第3話ユダヤ人と神

「あっちの檻にはユダヤ人がいますね。飼育員は豚です。

あっ今なんで豚なのかって質問がありましたね。それはユダヤ人が『宗教』という人間独自の信仰の一種を持っており、そのルールの中に豚を食べないルールがあるのです。だからもし飼育員が襲われても他の動物に比べると安全なのかもしれませんね」


「彼らは古来より他の人種と比べてもかなり厳重に、丁重な扱いでこの人物園で飼育されてきました。それはなぜか?彼らは大昔、大規模な人種差別を受け、同じ人間であるドイツ人に大量虐殺された過去があるからです。大勢のユダヤ人が強制収容所で人間特有の毒ガスという化学兵器で苦しみのうちに殺されました」


「しかし私たち動物も争いはします。わが種の存続のために、ある種族を絶滅させたことだってあります。だからこそある部分においては他人ごとではないのですが・・・ともかくそういった人種差別や毒ガスといった人間的理不尽から彼らを保護する。それは私たちの動物道的な使命なのです。お分かりいただけますでしょうか?」


 素晴らしい理念だ、と賛同するかのように20匹分の拍手が沸いた。私も儀礼的に一応拍手した。

しかしどうして人間の話というのは、こうもいちいち疑問が残るのだろう?


 宗教?毒ガス?我々動物には理解に苦しむ言葉のはずだ。宗教というのは噂で聞く「神」とやらを崇める行為なのだろう。しかしなぜ豚だけを食べてはいけないのだ?そもそも神とはどこにいるのだ?このような保護飼育下にあっても神の教えは絶対なのか?


 誰か私と同じ疑問を抱く動物はいないのだろうか?


 私がそのようなことを考えている間に、フクロウは賛同の拍手を受けて満足そうに恭しく頭を下げた。そして次の檻へと私たちを少し奥まった場所へ案内していった。

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