魔物使い(2)

「おい餓鬼……これでもしテメェが食われてたら俺がどうなってたかわかってんのか? あ?」


 現在俺、土下座しながらお説教を受けています。

 どうやら、俺を必死に止めていたのは、俺の身が危険だということより、事故になった場合の店の存続の方が心配だったかららしい。

 そんな俺の様子を見ている大蛇はとても申し訳なさそうである。

 ……いいんだ。お前のおかげでとりあえずは追い出されてねーんだから、お前には本当助けられたよ。

 説教中に喋りかけるわけにもいかないので俺はそう頭の中で呟いた。


「話しきいてんのか? 怪我しなかったからよかったものの、これで殺人事件にでもなったときゃ俺は終わりだぞ! ヒヤヒヤさせやがって……」


「すんません……」


「ただ……まさかあの大蛇を一瞬で手懐けちまうとはなぁ」


 おじさんは少し関心したように俺にジロリと目を向けると、顔を上げろとでもいうように俺の頭をパンパンと上から叩いた。

 それはかなりの衝撃で、あまりの痛さに後頭部をおさえながら俺は顔を上げる。


「おっさん……?」


「おっさんじゃねぇ、オーガスだ」


 オーガスはそう言うと大蛇の方へ近づき、右手に持っていた生肉(何の肉かはわからないが)を右手ごと檻の中に突っ込んだ。

 大蛇はそれに勢いよくとびかかると、オーガスの右手を華麗に避け、生肉だけが口の中へと一瞬で消えていった。


「普通……こんな風に手懐けるには何年もかかるはずなんだが」


「それじゃ売れなくね?」


「俺がしつければ問題ねぇんだよ。まだこいつは俺以外の生き物は捕食しようとするからな、あと数ヶ月は俺が様子見なきゃなんねーんだ。

 ……ってそうじゃねぇ」


「俺がどうして一瞬で手懐けられたかっ……てか?」


「ああ」


 正直説明しようにもしづらいからなぁ、何て説明すればいいんだか……。てか信じてくれるかもわかんねぇしこの能力みたいなの。

 まあ、わかってること全部言えばいいか。


 俺はうんと頷くと、そのままオーガスの方へ振り向く。


「なんつーかその、自分でも信じらんねーんだけどさ、俺性別が雌の生き物にすぐ懐かれんだよね……。恐らく人間にもだけど」


「羨ましい体質だなぁそりゃ」


 オーガスは何の疑いもなくそう答えると、俺の顔をじーっと見つめ、再び口を開く。


「モテそうな顔じゃねえのにな」


「それは余計だ!」


 つい乗り出してしまった身体をゆっくりと元に戻すと、俺はぷいっとオーガスから顔を背けた。

 まあ、確かに自覚はあったさ……モテそうな顔ではないくらい。

 こんな子供っぽい顔つき、誰が好きになるだろうか。

 だめだ、考えちゃだめだ。考えたところで解決することじゃねーし。

 そんな俺の態度などオーガスには何も通じていないようで、先ほどと変わらない態度のままオーガスは俺に向かって話し続けた。


「まあ、お前が気づいてるか気づいてないかは知らねーが、そりゃ加護だな。おもしれー加護もあるもんだ」


「……加護? それって神様がくれるやつのことか?」


「そうだな」


 それならものすごーく覚えがある。神様からのいらないプレゼントだしなこの能力。

 てかオーガスが言うには能力じゃなくてあくまで加護を持ってるってだけなのか……。

 俺の納得した表情を見ると、オーガスは「それで?」と付け加えた。


「そんな珍しい加護ぶら下げて俺のとこまで来たってこたぁ、要するにこういうことだろ?」


「あ、やっと本題に入れた。まあ、そゆこと、俺もオーガスみたいな魔物使いになりたいなっ……て思ってよ」


 俺の言葉に少しの間黙り込んだオーガスは、数秒経ったあとに首を横に振りながら答えた。


「無理だな。俺と同じテイマーにはなれねぇ。雌しか手懐けられねえ奴と俺が同じだぁ? んなわけねぇだろ」


「雌だったらオーガスより俺の方が上だしな」


 オーガスの目がギロリと殺気立つ。


「ぶっ飛ばされてぇか餓鬼」


「すんません」


 やはりテイマーとしてのプライドがあるのか、今の言葉はかなり本気だった……。

 もう少しオーガスの導火線が短かったら今頃俺は三途の川に放り込まれていただろう。


「まあんなことより、雄雌関係なくテイムする俺だからな……、正直見ただけで判断するのは無理だ」


「おい、期待させといてそりゃねぇよ」


「勝手に期待したのはてめーだろうが。だが、雌しかいない魔物ってのも結構いる。こいつを持ってけ」


 オーガスは古びた本棚から埃まみれの分厚い本を取り出すと、それを雑に俺の方へと投げつけてきた。

 中には大量の魔物の生態が詳しく載ってある。


「俺とやり方が全く違うからな。悪いが俺がしてやれるのはこれくらいだ。あとは自分で努力しろ餓鬼」


「いや、こんな立派な本……本当に貰っていいのかよ」


「どうせ俺はもう使わねぇからな、勝手に持ってけ。俺はこう見えて忙しいんだ。ほら客じゃねぇならさっさと出て行け」


 オーガスはそう言うと俺の背中を出口に向かって押し出す。

 そして、頑張れよとでも伝えたかったのか、最後に俺の背中をバチーンっと思い切り叩き、建物中へと戻った。

 ……と思ったが、すぐに入り口から顔をだし、俺の方へ向くと「ああそう。ペガサスは雄、ユニコーンは雌しかいねーのは有名な話だぜ」と付け加えて再び建物中へと戻っていった。

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