35.「ダマシを見破れ」

——「移動平均線」っていうのは、トレンドを探るのに使うってのは前にも言ったけど、じゃ、実際にどこで入ればいいのかを「ローソク足」と絡めて探し出す方法を教えるね


——うん。なんか秘策っていうか、伝家の宝刀っぽいな

——こんなの誰でも知ってるよッ。基礎中の基礎だっつの

——げ。誰でも知ってるんだったら、逆に使い物にならないんじゃないの?

——ところが、そうでもないんだ。こういう基礎的なことをすっ飛ばしてテクニックに走ったり、解析ソフトを使ったりして右往左往してると、自分の投資スタンスっていうか、軸みたいなんが出来ないんだよ


——ふぅーん、そういうもんか


 僕は、はっきり言ってFXはもちろん株もやったことがなかったので、素直にモモコ先生の言うことを聞けるのかもしれない——基礎が大事だって、ことを。


——今、「移送平均線」が右上に向かって伸びてるでしょ、ほら、こんな感じで


 そう言って、モモコはチャート図を見せてくらた。


——で、この「移動平均線」の傾きからして、今の相場はどういう状況かわかるな?

——うん、たぶん「上げ」の状態なんだと思う

——そうだな。この時、「ローソク」足の位置を見てみろ、全部、「移送平均線」の上にあるだろ? こういう時は「上げ」のトレンドが出ていて、安心して「買い」に入れるんだ。けど、それは厳密に言えばもう遅いんだけどね


——遅い?

——うん、確かに「上げ」のトレンドには入っているけど、「途中」なんだよ。だからいつ下げだすかわからない。投資は一番の「底」で買って山の天辺で「売る」のが一番だって、言っただろ?


——あぁーっそっか。今はもう大分上がっちゃってるわけね

——そうだ だから、「分岐」になる地点を探すんだ。「移動平均線」と「ローソク足」を使ってな


 モモコはマグカップのコーヒーを一口啜って、さらに続けた


——「ローソク足」が「移動平均線」を下から上に突き上げた後、一本か二本、「ローソク足」が確定したとこで「買い」に入るんだ。それが投資タイミングだ


 僕は、ノートに簡単な絵図を書きモモコの言うことをそのまま書き残した。


——じゃ、今度は「売り」の場合はどうか

——それは……「移動平均線」を「ローソク足」が上から下に突き抜けた後の一本か二本の「ローソク足」が確定したところ……かな?


——やっぱ、頭のいい奴は違うなッ。飲み込みが早いぞッ、テツヤ

——でへへ


 僕は、「売り」タイミングも同じように圖解付きでノートに書き込んだ。


——完璧じゃん! こんだけでいいの? 

——ただし、だッ。そうは簡単じゃないのが投資の世界だ

——え、これじゃダメなん?

——ん。みんな同じこと考えてるんだよ。だからそれを逆手にとってプロは騙しを入れてくるんだ

——騙し? ああ、僕、ダマシに弱いからなー

——そのダマシを見破れて初めて、勝ちが見えて来るんよッ



 世の中ってのは、どこでも騙し、騙され——なんだなと、僕はちょっと気持ちが暗くなったけど、それが普通のことだと思えるようにもなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る