47

 そして、冬夜の予想通りにその人物はチャンネル切り替えですっ飛んできた。

「トウヤー! あの剣、当たったってほんと!? 見せて、見せて!」

 帽子を被っていない。珍しく魔導士ルックではなく、コラボ衣装を着たサブマスたっくんが駆けてくるのが見えた。小学生が着るには似つかわしくない、肩の出たぴっちり系の衣装だ。筋肉質なアイドルが着ていた分には格好いい衣装が、小学生のサブマスが着ると妙な具合だった。

「珍しいね、たっくんさんがローブ以外の着てる。」

「ああ、気にしないでいいよ、売り物だからコレ。」

「コラボ衣装って売れましたっけ?」

「売れるようになったんだよ、昨日のメンテで新機能追加されたでしょ?」

 知らなかった二人が顔を見合わせた。以前から出ていた要望が新機能として実装されたらしい。金持ちのうちにはキャラを二体以上持つプレイヤーも多く、課金のアイテムを行き来させたり、不要のアイテムを売り払いたいという要望がかなり強く出ていたのだ。

「それより、剣、剣! 見せて! 観たことないんだよー、俺。」

「いいですよ、はい、これ。」

 冬夜は手にした剣を掲げて見せた。

「約束通り、たっくんさんに。」

「え? いいの? ほんとに? ……いや、でも悪いよ、やっぱり。ログの会話からして、最後の1個から出たんだろ? 金なんて幾らでも貯めようと思えば貯められるけど、こういう、物質ってものは一期一会だと思うんだよね、大事にしないと。……ほんとにいいの?」

 大人らしい思慮は見せたが、そこはやはり本気で欲しいものらしく最後はなし崩しだ。冬夜は苦笑を浮かべてサブマスの手に剣を握らせた。

「いいんです。俺が持ってても宝の持ち腐れ、どうせ弓師から転向する気はないからアキラの言う通り、良くて銀行の肥しになってるだけですから。それより金に換えて装備を充実した方がナンボか得ですよ。」

「トウヤ……。あ、そだ。この服、要らない? もちろん、約束の50Mも付けるし。」

「それじゃ多くなりすぎでしょ、いいですよ、金だけで。」

「いやいや、相場がものすごい上がってんだよ、今。120Mまで吊り上ってんの。知らない? だからさ、釣り合わないから、これも貰ってよ。スキルもサポート向けだし、売りの相場は大した値じゃないんだけど、トウヤにはお役立ちだと思うし!」

 なによりコラボ衣装には盗られることがないという最大の特典が付く。地面に落ちても他人は拾えないのだ。ぐらりと揺れたところを見計らったように贈り物を知らせる通知が出た。サブマスからだ。贈り物の欄には衣装を示すアイコンが灯っている。

「こっちこそ、ほんとにですよ! ほんとにいいんですか? これ、リアルで2000ポイント収支でしょ? 現金と同じですよ、バーチャルポイントじゃないすか!」

「細かい事はいいってことよー。それより、コレありがとねー。わーい、伝説の剣だー。」

 たっくんはいつものローブ姿に早変わりして、周囲を駆けまわりながらプレミアムアイテムを自慢げに振り回している。後ろを追っている冬夜の言葉は聞こえちゃいないようだった。


 突然、たっくんがくるりと回って立ち止まった。

「よぉし! トウヤには特別に上級者ご用達の裏ワザを伝授しちゃおう!」

「え!?」

 あやうくぶつかりかけながら、冬夜もサブマスの直前で止まった。

「新人さんに教えても覚え切れないんだけど、トウヤは根性もあるし勘も良いから何とかなるでしょ。」

「裏ワザって、弓師の裏ワザですか? 俺、だいたいは研究してるつもりなんだけど、」

「もっとシンプルなのだよー。シリンダーの派生技で、弓師も使えるヤツがあるんだ。Wikiには載ってないんだよ、あんまり使ってるヤツが居ないからね。」

 初耳だった。だいたいの技は、裏ワザでも正規でもWikiに載らないものはないと思っていた冬夜だ。

「それに使用方法も限られてるしー。ダンジョンのショートカット用に限定って言ってもいいよ。けど、トウヤはそろそろ次あたりで塔にショバ替えするでしょ? 塔のフィールドには超便利なんだよー。」

 タワーと呼ばれる新規のフィールドは、要望を受けてソロでも攻略可能なダンジョンとなっていた。多くのダンジョンが多人数での攻略を念頭に作られているせいで、気軽さに欠けることは以前から指摘されていた。いちいちパーティ募集を行わねばならず、人付き合いが都度に発生するのは煩わしい事だ。冬夜もアキラと組んで攻略に当たっているが、大人数を想定したダンジョンは時間と労力を求められて甚だ非効率だった。

「塔って、あの、海の真ん中にでーんと建ってるアレ?」

 アキラが問いかけた。

「そそ。レベル50から攻略可能になるよ。二人の実力ならパーティ募集掛けなくても、ソロでも行ける。」

「ボスは無理でしょ、まだ。あそこのボス、全体魔法掛けてくるセイレーンじゃない。ソロじゃ倒せないでしょ? ねぇ、トウヤ。」

 冬夜も頷き同意した。冬夜の知る限りあのボスは、レベル50や100のプレイヤーではそれこそ束になって掛かっても勝てないはずだ。通常は上級者を交えての8人パーティが多く、実情を考慮したゲームバランスになっている。

「そうだよ。だから普通はボス部屋の前で皆引き返すよね。で、えっちらおっちら塔を降りてくわけだけど、この裏ワザはそういう帰り道の煩わしさをショートカットしちゃうって事だよ。」

「解散でチャンネル変更掛けたら一発で済むじゃん。」

「それだと経験値半減されちゃうんだよ、ペナルティで。」

 ボス倒してないでしょ。たっくんが笑いながら念押しに言った。

「死に戻りだと丸々貰える代わりに復活アイテム必須になるし、塔を降りるのも面倒だってんで利用されるようになった技なんだよ。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る