飛鳥Ⅱ 特命チームに入る

ペンネーム梨圭

第1章 チームに入るきっかけ

第1話 手紙

世界情勢の悪化で世界一周クルーズはなくなり尖閣諸島の戦い以後の情勢も悪化していて国内クルーズも中止か。

新聞から顔を上げる若い女性。銀髪碧眼で服装はラフな格好というよりパーティドレスで歌舞伎町で働くキャバクラ嬢といった雰囲気である。

三年前の東日本大震災を機に時空侵略者サブ・サンが侵入して中国政府といるのに気がついた時は遅く、中国軍が尖閣、先島諸島に侵略。それと一緒にカメレオンという金属生命体をサブ・サンは連れてきた。特命チームと自衛隊は犠牲を払いながら中国軍を尖閣、先島諸島から追い出した。

それで情勢も回復すると思われたが南シナ海の中国軍基地やカメレオンの基地が完成してカメレオンの情報収集艦が日本の領海に現われ、南太平洋ではジュエリーアイランドにカメレオンの巣穴が作られ、それに伴う赤い海域と領空が出現。国連討伐隊と特命チームはそれを破壊した。脅威はなくなったがそれで情勢がよくなったわけではない。カメレオンは中国漁船や中国海警船と一緒に出没している。出没するのは太平洋、南太平洋、南シナ海とインド洋、ソマリア沖である。それにともない中東情勢も悪化。世界各国の船会社も世界一周クルーズも中止が相次ぎ、周辺国の港を寄港する周辺クルーズも中止や延期が相次いでいた。このままだと客船も兵員輸送船にされてしまう。

マシンミュータントは普通のミュータントや人間と違って有事の際は真っ先に召集ハガキがやってくる。順番も護衛艦、巡視船、定期船、レストラン船といった旅客船、貨物船ときて最後は客船である。船だけでなく航空機や電車、車、トラックのミュータントも例外なく敵と戦わなければならない。たぶんこのままの情勢だと自分もそうなるだろう。

私はケイン・クラーク・ラフォーゼ。日本郵船の豪華客船「飛鳥Ⅱ」と融合している。

飛鳥Ⅱ。全長二四一メートル。五万総トン。

元はクリスタルクルーズ社の所有だったが二〇〇六年に「飛鳥Ⅱ」として就航。元「飛鳥」が「アマデア」となりドイツの船会社に売却され現在に至っている。

普段は飛鳥Ⅱとして横浜港にいるがクルーズの仕事がない時はモデルの仕事や歌舞伎町でキャバ嬢をしている。このまま国内クルーズの仕事もなくなればキャバ嬢しながら待つしかないし、情勢がさらに悪化すれば支援船として敵と戦わなければならないという運命が待っている。

「国内クルーズは中止か」

隣りの席に座る二人の作業員とホストとホステスがいた。

「にっぽん丸、ふじ丸。君もなの?」

ボサボサ頭の作業員が聞いた。

「そうなのよ」

にっぽん丸と呼ばれたホステスが口を開く。

「本当に世界情勢が悪いね」

ふじ丸と呼ばれたホストがうーんとうなる。

「長島、夜庭は?時空監視所の仕事は来るの?」

にっぽん丸が聞いた。

「翔太君達をよく乗せるけど東京湾だけだ」

長島がうなづく。

「最近は火災調査団を乗せた」

夜庭が自慢げに言う。

「最近は中東情勢もよくないみたい」

にっぽん丸が新聞を見せた。

「スレイグでしょ。あの暴言王のジジイはエルサレムに大使館を本当に作ろうとしているし、一国二制度でもイスラエルだけでもどうでもいいよと言い放っている。本当に情勢が悪くなっている」

長島が危惧する。

「やだな。支援船なんて」

ふじ丸がつぶやく。

ケインはカフェの外をチラッと見た。大桟橋のカフェから山下公園とその公園にいる氷川丸が係留されているのが見えた。

氷川丸は一九三〇年に建造。戦前と戦後はシアトル航路で活躍。航空機が主流になると引退して横浜港の山下公園に係留される。彼女もミュータントで名前は辻川綾子。客船、貨物船、定期船といった旅客船のミュータント達のリーダーをしてながら銀座のスナックのママもやっている。

「長島」

アメリカ人の少年と日本人の少年と少女が数人と漁師の男女が長島達がいるテーブルに座った。

新聞を読むフリをするケイン。

漁師も少年達も誰だか知っている。

アメリカ人少年がランディ。農薬散布機のミュータントで最近、ボストンから移住してきた。漁師の男達は漁船の住吉丸、小林丸、福寿丸、飛鳥丸と融合しているミュータントで本名も知っているがもっぱら船名で呼ばれる。人間の少年と少女が来宮亜紀と雅人である。

もう一人の女性漁師が重本啓子。第五福竜丸と融合している。第五福竜丸は江東区の第五福竜丸展示館に普段いるが勤務が終わると遊びにやってくるか新木場のTフォース支部の格納庫に帰っている。元はマグロ漁船として活躍していたが一九五四年にビキニ沖で核実験に遭遇。被爆して焼津港に帰ってきた時は放射能を大量に浴び、乗員も被爆して久保山愛吉氏が亡くなった。あの騒ぎの後、漁船としての仕事がなくなった彼女はTフォースの技術者や調査団の仕事をしながら東京水産大学の練習船として活動していた。一九六六年のある日、調査団として仲間達と南シナ海に調査に行って行方不明になり仲間達は全員殺害され彼女は江東区のゴミ捨て場にひどく損傷した状態で捨てられた。それを見つけた一般男性の投書により引き上げられたのは歴史の通りである。氷川丸達によって蘇生された彼女は高次脳機能障害、放射能障害、いくつかの障害を持ち、介助人がなければ生活ができず静かに五〇年も暮らしていたが、最近になってビキニ沖の時空の穴事件をきっかけに彼女は五〇年ぶりにカムバックして技術者枠で復帰した。

「今の所、カメレオンは海警船と漁船、中国軍の艦船と融合しているけど南太平洋の事件があるからそのうち旅客船や客船、航空機のカメレオンが出てくるのではないかと言われている」

長島が新聞を出して説明する。

「それは最悪じゃん」

ふじ丸が言う。

「まだそうなってないでしょ」

重本がわりこむ。

「福竜丸。意外にそれは早いかもよ」

不意に声が聞こえてふじ丸達が振り向く。

「あっ!!ビキニ沖の時空の穴事件で東京湾で僕をスクラップにしようとした客船だ」

ビシッと指をさす重本。

「でもあの時、拉致しようとした」

長島と夜庭が声をそろえた。

「するわけないでしょ!!」

目を吊り上げるケイン。

店内にいた客達が振り向いた。

「お客様。何か問題でも?」

ウエイトレスが近づく。

「いえありません」

ケインと福竜丸は声をそろえた。

ケインは勝手に隣りの席に座った。

「ちょっと座っていいって言ってない」

不快な顔をするにっぽん丸。

「黙りなさいよ。小娘」

ケインは声を低めた。

「ケンカなら外でやってください」

雅人と亜紀が目を吊り上げる。

黙ってしまうケインとにっぽん丸。

「いつからいたんですか?」

住吉丸が聞いた。

「さっきからいました」

ケインは答えた。

「拉致じゃないならなんで僕にあの時・・誘ってきたの?」

話を切り替える福竜丸。

「私の父と母は事故死しているし、私と妹二人は祖父に育てられたの。祖父は死ぬ前に屋敷にあった魔術アイテムや魔術武器、時空遺物を魔術師協会に預けた。そして氷川丸や佐々木茂道という人を頼りなさいと言われた。でも氷川丸は教えてくれないし茂道という人も誰かわからなかった」

困った顔をするケイン。

「だから僕に近づいた」

福竜丸が推察する。

うなづくケイン。

「僕に聞いてもわからないよ。氷川丸は絶対に教えないもん」

困った顔をする福竜丸。

「君には父さん母さんがいないの?」

ランディがわりこむ。

「二十七年前に事故死よ。その頃は私は米軍にいた。十九歳で入って二十五歳までいて紛争地にも行った。二十五歳の時に港で見た客船を見てそこで働きたいから除隊して客船で機関室で作業員として就職した先の船がクリスタルハーモニーだったの。飛鳥Ⅱになる前の船名よ」

どこか遠い目をするケイン。

なぜあの時、客船にあこがれを持ったのかわからない。紛争地の任務が続いたし精神的に参っていたのもあるのかもしれない。そこで働きたくなったのだ。

「僕はボストンの駅に捨てられていてロスサンチェスの孤児院で育った。そこのTフォース出張所に来ていたカラムと仲がよくなって日本に興味を持った。スレイグは自分達の大統領じゃないから移住した」

目を吊り上げるランディ。

「私はアパートで妹二人は魔術師協会の官舎で暮らしている。祖父が死んだ後、親戚と父母の兄弟と遺産相続ですごいもめた。祖父が死んだ時は遺産はなくて借金だけだった。親戚達は放棄して私達は言いくるめられて連帯保証人になった。借金は二十億よ」

ケインは珈琲を飲んだ。

「二十億!!」

驚きの声を上げる長島達。

「そうよ。その時に持っていた別荘や会社や株も屋敷も何かも親戚達に取られた。私達が無知すぎたのもあるわね」

遠い目をするケイン。

「君もすごい苦労しているね」

同情する飛鳥丸。

「ねえ、旅客船や客船、民間船の調査団体を作らない?」

ケインは身を乗り出す。

「そういうのは僕が昔やって僕はゴミ捨て場に捨てられた」

首を振る福竜丸。

「国内クルーズは世界情勢の悪化とカメレオンが日本領海の外に出没して延期や中止が相次いでいる。このまま行けば沖縄海戦か第二尖閣、先島諸島の戦いがあるでしょうね。私達は支援船にされてしまう」

声を低めるケイン。

「氷川丸が許さないよ」

長島が首を振る。

「彼女が反対するのは仲間や家族を失うのが怖いからよ」

はっきり指摘するケイン。

「それはそうでしょう。彼女は七一年前の太平洋戦争で病院船として活動していた。そこで多くのマシンミュータント達が死んだ。戦後も時々、葛城茂元長官から呼ばれて特命チームに選ばれて調査にくわわって家族や兄弟に危険が及びはじめ、福竜丸がゴミ捨て場に捨てられてからはやめたのよ」

にっぽん丸が説明する。

「身内に危険が及ぶほどなのだから敵は国家か軍隊かだと思う」

ふじ丸が口をはさむ。

「三年前は三神、カラム、シャロンは人体実験されて三神は砂漠に捨てられ、あとの二人はサンフランシスコ湾で死体になって浮いた。そしてサブ・サンとカメレオンが侵入してきた。時空侵略者を入れたのは米軍の秘密実験のせいよ」

ケインは紙に関連図を描いて説明する。

「それは沢本さんや間村さんから聞いた」

うなづく長島達。

「私達が今、行動しなければ近いうちに客船のカメレオンがやってくる。航空機に進化するのも時間の問題よ。海南島には中国軍だけでなく空母波王もいる。巣穴もあると思っている。それが客船になれば港に巣穴ができてしまう。ましてやそれがクイーンだったらどうする?三神達や間村達が別の任務でいない時は私達がやらなければいけない」

何か決心したように言うケイン。

「そうは言っても僕達はハンターレベルは低いよ」

困惑する長島。

「知っているわよそんな事。そこの農薬散布機はひよっ子でそこの兄妹は見習い。そこの漁船の四隻は低レベル。そこのしゅんせつ船はヌタウナギ能力でレストラン船はハンターは中級でタコのように擬態する。そこの客船二隻は魔術師レベルはまあまあの中の上よ」

ケインは指さしながら指摘する。

「はっきり言いすぎじゃない」

不快な顔をするにっぽん丸。

「だってそうでしょ」

たたみかけるケイン。

「確かにそうだよな」

しょんぼり言う長島と夜庭。

うなづく住吉丸達。

「でも氷川丸を説得できないと無理だな」

長島はつぶやいた。


同時刻。

空は快晴で穏やかな海を白い大型客船を貨物船が曳航していた。

レーダーを目配せする乗員。

周囲には邪魔な船舶はいない。

「駿河湾を出ます。このまま進んでいけば日本の領海にでます」

別の乗員が報告する。

船長は船橋ウイングから出て振り向いた。

白い大型客船の船名は「スカンジナビア」と書かれている。元の船名は「ステラ・ポラリス」日本の船ではなかった。

一九二六年十一月、スウェーデン南西部のヨーテボリ造船所にて建造、翌一九二七年二月二十三日にステラ・ポラリスとして進水した。二月二十六日に出航した処女航海の目的地はロンドンであった。

優雅な姿から「七つの海の白い女王」と呼ばれ、富裕層を対象にしたクルーズ事業向け客船として世界中を航海した。

クルーズ客船「ステラ・ポラリス」として運用された後、第二次世界大戦ではドイツ軍によって接収され輸送船として運用された。

戦後はスウェーデンでクルーズ船になるが

SOLAS条約にに引っかかり客船としての歴史を終えて日本に売却。バブル崩壊にともなう事業縮小でスウェーデンの企業に売却が決まる西武ホールディングス傘下の伊豆箱根鉄道が所有・管理し、係留地の静岡県沼津市西浦でホテル兼レストラン「フローティングホテル・スカンジナビア」として利用された。

海図とレーダーをにらむ船長。彼は隣りの部屋に入った。そこには一メートル程の木箱が置いてある。彼は木箱を開ける。中には銀色の大きな卵があり、表面にはからくさ模様が入っている。

部屋に入ってくる三人の乗員。

「船長。周囲には海上保安庁の巡視船はいません」

女性の乗員が報告する。

「それはそうさ。日本の領海内に収容ドック船をチャーターしてあるのだからな」

しゃらっと答える船長。彼はマフラーを取りサングラスを取る。その首筋にはタトゥがあり瞳は猫の目のように細かった。

それは彼だけでなく他の乗員も首筋にタトゥがある。

「ドック船が見えてきました」

船橋にいた乗員が報告する。

船長が部屋から出ると窓の外に大型船も収容も可能な浮きドック船が見えた。

「南太平洋の戦いで海警船「3901」「3902」「3903」が死んだ。この客船にはクイーンを産みつける。今度はうまくいくさ」

船長はほくそ笑んだ。


 その頃。都内

 都内にある公園の一角に黄色の規制線が張られ、何台もパトカーが止まっていた。

 ベンチのそばで三人の男女が倒れている。

 「仏さんは外人と日本人か」

 羽生はのぞきこむ。

 「ご年配の男性と外国人二人は仲良くひなたぼっこをしていたのかしら」

 田代は周囲を見回す。

 「殺人事件が多いわね」

 「そう言えるね」

 和泉とエリックはのぞく。

 「パスポートだ。このじいさんのはマイナンバーカードだ」

 羽生は財布をのぞく。

 「佐久間茂道。こっちの外国人はトルコだ」

 「この二人は魔物ハンターで難民申請が出ている。シリア人ね」

 タブレットPCを操作する和泉。

 「日本で難民申請は厳しくて降りないわよ」

 田代が画面をのぞく。

 「パスポートで観光で入国してなんで日本で死体になるんだ」

 肩をすくめる羽生。

 三人には胸に大きな傷があり心臓がなくなっている。手口は鮮やかで他に傷がない。カメレオンは脳みそと心臓が好物だが脳みそはなくなっていない。

 「佐久間茂道は佐久間未来の曽祖父ね。現役の邪神ハンターであだ名は「なんでも操るハンター」よ」

 和泉が画像を切り替える。

 「佐久間未来ってたしか護衛艦「あしがら」と融合するミュータントだよな。翔太君やオルビスと一緒にいた」

 ふと思い出すエリック。

 「彼女自身も強いテレエンバスでテレパシーで人間、普通のミュータントだけでなくマシンミュータント、金属生命体をも操れてその上、吹雪で凍らせる」

 和泉が画像を切り替える。

 「南太平洋の異変事件で彼女も翔太君だけでなく智仁さまも同行したわね」

 田代がタブレットPCを出した。

 「国連討伐隊はジュエリーアイランド沖のカメレオン基地とパラオの発電所の破壊したあの事件で彼女と三神、貝原、福竜丸と消防士の柴田、五十里、翔太、智仁さまは内部に侵入。カメレオンの生態をかいま見た」

 羽生が新聞を出す。

 「ある意味、特命チームのおかげで私達は生きながらえている。相手は宇宙人で時空を越えられる宇宙船でやってくる。地球の科学力をはるかに超えている」

 田代は新聞を見ながら指摘する。

 「彼らはよくやっている。結局犯人は捕まっていないけどだいたいの目星はついている。やったのは暗殺者だ」

 エリックは言う。

 「それは捜査して犯人は追う」

 羽生は難しい顔をする。

 「横須賀基地へ行きましょう」

 和泉はうなづく。

 「俺達は入国管理局へ行く」

 羽生は言った。


その頃。皇居

 「漂流郵便局?」

 智仁は首をかしげた。

 TVの特集で見た事がある。日時と西暦を指定するとその日に送ってくれるサービスだ。そういうサービスをする宅配会社が何社かあるというのを聞いた事がある。

 「クララからまた来たんだ」

 智仁は封筒を開ける。

 「事件に巻き込んでごめんなさい。手紙は何回かにわけて配達されるように指定してあります・・・てこれが続くの?」

 智仁はつぶやいた。

 「どうかされましたか?」

 執事の黒沢が封筒を見る。

 「クララから手紙が来た」

 手紙を見せる智仁。

 「最近話題の未来郵便ですね。この郵便は漂流郵便局という会社から送られています。クララ殿は何回かに指定して配達されるようにした。手紙の内容は難民の中に時空の出入口や時空の通路を自在に作り出せる能力者の保護ですね」

 何枚かの写真を黒沢は見せた。

 「え?」

 「いずれも難民キャンプです。時空の通路と出入口を操作できるクルド人とパレスチナ人とシリア人の難民を守る事」

 黒沢はたくさんの難民と映るクララの写真を見せた。

 「ええええ!!」

 驚きの声を上げる智仁。

 「これが地図」

 黒沢は世界地図を見せた。

 地図にはトンネルマークが二十個書かれていて星マークがグレートバリアリーフの写真にあった。

 「クララ・・いろんな活動をやっていたんだね。翔太と相談したいけどいい?」

 智仁は提案する。

 「かまいませんよ」

黒沢は答えた。



 その頃。海上自衛隊横須賀基地

 基地のロビーに佐久間、間村、室戸、霧島がいた。

 「エリック、和泉?」

 佐久間が声をかけた。

 「佐久間さんですね。佐久間茂道さんが亡くなられました」

 エリックは重い口を開いた。

 「曽祖父が?」

 耳を疑う佐久間。

 振り向く間村達。

 「曽祖父と家族は離れて暮らしている。曽祖父は一人暮らしをしていたから会っていないの」

 佐久間は困惑する。

 「茂道さんは難民を支援する活動をやられているのをご存知ですか?」

 和泉は写真を見せた。

 「初耳ね」

 佐久間は難民達と映る曽祖父の写真が何枚もあった。

 「あれ?これクララじゃない?」

 佐久間はあっと声を上げた。

 「難民キャンプか。どこの難民キャンプで写真を撮ったんだろう?」

 「なんで難民キャンプ?」

 首をかしげる霧島と室戸。

 「曽祖父の家に行ってみないか?なんでなのか犯人につながればいい」

 エリックが提案する。

 「間村、霧島、室戸。捜索を手伝って」

 誘う佐久間。

 「迷惑じゃなきゃいいよ」

 戸惑う間村達。

 「じゃあテレポート」

 佐久間達の姿は青白い光に包まれて消えた。次に姿が現したのは一軒屋の前である。よくある木造二階建てである。

 「おまえのじいさんすげえ家に住んでいたんだ」

 感心する間村、霧島、室戸。

 「茂道さんは邪神ハンターよ。次元ブリッジでつなげているのかもしれない」

 和泉が怪しむ。

 「家は本物よ。子供の頃から秘密が多くてあまりしゃべらなかった」

 佐久間はしゃらっと言うと家の中に入った。

 「なによこれ?」

 驚きの声を上げる佐久間。

 部屋という部屋は物が散らかり書類や服が乱雑に散らかっている。家の中は竜巻が通ったような荒らされようだった。

 「ただの空き巣じゃないな」

 ひっくり返ったイスを起こすエリック。

 「曽祖父は難民を支援する活動をやっていたなら空き巣犯はそれに関係する物を探していた」

 タンスを起こす佐久間。

 「預金通帳と印鑑は取られてない」

 和泉がタンスを開けて通帳を見せた。

 「どこの難民キャンプに行っていたかわからないと何を探せばいいかわからないぞ」

 間村は書斎に入った。

 「ここも荒らされている」

 驚きの声を上げる室戸。

 「二階も荒らされている」

 霧島が戸惑う。

 「神棚の向こうに次元ブリッジがあった記憶があったんだけどそれも消えている」

 壊れた神棚や仏壇を見て困惑する佐久間。

 「神棚とか仏壇を普通壊すか?位牌も散らばっている」

 首をかしげる間村。

 散らばる位牌を拾う佐久間

 「羽生さん達を呼ぶわ」

 和泉は言った。

 ー一時間後ー

 「・・・見事に荒らされたな」

 羽生は驚きの声を荒げる。

 「鑑識が言うには足跡や指紋がないのよ。こんな事はありえない。高レベルの魔術師か時空侵入者が侵入して荒らしたのかになる」

 戸惑う田代。

 「入国管理局はどうだった?」

 佐久間は話題を切り替えた。

 「そこには横浜税関と東京税関、麻薬取締部の鮎沢さん達がいた。彼らが言うには難民申請した人達が暗殺される事件が世界中で起きている事なの」

 田代が資料を見せた。

 「暗殺者が暗躍している事は事実だ」

 困った顔をする羽生。

 資料をのぞきこむ佐久間達。

 「国際暗殺団「スパイダー」の関与が疑われるという結論が出たんだ」

 羽生は困惑する。

 「時間的に役所は閉館しているわね。明日、国連事務所へ行きましょ」

 佐久間は言った。


 

翌日。

南太平洋の異変から二週間経ったが異変は起きてない。むしろいつもの日常に戻ったといえる。

 ジュエリーアイランド沖のタワーと基地とマラカウ島の発電所を破壊されたカメレオンはおとなしくなったというより死んだフリを中国と一緒にしている。尖閣、先島諸島にいる海警船はおとなしく通り過ぎるだけ。南シナ海にいる中国軍や海警局も波風立てずにおとなしくいるそんなハズない。

 「三神。パトロールに行くぞ」

 岸壁で声をかける朝倉。

 笑みを浮かべうなづく三神。

 二人は緑色の蛍光に包まれ巡視船に変身。離岸して港を出港する。東京湾で出ると巡視船「やしま」「つるぎ」「かいもん」と合流する。「やしま」が沢本で「つるぎ」「かいもん」が三島と大浦が変身している。

 「カメレオンは南太平洋の異変事件からおとなしくなったわね」

 三島が口を開く。

 「あの赤い海域と紫のもやがなくなったからな。あそこでしかカメレオンは生息できない。というよりあれよりも死の世界でしか彼らは生きられない」

 三神が気づいた事を言う。

 赤い海と紫のもやの下ではバクテリアや無害な魔物まで死に、生態系が破壊されている。そこの空気組成まで変わり、空気は薄く基地やタワーがあった場所は空気すらなかった。カメレオンの住んでいた世界は他の宇宙人でさえ住めないだろう。

 「そういえばブレガー国防長官が日本に来たよな。石崎防衛大臣や三宅総理と日米同盟や在日米軍の駐留費で」

 三神はふと思い出した。

 カメレオンの基地とタワーを破壊して一週間寝ていて気がついたら横須賀海軍病院のベットだった。それも佐久間、柴田と一緒に。病室のTVで知った。

 「ブレガーは精霊の契約なしに魔物を自在に操れる能力者だった。彼が連れていた魔獣は「クレストブラックドック」よ。体長は五メートル。魔術を跳ね返し、そのヒョウのような動きで相手を喰らう。その能力を見た葛城茂元長官にスカウトされてTフォースに入って特命チームに所属していた事もあった」

 大浦がデータを送信する。

 「十九歳で米軍に入隊。Tフォースに呼ばれて紛争地から紛争地へ転戦。米軍でもイラクやアフガニスタンで中東方面の司令官をやっていた。結婚はしていなくて独身」

 朝倉が口をはさむ。

 「彼に会ってみたいけどホワイトハウスとペンタゴンじゃ近づけないな」

 つぶやく三神。

 ある意味、一番内情をよく知る人物だ。

 「ペンタゴンやホワイトハウスに近づくのは無理だ。最高レベルのハンターや魔術師もいるし、魔獣使いもいるし、魔術を無効にするしかけも普通にあるし、政府直属のミュータント部隊までいる」

 沢本がデータを送信する。

 「シークレットサービスのほとんどは邪神ハンターばかりだな」

 朝倉がしれっと言う。

 「気になるの?」

 大浦が聞いた。

 「内情をよく知る人がなんでスレイグなんかに協力する」

 疑問をぶつける三神。

 「それは中東で司令官をやっていた時の発言や現場での現状を知っているし、部下からも慕われている。当然といえば当然だろう。スレイグには政治や外交の経験はない」

 沢本が口をはさむ。

 「国防長官なら大統領にいろいろ言える」

 三神が聞いた。

 「悲しいかな。いろいろ決めるのはスレイグで現場を仕切るのは彼の部下なんだな。彼はお飾り的なポストにいるんだな」

 もったいぶるように言う朝倉。

 「それじゃあ意味ないだろ」

 三神があきれかえる。

 「そうは言ってもブレガーは国防長官でスレイグと一緒にいる。俺達がここで文句言っても届かないだろ」

 朝倉が言う。

 「農薬散布機が飛んでる」

 三神があっと声を上げた。

 「え?」

 白地にオレンジの農薬散布機は低空飛行して漁船に接近すると元のミュータントに変身した。

 「注意しなきゃ」

 三神が接近する。

 「朝倉だ」

 「朝倉「さん」だろ」

 注意する朝倉。

 ランディと来宮雅人と亜紀、飛鳥丸である。

 「ランディ。東京都の許可はもらったの?調布飛行場の許可は?」

 矢継ぎ早に質問をする三島。

 「許可って何?アメリカじゃいらなかったし普通に飛べた」

 しゃあしゃあと答えるランディ。

 「ここは日本よ。アメリカじゃない」

 注意する大浦。

 「葛西臨海公園とか相模湾で飛んだらダメなの?」

 ランディが身を乗り出す。

 「国土交通省に届け出を出さなきゃね」

 三島がしゃらっと言う。

 「ねえ、大浦、三島」

 ランディが話題を変える。

 「大浦「さん」三島「さん」でしょ」

 大浦が注意する。

 「カラムから四年ぶりに手紙が来たんだ」

 ランディは手紙を出した。

 「え?」

 「これをもらった」

 腕輪を見せるランディ。

 「それはコペルニクスの腕輪じゃないの」

 大浦と三島は声をそろえる。

 「彼は死んでいるし今頃手紙が届くのか?」

 三神が耳を疑う。

 「未来郵便というサービスがあるのを聞いた事がある」

 沢本があっと思い出す。

 「それならTVの特集で見たよ」

 亜紀と雅人が声をそろえる。

 「時期を設定すると届けてくれるんだ」

 飛鳥丸が声を弾ませる。

 「詳しい経緯を聞きたいから横浜防災基地まで来てくれる」

大浦は手招きした。

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