第5話 ◆ドキドキお嬢さま

◆ドキドキお嬢さま


その後、転校初日は何とか無事に過ぎていき、今は放課後である。

教室の掃除も終わり自分の身支度も済んで帰ろうとした時、一旦教室から出て行ったはずの、みどりさんがやって来た。

「それじゃミキ、一緒に帰ろう♪」

「うん。 でも本当にいいのかな?」

体育の授業の後、今日の帰りに、みどりさんの家に行く約束をしていたのだ。


「ええ、遠慮しないで。 さぁこっちよ」

「こっちって、でもそっちは職員室じゃ・・・」

みどりさんにグイグイ手を引かれて行くと、正面玄関に純白のロールスロイスが停まっていた。

「さぁ、乗って」

みどりさんがそう言うと、上品そうな運転手さんがドアを開けてくれる。


「みどりって凄い。 いつもクルマで通学してるんだ」

「うん。 あっ、そうだ!! これから毎朝、ミキの家に迎えに行こうか」

「えっ?・・・ いえ、そ、それは結構です」

オレは女の子らしくひらひらと両手を振って、丁重に断った。


クルマは静かに動き出し、海沿いの道を20分くらい走ったころだろうか。

「へ~ぇ。 みどりの家ってわたしのうちと反対方向なんだね」

オレはわざと大きめな声でうちとは反対方向であることをアピールする。

これで何とか登下校の間は、くっつかれなくてすむだろう。


「そうなんだ。 それにしてもミキ、妙に嬉しそうね?」

「えっ、そ、そんなこと無いよ」

この娘の感は侮れんなぁ・・・これが女の感ってヤツか?


「ほら、あそこに見えてきたあの白い家が私のうちよ」

「えっ、どこどこ?」

「あそこよ。 ほらっ」

みどりさんが、指をさしたそこには、お城のような白い建物が見えていた。 

お約束の大きな門をくぐると、玄関の車寄せにロールスロイスが横付けになる。


中から執事やメイドさんがずらりとお迎えに並ぶ。

「お帰りなさいませ。 お嬢様」

うわっ。 やっぱお嬢様って呼ばれてるよ。

メイドさん達が深々とお辞儀をしている真ん中を奥へと進む。


「さあ、私の部屋はあっちよ」

「それにしても凄い家ね」

玄関から一歩入ったそこは、大きなホールのようになっていて、床は大理石でピカピカだった。

「そうかな? 小さい頃から住んでいるから別に何とも思わないけど」

「そんなもんかな?」

それにしても1ステップあたりの奥行きが、こんなにある階段は初めて見るぞ!

「そんなものよ。 ほらっ、ここよ。 どうぞ♪」


あぁ、今まで一度も入ったことがない女の子の部屋。

しかもお嬢様の部屋だぞ。 って何を考えてるんだオレ。

みどりさんの部屋は、悪趣味な金持ちのお嬢様の部屋ではなく、とてもシンプルで機能的な家具と女の子らしさがマッチした部屋だった。

こんなところにも、人柄がでるんだろうな。


「わたし、ちょっと失礼して着替えさせてもらうね」

そう言うとみどりさんは着ている服を目の前で脱ぎ始めた。

「あの、みどり・・・」

「アハッ、ごめん。 気にしないで。 どうせ女どうしだし」

いいえ、女どうしじゃありませんって。


みどりさんは下着だけになると衣装部屋に入っていき、少しの時間で着替えて出てきた。

「お待たせ。 やっと楽な格好になれたわ」

「そうだ、ミキも私の服でよければ着替えない? 制服しわになっちゃうし。 ねっ、そうしなさいよ」

「あぁっ、 ちょっと」

何か言う暇も与えず、オレの制服を脱がせ始める。

あっと言う間に、オレもブラとパンツだけの姿にされてしまった。


「ねぇ、ミキって・・・」

「えっ、何? 何か変?」

急に女の子の体になったから、どこかおかしなところでもあったのかとドキドキする。

「ううん、きれいな体ね~」

何? もしかして、みどりさんって”レズ”?

一瞬オレの顔から血の気が引く。


「さっ、こっちにきて。 わたしが洋服選んであげるから」

「あっ」

いきなり手を引かれ、衣裳部屋へ連れていかれる。

やっぱ、お嬢様はマイペースなんだ。

「これなんかどうかな。 うん、似合ってる。 これにしなさいよ」

「え、えぇ・・」

え~い。 もうなるようになれだ。


コンコン

ドアのノックに続き、メイドさんがワゴンを押して入ってきた。

「みどりお嬢様。 お茶をお持ちしました」

「ありがとう。 山本さん」

ワゴンには、紅茶とケーキがのっている。

「ねぇ。 ミキ」

「は、はい」

「わたしと友達になってくれるかな?」

「えっ。 どうしたの改まって」

「わたしね。 一人っ子でしょ。 親友が欲しかったの」

「だって、学校に友達沢山いるんじゃないの?」

「ううん。 わたしが理事長の娘だって皆知ってるし、みんな本当の友達って感じじゃないんだ。 そこらへんミキは何か違うのよ。 ねぇ、わたしのこと嫌い?」

「そんな事ないよ。 みどりの事好きだよ」

「ほんとう?」

「うん」

「嬉しい」

みどりさんは、ぎゅ~っとオレに抱きついてきた。 髪から花の良い匂いがした。

みどりさんって寂しがりやなんだ。 きっと。

オレもみどりさんの体に腕をまわして、ぎゅっと抱きしめてあげた。


チュッ

突然オレの唇に柔らかなものが触れた。

「えっ? ちょっと、みどり」

「あら、感謝の気持ちよ。 女どうしだって変じゃないでしょ」

「そ、そんなもんかな」


ドキドキ

胸が急ににドキドキし始める。

うわっ、よく考えたらこれってファーストキスじゃん。

喜ぶべきなのか? 複雑な心境だよ!

「そうよ。 外国じゃあたりまえじゃない」

「そ、そっか。 そうだよね」

でも、そういう場合も唇にキスしたっけかな? TVや映画のいろいろなシーンを思い出すけどよくわからない。

オレは、この時みどりお嬢様との付き合いが、この後大変な事になるとは思ってもみなかったのだった。

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