第7章 団結する彼らに迫り来る絶望

第38話 2世界の学者達

 2つの世界が統合し、ようやく両世界の人々はその事実を認識する事に成功した。しかし、それで全てが解決した訳ではない。復活した“8人の異端者”が「宣戦布告」と称し、世界各地で殺戮や破壊活動を開始していた。それによって、力のない小国は、ことごとく滅ぼされてしまったのである。



「…ねぇ。何か、変な服を着た連中がうろついているわ」

アレン達は、キタモラフ石のあった渓谷からストの村に戻ってきた。

しかし、村の雰囲気が先日よりも一変し、しかも見慣れない服装の男達がうろついている。その状態を最初に見つけたのが、イブールだった。

 変な服ね…。でも、一見したかんじだと…兵士…みたいなかんじかしら?

村の入り口近くにある林に隠れながら、イブールは見知らぬ人間達を観察していた。

「シア!!?」

その時、すぐ隣でラスリアの声が聞こえる。

気がつくと、自分達の後ろにいたシアが、小走りで走り出したのだ。

「おい…!!」

「ちょっ…!!?」

単独行動に出たシアを止めようとアレンとイブールが声を張り上げたが、時既に遅く…入口付近にいた変わった服装をした男達は、シアの存在に気がつく。

「……!」

「…!!?」

何か話しているようだったが、意味がわからない以上、内容を理解する事はできない。

 あれ…?でも、ああやって話している…って事…は…?

シアと話している男性は、彼女の事を不審がる事なく会話している事に対し、イブールは一つの仮説が生まれていた。

「…どうやら、“あっちの世界”の奴らみたいだな。透視みている限り、味方のようだぜ」

イブールがふと考えていた疑問に答えるかのように、ミュルザが口を開く。


 その後、シアやラスリアの誘導で、イブール達は「ある人物達」が待機しているという宿屋へ向かう事になる。

「シアの説明によると…彼らは、彼女が住んでいる国の人達で…どうやら、私達を探していた…みたい」

「なに…!?」

複雑そうな表情かおをしながら説明するラスリアに、アレンの表情が曇る。

「“僕らを探していた”って…。“向こうの世界”の人間達が、なぜ…?」

「…わからない。ただ、この先にある宿屋にて、それを説明してくれる人がいるから…って、あの変な服装の人が…」

チェスの質問にラスリアが答えた後、少しの間だけ彼らの周囲に沈黙が続く。

シアは、イブール達が話す言葉は理解できなくても、雰囲気を察知したのかラスリアの方を向いて口を開く。

「…“私達がこれから会う人達は、学者で常識のある人ばかりだから…揉め事にはならないと思う”…だって」

シアの台詞ことばを同時通訳したラスリアの声を聞いた後、彼らは内心で少し安堵したようであった。

 …でも、考えてみたらおかしいわよね。彼らはレジェンディラスの人間が話す言葉をわからないはずなのに…何故、普通に村に滞在しているのかしら…?

揉め事もなく、当たり前のようにいる彼らに、イブールは疑問を感じていた。

 そして、宿屋に到着した彼らは、宿の扉をノックしてから扉を開く。

「おかみさん、こんにちは!」

「あら、ラスリアちゃん!」

扉を開けて、最初に視界に入ってきたのが宿屋の女将だった。

顔見知りであるラスリアは、そんな女将に挨拶をする。

「あ…2階の部屋に…」

「うん、ありがとう!…行きましょ!」

「…ああ」

「そうね」

女将の口調で何が言いたいのか察したラスリアは、イブール達に声をかけてから宿屋の階段を上り始める。

階段を上っている間、皆が緊張していたのか、誰一人として口を開かなかった。

先導して進んでいたシアが、扉をノックする。

「どうぞ」

シアが扉をノックすると、扉越しに男性らしき声が聞こえる。

…あれ?

しかし、その声はたった一言であってもレジェンディラスの人間の言語ことばだ。

 しかも、この声…

イブールが声の主について考えていると、何も知らないシアが部屋の扉を開く。

「…イブール君!!?」

「ロレリア教授…!!?」

部屋を開け、最初に視界に入ってきたのは、イブールが通うコミューニ大学に在籍する大学教授――――――――ロレリアだった。

「え…?あ、うん…。私達は、以前にこの教授ひとにお会いしたことあるの…」

呆気にとられているシアにラスリアは説明していたが、イブールはその台詞ことばなど耳に入っていなかった。

「なぜ、教授がここに…!?それに、彼らは…」

「…ああ。再会を喜びたいところだが、事情を説明するのが先のようじゃな…」

「…だが、なぜ奴らがこの村に平然といられるのかは理解できた」

「ええっと…事情が全く飲み込めていないのは、もしかして僕だけ…?」

イブールやロレリア教授。そしてアレンが口々に話す中、ただ一人事情がよくわからないチェスが複雑そうな表情かおをする。

「まぁ、あのおっさんに会っていないのはガキんちょだけだからな。だから、ちゃんと説明してもらおうぜ…俺らを探していた理由も含めて…な」

チェスの頭を軽く叩きながら、ミュルザが口を開く。

彼の台詞の後半がかなり低く聴こえたせいか、イブールは心臓が少しはねた。


          ※


 ロレリア教授と再会したアレン達は、腰を下ろして彼の話を聞き始める。ロレリア教授は、2人ほどの学者らしき人物を連れていた。

 おそらく、あの2人がシアと同じ”向こうの世界の人”みたいね…

ラスリアは、教授の隣に座っている2人の学者を見つめながら、そんな事を考えていた。

「そこにいるウォトレストの少年は初対面だと思うので…彼らのも含めて、自己紹介をしよう。わたしは、学術都市アテレステンにあるコミューニ大学の考古学教授、ロレリア・ガナフナッセラ。そして…」

途中言いかけた教授はその場で立ち上がり、自分の横に座っている2人の人物を紹介する。

「わたしの隣にいるのが、”ガシエルアカデミー”…要は、アビスウォクテラの学者組織と言ったところかな?そこに在籍している、ジェンド・クリオネム博士。そして、その隣が同じく、“ガシエルアカデミー”に所属する星命学者、トキヤ・フラトネス博士だ」

「…イブール・エンヴィです。よろしくお願い致します」

ロレリア教授が彼らの紹介をした後、イブールから順にラスリア達も挨拶していく。

「はじめまして。ラスリアと申します」

「…いやぁ、本当に君はシアちゃんにそっくりだネ!」

ラスリアがトキヤ博士に挨拶をしたとき、彼は陽気な口調で話した。

相手はラスリアが何を話しているのか知らないというのを前提で話しているようだが、5人の中で唯一、アビスウォクテラの人々が話す言語を理解できるラスリアには、筒抜けだった。

 …なんか、このトキヤ博士に似た人物に、以前会ったことがあるような…?

ラスリアは、挨拶をしているさ中で、頭の中に霧がかかっているような状態に疑問を感じていた。

「では、本題へ入る前に…君達は、我々が生まれ育ったレジェンディラスと、“もう一つの世界”であるアビスウォクテラが1つになった…という事実を飲み込めていると思って、話を進めてもいいね…?」

「…ああ」

ロレリア教授の問いに、アレンが静かに頷いた。

すると、つばをゴクリと飲んでから、教授は口を開く。

「世界が統合した後…私個人でもいろんな出来事があったのだが、幾日か過ぎたくらいに彼ら“ガシエルアカデミー”の人々と出会った。…伊達に考古学の教授をやってはいないが、偶然にも彼らの話す言語ことばを理解できた私は、自分の身分と状態について話した」

すると、教授の隣にいたジェンドという博士が口を開く。

「我々は、彼がレジェンディラスでも考古学や星命学に詳しい人物だと解リ、今後の対策についての助言ももらっていタノじゃ…」

「そして、我々が持つ“8人の異端者”の情報と…彼の知識を借りることで、君達が探していた“キタモラフ石”と、“ガジェイレル”の存在までたどり着いたんダ」

ジェンド博士の隣で、トキヤ博士が真剣な表情かおで話す。

「んー…じゃあ、結局の所、僕らに何をしてほしいの?」

食い入るような表情で、チェスはジェンド博士達を見つめる。

そんなチェスを見た彼らは、竜騎士ウォトレストを見るのが初めてだからなのか、目を丸くしていた。しかし、それをごまかすかのような咳払いをした後、ジェンド博士とトキヤ博士が、その場で立ちあがる。そして、ラスリア達に向かって深いお辞儀をする。

「え…?」

いきなり頭を下げた2人を見て、ラスリア達は困惑する。

「ぶしつけなお願いだが…君達に、“8人の異端者”討伐の手助けをしてもらいたイ…!我々はそれを頼みたくて、この村を訪れたのだ」

「ちょっ…」

「頼む…この通りダ…!」

ジェンド博士とトキヤ博士が、今にも土下座しそうな勢いで頭を下げている。

状況をいくらか察していたロレリア教授は、ラスリア達に低い声で耳打ちする。

「実は…ここにいるトキヤ博士のご子息が、先日“8人の異端者”の一人に殺されたらしい…。私は彼の話を聞いて、協力を決めたが…私からも、よろしく頼む…!」

「教授…!頭を上げてください…!」

博士二人のみならず、教授も頭を下げたため、イブールは困惑した表情を見せる。

 …何だか、胸が痛い…。なんだろう、この気持ちは…

ラスリアは、彼らを見つめながらふとそう思っていた。

その後、彼らの間で沈黙が続く。イブールやチェス達もどう返答すべきか迷って、考え込んでしまう。

「…一応訊いておくが、なぜ俺たちなんだ?」

最初に沈黙を破ったのは、普段は黙っていることの多いアレンだった。

その後、気まずそうな表情をしたものの、すぐに真剣な表情かおになったロレリア教授が話し出す。

「…こう言ってしまうのもなんだが…君達は、古代種キロや“ガジェイレル”、ウォトレストや悪魔といった特異な存在の集まりだ。そして…」

「成程、俺様たちの素性は、おおよそ把握しているってわけね…」

教授が語る中、ミュルザがボソッと呟く。

「そして、我々の最大の敵である“8人の異端者”達も、“異民族”という特異な存在の集団…。そのような者たちは、互いに惹かれあうと云われている。奴らがそうであるように、そういった者同士が力を合わせれば、強い力を発揮できるのでないか…と考えたのだ」

教授の返答を聞いたアレンは、その場で考え込む。

すると、彼の視線がラスリア達に向いてきた。

「もし、このまま…彼らの暴走を止められなかったら、世界は滅びてしまう…って事だよね?」

「…まぁ、俺様はぶっちゃけどちらでも良いが…。ラスリアちゃんは、どう思う?」

「えっ…!?」

ミュルザが横目で見つめながら、ラスリアに尋ねてくる。

 …彼は私の心を読めるはずだから、こうやって質問してこないと思っていたけど…

ラスリアは挙動不審になりながらも、その場で考え込む。

しかし、答えはすぐに決まっていた。このとき、ラスリアの脳裏には義理の姉シシュや、仲間達の姿が浮かんだからである。

「何が起こるかわからなくて怖い…という気持ちはあるの。でも、皆に出逢って…初めて“大事な存在ものを失いたくない”って思えるようになったの。だから…」

気がつくと、ラスリアの周りにいたイブール達が意を決したような表情かおで立っていた。

「そうね…。私自身の目的達成に向けて、少し気になることもあるし…いろんな事を把握できるのなら、彼らに同行してもいいと思うわ!」

「同感!」

イブールやチェス、そしてミュルザもしぶしぶ賛成し、アレン達はこの3人の学者と行動を共にすることを決意する。


          ※


 時同じ頃―――――――――――とある遺跡の内部でのこと。

「…蒼い光…?」

そう呟く男の周りには、“8人の異端者”の何人かがいた。

「タイドノル…それって、“ガジェイレル”であるあの青年が、その光を発していた…って事?」

「いや…違うぜ」

片手にキタモラフ石を持ったハデュスという男は、タイドノルという大剣を持った男に問う。

すると、彼は首を横に振るった。

「あの銀髪のガキを見つけた時、黒髪の小娘が一緒にいた。…あれは、そいつから発した光だったんだろうな…。それのおかげで、俺は“ガジェイレル”に触れることができなかったんだ」

「蒼い光を放つ娘…」

話を聞いていた髪の長い男は、その場で考え込む。

「そういえば…コルテラを倒したのも、あの青年の一味だってミトセが言っていましたよ」

「ジェルム…」

“異端者”達の会話の途中、闇から吸血鬼のジェルムが姿を現す。

「そうなんだ!…君に勝ったくらいなんだから、それもありかもねぇ…」

そう呟くハデュスは、横目で竜騎士のヴァリモナルザを見ていた。

ヴァリモナルザは、不機嫌そうな表情で黙り込んでいたが、長髪の男の表情を見て口を開く。

「アギト様…いかが致しましたか?」

彼女の黒い瞳は、長髪の男――――――アギトに向いていた。

「タイドノルの話が本当なら、もしや…」

ヴァリモナルザの問いに答えるかのようにして、アギトはボソッと呟く。

この男こそ、“8人の異端者”をまとめるリーダーであり、アレン達が後に巡り合う運命にある男なのであった―――――――――――

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