第2章その1 ピンクでレースでふりふりの


(どうしたもんだか……)


 淡いピンクを基調とした、レースとフリル満載の乙女チックな部屋の中央に座したまま、私は途方に暮れていた。


―『封魂の乙女』となったあなたは、彼ら6人の『導魂士』と共に、寮とは別棟の離れで生活してもらいます―


(冷静に考えてみれば、どうして役目を引き受けたからって、嫁入り前の娘を男たちと一つ屋根の下に住まわせるかな? 親御さんから子どもを預かっている立場の学校が、勝手にこんな決定下したら大問題じゃない!?)


―室内は、元のあなたの部屋と同じようにしておいたから安心してね―


(……ゲームなら、『グラフィック使いまわしですね』で済むけど、実際の部屋を間取りまでそのまま再現したとなると、とんでもない労力だよね。これは素直に感心したよ)


 この世界で目覚めてから12時間が経過した。

初めの頃こそ、『白銀の聖譚曲』内のあらゆる場所を忠実に再現した建物やその他もろもろに感動を覚え、テンションを上げていたものの。


(さすがにそろそろ夢から覚めていいんじゃないかな?)


 半日も続くと、楽しんでばかりもいられなくなった。


(ゲーム内の食事シーンにカットイン表示された、飯テログラフィックの実物も食べることが出来たし……)


 その上、主な登場人物を立体で間近に見ることが出来た。直接会話も出来た。


(親友キャラはさておき、攻略キャラはもう十分だわ。

 3D……と言うかVR? それで目の前に立たれると、ただの三次元イケメンだし。聖洞みんと画の美オーラが眩くて、直接見たら目が潰れるかと。太陽浴びて灰になる吸血鬼の気持ちを慮る日が来るとは思わなかったわ)


 夢女子なら、キャラが実体を持って目の前に立てば幸せだろうって? はい、そう思っていた時期が私にもありました。

 だが、今ならきっぱりこう言える。


(彼らとはこれまで通り、液晶越しのお付き合いをさせていただきたい!)


 手持ち無沙汰にクローゼットを開けてみる。主人公ソフィアに良く似合う、フリルとレースとリボンがふんだんに施された乙女チックなワンピースが数着かかっていた。


(はい、無理)


 何も見なかったことにして、私はクローゼットを閉じる。


(こんなの私が嬉しそうに着てたら、身の程知らずのブスが調子乗んなとか笑われるっての! 拷問か!)


 部屋中に広がる甘い香り、花瓶に生けられた綺麗な花々。


(ゲームしてる時は、可愛くてロマンティックな部屋だな~、一度はこんな部屋に住んでみたいな~、なんて思ったりもしたけど……)


 実際入ってみると、居心地悪いし落ち着かない。『カワイイ』で埋め尽くされたこの部屋で、唯一範疇から外れた哀しき我が身が、この部屋の汚点のような気さえしてくる。


(こんなメルヘンチックなドレッサーも、現実では見たことないよ)


 何気なく引き出しを開けてみる。


「わっ!」


 思わず声が出た。


(すごい。コスメ用品がびっしり詰まってる……)


 ネイルだけで数種類、リップスティックだけで数種類ある。用途の分からないクリーム類もいくつかある。


(ソフィアは何もしなくても、美少女なんだと思ってた。でも、そうじゃないってこと?)


 下の引き出しを開けてみる。


(お、おぅ!?)


 パックや爪磨きの他に、脱毛クリームや脱毛ワックス、シェーバーや毛抜きが入っていた。


(メルヘンなドレッサーに、女の生々しい現実が詰まっているとは……)


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