フェンリルVSユニコーン

 家の中での役割分担が大体決まり、とくに変わらない日々が何日か続いていた。

 俺とキュリアたちで依頼をこなし、自称料理得意ガールのルナが朝食から夕食まで準備をし、だいぶこの人数での暮らしにも慣れてきた、そんなある日のことだ。



「かえせ、かえせー」


「リコがオレのこと馬鹿にしたのがわるいんだ。ちょっとは反省しやがれ!」


 リコルノがるんるんに向かって両腕をぐるぐる振り回している。ポカポカという効果音が聞こえるような殴り方……、るんるんにはノーダメージのようだ。

 キュリアはそんな2人を見てかなり慌てているのか、口元に手を当ててあっちこっちとその場を行き来している。


 そして、俺の存在に気づいたキュリアは急いでこちらに近寄ってきた。


「リコとるんがけんかしちゃったからっ……、きゅーもだめって言ったの! でも、でも……」


「わかったわかった。そう慌てなくてよろしい」


 因みに、以前キュリアのことを警戒してるように見えたるんるんだが、明らかに思考が幼いキュリアを見ているうちにそれもなくなったようだ。

 今ではキュリアが頭を撫でられるくらい立場が逆転してしまっている。


「おいるん、あんまりリコのこと苛めてるともう一緒に寝てやらねーからな」


「ちょっとまてよ! そりゃねーぜ!」


 るんるんは寂しがりやだ。子分たちとは脳内で繋がっているとしても、1人でいるのはやはり心細いらしい。

 リコルノとキュリアは1人でも寝られるのに対し、るんるんは1人で寝ることだけは絶対にできないようだ。

 もともと部屋が1つ足りないためキュリアがルナと一緒に寝ることになっていたが……、そのような事情により俺がるんるんの子守をすることとなっている。


「るん、大人しく負けを認めて眼鏡かえして」


「誰が負けってんだ……。リコが謝れば済む話だろーがっ!」


「リコはどうして1人じゃ寝れないのか聞いただけ。わるくない」


 どうやら、リコが疑問に思って口にした言葉がるんるんに大きな精神的ダメージを与えたようだ。それで馬鹿にされたと勘違いしたるんるんが眼鏡を取り上げたと……。

 リコルノも思ったことをすぐ口に出しちまうからなぁ。


 リコルノは俺の方へ顔を向けると、悪いのはるんるんとでも言いたいのか、無言でるんるんに指をさしてコクコクと頷いた。

 

「うん、リコに悪気がなかったってのは俺もわかった。わかったけどな……言葉次第で相手が傷つくことだってあんだよ。るんるんが理由なく眼鏡を奪うわけないだろ?」


「たしかに……リコもるんが理由なく眼鏡奪うとは思えない」


 リコルノはるんるんを指してた指を下ろすと、謎めいた表情で宙へ顔を向けた。

 どうやら自分が何かしたからるんるんが怒ったということはわかったみたいだけど、肝心なその何かがわかっていないらしい。

 これはもう少し教える必要がありそうだ。

 ……なんで俺が保護者みたいな立ち位置にいるかは知らんが。

 

「るんも、リコに悪気がなかったってのはわかったろ? お前も癪に触れたからって眼鏡を奪うのは悪い」


「うん、わかったっての……」


 るんるんはそう言うと、眼鏡をリコルノにかけなおし、目を合わせた。

 だが、素直じゃないるんるんが長い間めを合わせることなどできず、すぐに顔を背けた。だが、口元は僅かに動く。


「その……眼鏡とってごめん」


「リコも、るんに悪いことした。ごめんなさい」


 リコの様子だとまだなにが悪かったのかはっきりとわかっていないようだ。まあ言葉の良し悪しなんて、幼いリコルノにとってはまだ難しいだろうし、ゆっくり教えていく必要がありそうだな。

 一応もう一度言っとくけど、別に保護者になりたいわけではないから。そこは勘違いすんなよ。


「まあ……とりあえず仲直りできたから良し……か?」

 

 俺はリコルノの頭を優しく撫でる。

 ちょこんと額から出た、一角獣の象徴である角が可愛らしい。満足するまでたくさん撫で回してやると、リコルノはずれた眼鏡を自分でかけ直した。


「にぃ、2人とも仲直りできたんだねっ!? 仲直り仲直り〜っ!」


 先ほどまで不安げな表情で見つめていたキュリアが、笑顔で駆け寄ってくる。

 だが、俺は駆け寄ってきたキュリアを両手で静止させる。

 このまま突っ込まれたら、俺の腹部にキュリアの頭から生えた二本角が突き刺さるところだった。危ない危ない。


「ご飯、そろそろできますよ〜」


 キッチンの方から、何やら上機嫌なルナの声が聞こえてくる。

 ルナの声を聞き、3人は嬉しそうにぴょんと飛び跳ねた。

 キャッキャと嬉しそうな声をかけあげながらテーブルへ向かう姿はとても微笑ましい。


 でも、なんなんだこの状況。俺、こんな幸せな家庭築いた覚えないんだけど。

 ルナと話すのは少しずつ慣れてきたが、他の女性と話せるかとなるとそれはまた別だ。

 まあ、今それはどうでもいいことで、俺は現在何をしているんだろうか。これ、この状況、どこからどう見ても仲良し家族じゃね?


「「どうやら、この世界で楽しく過ごせてるみたいで安心したよ」」


 その瞬間、俺の脳内で聞き覚えのある声が響いたのだった。

 

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