神話でも英雄譚でもない、人の物語

読んでいるにもかかわらず飢餓感を覚える、泥沼に沈むとは正しくこんな感覚なのだろう。気づいたときには沈んでいるのが常だが、沈んでゆく様を知覚できる作品は稀だ。
読むべき。

読了時の満足感こそが、本を読むことの最大の目的でありまた手段でもあるが、その世界が広ければ広いだけ、たとえ狭くとも深いだけ疲労する。それは経験していない事柄あるいは経験してはいけない行為を「さも理解(したと錯覚)する」ための代償に他ならないと私は思っているが、そういった意味で、世に溢れる「面白いが読み流せる」作品とは、確実に一線を画している。

地獄がどこにあるのかを口にしても天国は語らない。その重さがいい。

日々の積み重ねを綴ったはずの日記が、自分ではない誰かが読むことで虚実入り交じった伝記となり史実でなくなっていく様をこうも瑞々しくまざまざと感じさせる作品などそうそうあるはずもなく、書籍化されているという事実に今から震えている。書籍化、つまり校正され推敲された完成形がある。なんという僥倖だろうか。いまから週末が楽しみだ。

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