俺の未来の姿

 

「そ、そういえば結局自己紹介できてなかったですねっ。えと……私はルナっていいます。みんなからはいつも怪我してて危なっかしいって言われてますが、一応冒険者をやってて、料理が得意なんですっ」


 未だに緊張気味なのか、力の抜けない調子でルナは俺に顔を向けた。

 路地裏を抜け、中心街へとでた俺たちは、そのまま彼女……ルナの家へ向けて歩いている。

 街の中は意外と広く、かなりの人盛りで賑わっている様子だった。いつもこうなのだとすると、少し賑やかすぎる気もするけど。


「で、何だっけ? お前の名前がルナだって? 俺はミズキ、女性恐怖症なんでこれ以上近づかねーこと」


 俺は素っ気なくそう答えると、地面にあるタイル5個分くらいの幅を指さしてルナに伝えた。

 もう俺のメンタルもギリギリだ。これ以上すり減らしてくるのはやめてほしいからな。因みに俺がルナと視線を合わせられないのは姉貴からのトラウマとかそんなことは関係なく、ただ単に女性慣れしていなくて恥ずかしいからである。

 これ、他の人には内緒ね。

 そういやルナは冒険者だって言ってたけどこの世界にはそんな職業あるのか、なんか就職活動困らなそうで便利だな。

 まあ、もしかしたらモンスターとか出てきそうだし、そうなると俺にも厳しそうな気がするけど。でもこれからここで暮らすとなると何かしら金を稼ぐ方法を探しとかねーとなぁ。


「なあルナ、ルナって冒険者やってるんだろ? 冒険者ってどんなことすんの? 危険なことあったりしねーよな……。あー、ちょっとまって近づかないで」


 俺の言葉に反応したルナは鼻息を荒くしながら俺の方へと近づいてくる。

 俺は別にそんな興味持たせるようなこと言ってねーと思うけど……それより最初に言ったこと守れよっ!

 俺は近づいてくるルナに手で追い払うような仕草をしながら近づいてくるのに合わせて距離をとった。

 だがそれに合わせてルナもどんどん近づいてくるので、俺は円を描くようにして壁に当たらないように後退する。

 鼻息を荒くするまではまだいいけど、俺に近づくのはまじでやめてほしい。

 こいつはあれなのか、人の話を聞いてるようで聞いてないタイプなのか? それとも最初から聞く気がないのか?

 

「だーかーら! 止まれってバカ! どこにそんな興奮するとこあったってんだよ!」


「ふえ? こ、興奮なんてしていませんよっ! 私はただ冒険者のことについてしっかりとたっぷりと教えようって……そ、そう思っただけなんですっ」


 俺の怒鳴り声でやっと足を止めたルナは、次は何やら顔を真っ赤にして俺に反論してきた。

 でもね、あんなに鼻息荒くしときながら今更言い訳しようったって俺には通じねーよ?

 まあ今はこの無駄な言い争い長引かせたくないからそういうことにしといてやるけど……。

 俺はジーっと睨んでくるルナから逃げるように視線を外して、ハァ……とため息を吐く。そして距離をとったまま再び歩き始めた。

 今のやりとりだけでも姉貴たちから追われるトラウマ思い出しそうだってのに、本当……俺の気持ち少しは考えてくれよ。


「で? 冒険者って何なんだよ。あ、軽くでいいから」


「うえぇ……軽く、ですか……」


「うん軽く」


 ルナはそれを聞いてガックリと肩を落としているが、そんなの俺には関係ない。だってコイツ夢中になって喋りだしたら終わらなそうな気がするもん。


「でも、軽くって言われても……その、どこからどこまでなのか……」


「あー、とりあえずお前がいつもしてる依頼とか……冒険者になるために必要なこと……とか、それだけでいい!」


「そ、それだけですか」


 ルナは俺の反応を聞いてさらに肩をガックシと落とす。しかもそれだけですかって、他に何か聞かなきゃいけないことあるのかよ……。

 冒険者になって金が稼げりゃ他に必要なこととか何もなくね?

 俺が疑問に思っていると、さっきまで少し悩んでいたルナがぱっと俺の方へ向きそのまま口を開いた。どうやら言いたいことがまとまったようだ。


「え、えっとですね……、まず冒険者になるには……のところですが、これはギルドという場所で身分証明書を作成すれば誰でも資格を得ることはできます」


「ギルドってなんかありきたりだな。つまんねー」


「そ、それはいいですからっ!

え、えと……次の質問の私のいつも受けている依頼ですが、採取の依頼などが多いですね。私は魔物とかと戦うのはあまり得意ではないので、あ、安全な依頼を受けることが多いです」


 安全な依頼だけでも暮らしていけるのか。

俺はルナの説明を聞きふむふむと頷くと、それなら俺でも生活していけそうだなとふと思った。まさか身の危険もそれほどないとはな。

 なんか魔物いるらしいけど、避けていけばなんとかなりそうな気もするし。


「じゃあ今から身分証明書だけでもつくってくるか、ギルドってこれだろ?」


 俺はすぐ隣にあった物件を指差すと何のためらいもなく中へ入っていった。

 ルナが「もう作るんですか!?」と驚きの表情で俺の方へ駆け寄ってきたが、俺は駈け寄れない程度にステップを刻み、身分証明書を作るためにカウンターの方まで急いで移動する。

 因みにここでその身分証明書を作るのに少し手間取った俺だが、長くなりそう……というか長くなったのでそこはカットさせてもらう。とりあえず身元がわからないのでそこで手間取ったということだけは言っておこう。


 そんなこんなで何とか無事に冒険者へと転職し終えた俺は、ギルドからでるともう一度ルナの家目指して歩き始めた。

 ここまでくるのに既に3時間くらいかかっている気がする。全く、どれだけ家が遠いのか……。

 辺りも少しずつ暗くなってきたのに気づき、俺は無事到着することができるのか少しずつ不安になってきた。


「いつになったら着くんだ?」


「もう着きますよ。えと……あれです」


 ルナが指差した先の方へ目を凝らして見ると何やら小屋のようなものが見えた。

 他の建物と比べるとそこだけ異様にボロいせいか余計に目立って見える。

 でも、まさかこんな今にも崩れそうな家に1人で暮らしてるってわけじゃないだろう……。これじゃ部屋なんて扉から入ったすぐのところの1つしかなさそうだ。

 だが、ルナの指差しているところは何度見返してもそのボロ小屋の方を指差しており、何を血迷ったのかルナ自身もその中へと入っていった。


「えっと……あのな。これ、お前の家じゃ……ないよな!?」


「? 私の家ですよ?」


 どうやらルナは冗談で入ったわけではないらしい。顔が冗談を言う時の顔じゃない、いたって真面目な表情だった。

 ルナの一言て俺の膝は力なく崩れると、ズサリと地面に刺さるように落ちた。

 どうやら、まさかのまさかと思っていたこの家が彼女のマイホームだったらしい。


 いや、収入源が採取の依頼だけだとなると少し不安な気もしてたんだけどね……まさかここまでとは思わなかったけど。

 しかもこれが俺の未来の姿だと思うと相当ヤバイじゃん。必死に強くならねーと俺の暮らしが最悪なことに……。

 俺は頭を抱えながら家の中に入ると、やはり1つしかなかった部屋にもう一度驚き、真ん中にあったテーブルのところにゆっくりと腰を下ろした。


 ってか今思ったけど……部屋が1つしかねーって、俺をどこで寝かす気だよ……! 女性恐怖症の俺が同じ部屋で寝れると思ってんのかこの女は!

 俺は絶望の淵でそう心の中で叫ぶと、現実から逃げるように額をゴンとテーブルの上にぶつけるのであった。

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