天使

 これはいつか映画で見た風景だったろうか。

 壊れた風車が時折風に吹かれて回っている。赤茶けた土地に舞い上がる砂埃。ぼんやり霞む太陽。朽ち果てた家。


 老いぼれた天使が檻の隅で汚れてボロボロになった翼を小さくたたみ、おびえた目で僕を見ている。震える唇が何かを言っているようだが、僕の耳には届かない。僕に聞こえてるのは苛立ちを集約したようなノイズと、自身の不均等な鼓動だけ。檻にかかる錆びついた南京錠に触れると、それは形が無くなるほどに崩れて風に流された。老いぼれた天使は崩れ去った鍵の行方を窪んだ目で追いかけ、天を仰いで泣いた。僕は風車の回る音を思い出そうとして、何故だか絶望した。


 気付くと老いぼれた天使は屋根の上から何かを叫んでいる。あそこから落ちて死ぬのだと僕は思った。けれども、老いぼれた天使はボロボロの翼で飛び立ち、僕の頭上で輪を描いてから、赤茶けた山の向こうに消えた。相変わらず僕に聞こえてるのはノイズと鼓動。そこに痛みが加わった。


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