽に終わると思ったのだろう。


 俺は昔から電気の知識も十分にあるとおもう。なぜなら実家の店に電気関係の本が沢山あり、毎日読みあさっていた。子供の頃から親父の背中をみて、仕事の現場を時々見学しに行ったこともあった。おかげで小学校と中学校の理科・科学で電気の成績は最高ランクの5だったが、当時は街の電気屋さんに生まれていながら実家の仕事に興味はなかった。それが当たり前だと思っていた。


 うだるような暑い日の夕方。現場で汗にまみれ、汗の塩が作業着に付いて店に帰ってくる親父をじっと見ていた。親父……ちょっと話がある。俺、街の電気屋さんを継ぐよ。仕事終えた親父は、笑顔でうなづいてくれた……。

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