第12話 普通の第3部「最後の選択」5

あと4万字か・・・無事に終われるかな?



ここはポンジャ城。


「魔王モヤイの城に行くためには、奇跡の木材を森で木を切って見つけて、奇跡の橋を建てるか、激流の川の下流から遠回りしていくかだ。」


ポンジャ大臣が魔王モヤイの城に行くために方法を教えている。


「どうする? 」

「木材を見つけるのも大変だし、遠回りでも下流から回っていく方がいいでしょう。」

「そ、そ、そうしよう。」

「ああ~、自分の部屋に帰りたい。」

「僕も普通に遠回りするよ。」


ハチたちはレベル上げもそこそこに、見つかるか分からない奇跡の木材を探すより、確実に魔王モヤイの城に行ける、川の下流から遠回りしていくことにした。


「ハチさんたちは、ヨンが流された下流に向かうのか。」

「結局、橋が無くて渡れなくて引き返してきて、奇跡の木材を探すことになるはず・・・。」


邪悪なる闇。あれはいったいなんだったのだろう? コウとナーは嫌な予感しかしない。できれば下流に行かないで、森に奇跡の木材を探しに行って欲しかった。


「よし! 出発だ!」

「おお!」


ハチたちは、激流の川の下流から遠回りして、魔王モヤイの城を目指すことにした。


「僕たちも陰からついていこう。」

「ええ、そうね。」


コウたちもハチたちの後をついて行くことにした。果たして下流で何が待ち構えているのだろう。



激流の川の下流。


「橋がないな。」

「これでは向こう岸に渡る術がないですね。」

「だ、だ、騙された。」

「普通に泳いで渡れる川じゃないしね。」

「疲れた・・・引きこもりには長距離移動は疲れるわ。」


ハチたち5人の勇者候補生たちは、激流の川の下流に着いた。ポンジャ大臣は下流から遠回りして、魔王モヤイの城に行けると言っていたが、橋もなく船もなく、下流でも川の流れは速く、とても泳いで渡ることも無理であった。


「何も起こらないな。」

「ハチさんたちもお城に引き換えすみたいよ。」


後をついてきたコウとナーも何事もなく一安心していた。しかし、急に黒い雲が広がり、激しい雨が降り出してきた。


「闇色の雲!?」

「とりあえず雨宿りしましょう。」

「あ!? ハチさんたちは、あそこの洞窟で雨宿りするみたいだ。」

「あの洞窟・・・嫌な感じ・・・闇を感じるわ!?」

「何だって!?」

「追い駆けましょう!」

「おお!」


ハチたちが雨宿りをするために、下流の洞窟に入って行った。まるで闇に誘われるように。それを感じ取ったコウたちも洞窟の中に入ってしまう。



下流の洞窟の中。


「ハチさんたちを早く探そう!」

「洞窟に闇が広がっている!?」


洞窟の中に入ったコウとナー。洞窟の中は闇が広がっていた。陽の光が遮られている暗闇というのではなく、邪悪なる闇が広がっていた。肌がピリピリする感じである。


「何かいるな!?」

「そうね。いったい何がいるというの!?」


薄暗い洞窟。洞窟の中に川が流れている。激流の川とどこかで合流していそうだった。川の流れる音だけが洞窟に響いていた。


「ギャア!?」


その時、洞窟にハチたちの悲鳴が響き渡る。洞窟の奥の方から声が聞こえた。何かあったに違いない。


「ハチさんたちの声だ!?」

「行ってみましょう!」


コウたちは悲鳴の聞こえた方へ、駆け足で急行する。ハチたちはいったい何を見たのだろうか!?


「なんだ!? あれは!?」

「ヨンなの!?」


ハチたちの元に駆けつけたコウたちが見たものは、川の中に蔦が張り巡らされていて、その中にヨンの姿があった。


「どうして・・・溺れたのに・・・誰も助けてくれないの・・・僕は、僕はみんなのために・・・がんばっただけなのに・・・どうして・・・。」


もうヨンに意識があるとは思えなかった。水の中に横たわるヨンの体に蔦がまとわりついている。そして、ヨンと蔦を1つにするかのように闇が漂っている。


「あれはヨン!?」

「近づかないでください!? 危ないかもしれません!?」

「き、き、気持ち悪い!?」

「まるで蔦が生きている!?」

「なんなんだ!?」


ハチたちは川に浮かぶヨン。それを取り囲むように蠢く気持ち悪い蔦を見ている。ハチたちには闇の姿は見えていなかった。


(いでよ! 闇の騎士よ! 人間を殺せ!)


邪悪な声が走る。そして闇の稲妻と共に闇の騎士が現れる。闇の騎士は剣を抜き、ハチたちに襲い掛かかろうとする。


「なんだ!? あの騎士は!?」

「あの稲妻はジュウ!?」

「な、な、なんでこんなところに!?」

「真の勇者が真っ黒の鎧?」

「普通の勇者がいいな。」


ジュウ。勇者候補生の中に、勇者が混じっていた。レベルも高く稲妻を操り、きっとこの人が魔王モヤイを倒すと思われていた。


「ガガガ!」

「うわあ!?」

「どうしたんだ!? 勇者が襲ってきた!?」

「逃げろ! ダメージを受けたら死んじまうぞ!?」


いきなりジュウがハチたちに襲い掛かってきた。ハチたちは散開して、なんとか避けるが、なぜ勇者ジュウが攻撃してきたのか分からない。ジュウはレインボースライムを1撃で倒す強さだった。


「・・・逃げろ。」

「え!?」

「ここから逃げろ! ひよっこたち!」

「ジュウ!?」

「おい!? どうしたんだよ!?」


ジュウは何者かの意志に争い言葉を発する。しかし、ハチたちは逃げろと言われても言葉の意味が分からない。


「俺は誰かに操られている。」

「誰か!?」

「何言ってるんだよ!?」

「俺の意志が完全に無くなったら、ひよっこたちを殺してしまう。」

「意志がなくなる!? どういうことですか!?」

「ジュウ!? 聞いているのか!?」


さすが勇者ジュウ。自分の意志が消えてしまいそうなことも理解していた。そして、自分の意志通りに行動しないジュウにイラつく、闇。


(まだ私に歯向かうか!? 勇者よ!?)


邪悪なる闇が、さらに闇の力を増大させ、ジュウの意志を支配していこうとする。ジュウも勇者としての強い精神力で抵抗を試みるが、ヨンの闇も手に入れた闇の力の方が強かった。


「ガガガ!?」


ジュウの体から膨大な量の闇が溢れる。もうジュウの体にジュウの意識はなくなってしまった。ここにいるのは邪悪なる闇の手先の闇の騎士でしかない。


「ジュウ!?」

「逃げよう! あれはもうジュウじゃない! 私たちではジュウには勝てない! レベル差があり過ぎるんだ!」

「に、に、逃げるの賛成!」

「帰ったら真面目に鍛えて、レベルアップしたら、ここにまた来よう!」

「今は、逃げよう!」


ハチたちは必死に洞窟の入り口に向けて走り出した。闇の騎士はハチたちを追いかける。


「僕が闇の騎士を食い止める! ナーはヨンを闇の中から助け出して!」

「わかった! やってみる!」


コウとナーも、この洞窟での出来事を見ていて、戸惑うばかりであった。それでも、今は自分たちのできることをやろうとする。


「待て! 僕が普通に相手だ!」


コウは、ハチたちと闇の騎士の間に割って入る。運命通りにハチたちは洞窟の外に脱出できたようだ。


「ガガガ。」


コウと闇の騎士が対峙する。コウも剣を構え、突撃してくる闇の騎士と剣を打ち合う。


「つ、強い!?」

「ガガガ!」


闇に堕ちたとはいえ、元勇者。ジュウは闇をまとい、さらに強くなっていた。コウも今までに多くの強敵と戦ってきた。決して剣の腕では引けを取らなかった。


「聖なる五芒星と闇の五芒星よ、1つに交わり全てを消し去れ!」


コウは必殺の1撃を放つ準備をする。しかし、闇の騎士も必殺の闇の稲妻を剣に宿す。両者が互いに必殺技を繰り出そうとした。


「ガガガ!?」

「ん!?」


闇の騎士の動きが一瞬止まる。コウの何かを見て、一瞬だが自我に何かが触れたのかもしれない。コウも違和感を感じるが、そのまま必殺技を放つ。


「ホーリー&ダーク!!!」

「ガガガ!?」


コウの必殺の1撃が闇の騎士に炸裂する。闇の騎士は吹きとばされ地面に倒れる。闇の騎士の闇が消え、中からジュウの姿が現れる。


「なぜだ!? なぜ戦いの最中でためらいを!?」


コウはジュウに近寄り、自分の感じた違和感の理由を訪ねる。ジュウはコウに最後の力を振り絞って語る。


「その剣は・・・どうした?」

「剣?」


コウの剣は伝説の勇者ハチの剣である。元々はジュウの持ち物だった。紆余曲折を経て、ジュウからハチへ、ハチからハチハチへ、ハチハチからコウへ引き継がれていた。


「その剣は俺の剣なんだ、俺が城のバルコニーに突き刺したんだ。」

「この剣はもらったんだ。父親の形見だ。」

「そうか。俺は死んでも、俺の剣は残るんだな。よかった・・・。」


そう言うとジュウの姿は闇になり消えていった。自分の生きていた証、自分の剣が伝説の剣となるのなら、勇者として何も言うことはなかった。満足そうな表情でこの世から去って行った。


一方、その頃のナー。


「やってみるとは言ったものの、こんな闇の蔦から、どうやってヨンを助け出せばいいのかしら?」


川に浮かぶヨン。水面から生えている動く蔦。そして辺りに漂う闇。何をどうすればいいのか分からないので、ナーはとりあえず、ヨンを次元に飛ばし助け出そうとした。


「いでよ! 次元の入り・・・キャア!?」


ナーは額に第3の瞳を出し、次元の入り口を発生させようとした。しかし邪魔するかのように蔦が伸びてきてナーを襲う。


(邪魔はさせんぞ! この闇を抱えた人間は私のモノだ!)

「誰!?」

(私は闇。人間の心が生み出したものだ。)

「闇!? 人間の心が生み出したもの!?」


初めて闇と会話する。ナーの知っている闇は、邪悪なる者ヨヨヨヨヨン。闇の蔦で世界を覆いつくし、陽の光を大地に降り注がなくした。陽の光の当たらない人間は息絶えていくしかなかった。


「ヨンを放しなさい!」

(嫌だね。この人間の闇は、純粋で強い。夢と希望に憧れていた。そんな強い光の心が闇に堕ちたのだ。やがて、この男の心の闇は世界中を覆いつくすだろう。ワッハッハ!)


これが邪悪なる者ヨヨヨヨヨンの正体である。ヨンの心は闇に囚われ、闇に呑み込まれた。ヨンの心の闇が世界を滅ぼす。


(おまえたち人間が悪いのだ。)

「人間が!?」

(この男に優しく接して仲良くしていれば、この男は闇に堕ちることはなかった。復讐や仕返しを受けても文句は言えないのだよ! ワッハッハ!)


いじめ、無視、暴力、その結果が人の心に闇を生み出してしまった。闇の意見を聞いていてナーは違和感を感じる。


「なんだろ? 闇と会話しているのに・・・まるで人間と話しているみたい。」


闇なのに、邪悪なる者ヨヨヨヨヨンになって、世界を滅ぼすはずなのに、闇と会話したナーは闇に感情があるように感じた。


「ナー! 大丈夫か!」

「コウ!」


そこに闇の騎士を倒したコウが戻って来た。ナーが心配だったのだろう。コウは息を切らしながら全力で駆けてきた。


「なんなんだ!? この闇は!?」

「この闇、少しおかしいのよ? 闇のくせに感情があるのよ!?」

「感情!?」

「あ!? ヨンが!?」


コウも闇に感情があると聞いて不思議に思う。コウたちの会話が聞こえたのかは分からないが、ヨンと蔦が闇の中に消えようとする。


(これから闇の中で長い眠りにつき、闇を増大し続けよう。今度、目覚めた時は世界を我が闇の蔦で覆いつくしてくれる。)

「そうはさせるか! ホーリー&ダークを打ち込んでやる!」

(残念。もう手遅れだ。さらばだ! ワッハッハ!)


そういうとヨンと蔦は闇に呑み込まれて消えてしまった。約100年後。今度、目覚める時はハチハチの生きていた世界であった。


「くそ!? 逃げられた!?」

「運命を変えることはできないの!?」


運命を変えるために、この伝説の勇者ハチの世界にやって来たコウとナー。しかし、得体の知れない闇の出現のために、ヨンを助けることができなかった。


「なんだ!? 地震!?」

「なに!? 洞窟が崩れる!?」

「急いで洞窟の外に出よう!?」


洞窟に張り巡らされていた蔦が無くなって地盤が緩くなった洞窟が大きな音を立てながら崩れてきた。コウとナーは洞窟の出口に駆けていく。


「セーフ! 危機一髪だ!」

「助かったわ! もう! いったい何なのよ!?」


洞窟が崩れて入り口を大きな岩や土砂が塞いだ。もう少しで洞窟に生き埋めになるところだった。洞窟はなくなってしまったが、実に不愉快な経験をした2人だった。


「この世界に運命を変えに来たのに、普通にとんだ無駄足だったな。」

「そうでもないわよ。」

「え!? どういうこと?」

「私たちは世界を闇の蔦で多い、人類を抹殺するモノを、邪悪なる者ヨヨヨヨヨンだから、ヨンだと思っていた。それなのに、この世界のヨンは、内気で気弱な成人男子だった。」

「あ!? そういうことか!?」

「闇。世界を滅ぼしてしまうモノは、さっきの感情のある闇よ! ヨンは闇の増幅装置でしかないわ! 私たちは、あの闇の正体を知る必要があるわ!」

「そうか! 闇の正体が分かれば、時をかけてやみが生まれないようにすればいいんだ!」

「そういうこと!」


コウとナーは新しい自分たちがしなければいけないことを見つけた。世界を守るために。運命を変えるために。


つづく。

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