24.「モモコの一目惚れ」

——ほら、丸太町通りにさ、おっきな歩道橋架かってんじゃん

——ああ、大学の北門出て、左をずーっと行ったとこのね

——ん、あそこでさ、見たんだよッ、テツヤがアレしてるとこ……


 僕は、スプーン片手に空目で思い起こしてみるけど、アソコで、はまさかしないし、はやっぱり、部屋でコソコソ、シコシコするもんだし……とか、そんな破廉恥な映像しか思い浮かんでこなかったんだ。


——ってか……、アレ、って……なに? 本当に僕、歩道橋の上でアレやってたの?


——ん、めちゃくちゃ、かっこよかったよッ


 (え”。アレが、かっこいい? そんなにアクロバティックにしてたのか? )


——だから、なに。って!

——おんぶ

——おんぶーっ!? おんぶ、って、あの おんぶ?

——そだよッ おんぶは、おんぶしかねーだろッ。シコシコする、おんぶなんかねーぞッ きゃっ、わたしったらッ いやぁーだッ!


 モモコが照れている——。いまだかつて、モモコが照れるなどといった乙女チックなことするの見たことなかったんで、僕はぽかーん、と口をあんぐりさせてた。


——足腰の弱そうなお婆ちゃんを、こっちから、向こうまでおんぶして歩道橋渡らせてあげたでしょッ。一部始終ずっと見てたんだよ、わたし

——ああぁー

 

 そう言えば、三回生の春頃だったか、そんなことをしたのを思い出した。あの時はお婆ちゃんが、歩道橋の階段を見上げてずっと逡巡してたもんで、つい声を掛けちゃったんだよね

(よかったら、どうぞっ)——だったかな。


——テツヤったら、恐縮して固まってるお婆ちゃんの前で、しゃがんでさ、こうやって、ほら、両手後ろにやって……


——げぇー、見てたの、アレを うわっ、こっぱずかしいよーっ!

——なに言ってんだよ、わたしはあの時のテツヤが笑顔がねッ——なんだろ、口元で白い歯がキランって光っててさ、もうアレで、テツヤに恋に落ちちゃったんだよッ


——そ、そうなの?

——ん、こんなにも優しい人居るんだー、この世の中に……みたいな。ビビーって体に電気が走ったよッ この人だッ!、この人をカレシにしたいッ! って

——ふぅーん。まぁー、モモコらしいっちゃ、モモコらしいけど……

——で、そのあとさ、こっそりテツヤのこと付けて行ったんだよ、大学まで

——うわっ、それ怖っ! ストーカじゃんっ! 

——あ”? なんだとッ? わたしの、だッ、健気な乙女心をストーカとかと一緒にするのかッ!? あ”?


 モモコが中腰になりかけたんで、僕は身の危険を感じ慌てて顔の前でブンブンと手の平を振った。


——いえいえ、滅相もないっ! なんと健気な乙女心だことー……

——だろッ? だろッ? やってて自分で痺れちゃたよ。一目で恋に堕ちた可愛い健気な女……みたいにさッ ちょこちょこと、テツヤの後を付けてまわったんだぜ? えらくねッ? わたし


——はいはい、えらい、デス

——はい、は一回でいいぞッ、テツヤ

——は・い……


 その後、延々とモモコのを聞かされたわけです——。

端折って言いますとね、女子大の友達のカレシが僕と同じ経済学部だったんで、写メを見せて、僕の素性を調べてもらったんだって——そう、僕にはずっとカノジョが居ないこともね。


(高二の時に、こっぴどくフラれてから、正直、女のコはもういいや、って思ってんですけどね……)


 けど——、なんだか嬉しかったんですよ。モモコが僕のどこが良くてカレシにしたんだろって、ずーっと不思議だったんで。


 えへ、おれって、カッコいいのかな——とか、ちょっとニヤニヤしちゃったよ。

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