ギンギツネの夢

@nutaunagi1205

第1話

私があの子を止めていたら…

私があの子を守れるほど強かったら…


ののののののののののののののののののののの


夢を見た。

私の視線が今よりずっと地面に近くて、顔から足の先まで毛覆われていた頃の夢だ。


私には妹がいた。蜂蜜色の瞳と毛皮のかわいい『**』。ともすれば臆病で巣穴に引きこもりがちな私を引っ張ってくれる朗らかな彼女は私を照らす太陽だった。


ののののののののののののののののののののの


その日は、北の森に来ていた。ここは普段の縄張りの外だ。その頃私達の縄張りには餌を求めて他のキツネやタヌキが入ってきており、冬を越す為の充分な獲物を狩ることが出来なかったのだ。


「ねぇ、早く帰りましょう…?」

「なぁーに?お姉ちゃんまだ嫌な予感するの?ネズミもウサギもいっぱいいて良い森じゃない」

「うん、でも…」

誘われるまま来てしまったが、来る前からなんとなく気乗りがしなかった。その気持ちは獲物をたっぷり食べて満腹になった後も晴れることはなく、今や膨れあがり背中の毛が逆立つような悪寒となって私を襲っていた。


___そう、もっとしっかり反対すればよかったのだ。そうすれば。


「お姉ちゃんはちょっと心配性すぎるんだよぉ。こんないい狩場めったにないよ?…まぁいっか。お腹いっぱいになったし今日は帰ろっか。」

「そう、よね。ごめんね急かして。」

(でも、誰かが見ているような気がするの… 害意を持った誰かが…)


そしてビクビクしながら帰路についたのだが、何事もなく巣穴に帰ってくることが出来た。いつもの考えすぎだったんだ。そう思ったが何処か胸につかえが取れない気持ちのまま眠りについた。


ののののののののののののののののののののの


次の日は早朝に目が覚めた。外はよく晴れているようで入り口からは朝の透き通った光が差し込んでいた。


私は寄り添っていた妹を起こさないようそっと身を離し外へ出た。早朝のキンと冴え渡った空気を胸一杯に吸い込むと、胸にわだかまっていたものが溶けていく気がした。


(**には悪いことしちゃったな。やっぱり気の所為だったんだ。)

そう思った。しかし、それは間違いだった。


近くの茂みがざわめく。そちらに顔をむけた次の瞬間、大きな影が私に覆い被さっていた。


「グワァウウウ!!」


はぐれオオカミだった。昨日感じた視線は気の所為などではなかったのだ。

必死に抵抗するが力の差は歴然。もうダメだ。そう思ったその時、オオカミの横っ腹に茶色の塊が猛然と突っ込んできた。


「お姉ちゃん!逃げて!」

「**!! そんな!!駄目よ!」

鬼気迫る剣幕でオオカミに襲いかかる**。しかしオオカミにキツネが敵う筈もない。どうしたらいい、考えろ、このままでは妹が死んでしまう。


「…! **!こっち!」


記憶を辿りながら早朝の静かな森を全速力で駆け抜ける。


「**!左に跳んで!」


バチィン!!!


「キャンッ!」


オオカミが短く悲鳴をあげる。その前脚にはガッチリとトラバサミが食い込んでいた。


そのまま暫く走り続け、ようやく人心地つく。


「はぁ、どうなることかと思ったわ…。まさかこの近くにオオカミがいたなんて。年寄りだったみたいだし群れから… **?」

「ヒュー… うん、びっくり ヒュー… したね、でもやっぱりお姉ちゃんは ヒュー… 凄いよ」


なんて愚かだったのだろう。逃げるので精一杯だった私は妹の異常に気づけなかった。

妹の首元は、真っ赤に染まっていた。


「あなた…! それ… そんな…!」

「ヒュー… あは、ごめんね 平気 ヒュー… だと思ったんだけど ヒュー… ダメ、かなぁ」


そんな、嘘。


「あぁ、そんな、ひどい、こんな、こんなことなら私が」

「ヒュー… お姉 ヒュー… ちゃん」

「ダメよ喋らないで! あぁ、ダメ、血が、どうしよう、どうしたら」

「ヒュー…… お姉ちゃん ヒュー…… 大好き…… ヒュー……… ヒュ…………________ 」


______ねぇ、待って、待って、お願い置いていかないで… [newpage]

____ネ… ギツネ…… ギンギツネ!


「いや… **…」

「ねぇってば!」

「あっ… キタ、キツネ」


目を開けると、キタキツネが心配そうに覗き込んでいた。あの子と同じ、蜂蜜色の瞳だ。


「…っ!」

「わわっ!」


思わず抱きしめていた。キタキツネがバランスを崩して私に覆い被さる形になる。


「ごめんね… ごめんね…」

「…ギンギツネ、震えてる。一緒にお風呂行こ?」


キタキツネは泣きじゃくる私の頭をぎこちない手つきで、しかし優しく撫で続けてくれた。その暖かさが嬉しくて、切なくて、私は涙を流し続けた。

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