5 麗華、電話をかける


 赤沼麗華は、重五郎と執事稲山が何かを隠そうとしていることに感づいていた。そして、それが一年前に自殺という形で処理された姉の琴音の死に関するものであると直感的に感じていた。

 麗華は、自室のベッドの上に転がって、今まで起こったことの数々を思い返していた。

 一年前の正月に起こった姉、琴音のバルコニーからの首吊り自殺。その時、この山奥の赤沼家の本邸には、一族の者がほとんど集まっていた。何が、彼女を自殺に追いつめたのか、その当初には誰も思い当たる節がなく、また遺書も見つからなかった。

 しかし、後々になって、琴音の死をめぐってある説が浮上し、赤沼家の兄弟関係を分断することとなったのであるが、そのことについては今は述べることは控える。

 名家の育ちで会社も興した資産家、赤沼重五郎のスキャンダルだとして、テレビや新聞では、さまざまな憶測が飛び交った。その頃、この本邸には、殺人予告や誹謗中傷の投書が届いたことも麗華は覚えている。

 一時は、テレビにも出演していて、よく毒舌を吐いていた重五郎である。敵は多かった。ただこのような投書は、結局何も実行されなかった。重五郎も堂々と対応していた。

(また、なにか変な投書が舞い込んだんじゃないかしら……?)

 そんな風にも思えたけど、すぐにそれは違うと思った。だとしたら、わたしたちに隠す必要がない。でも、もし心配かけたくないと思っていたとしたら……? それでも、そんなことで、ここまで調子を崩すのはお父さんらしくない、と麗華はやはり腑に落ちなかった。

 麗華は、そうだ、と思った。自分だけでずっと考えているのも良くない。あの探偵に相談してみよう、とベッドから起きて、座り直した。

 そして、ある探偵事務所に電話をかけた。

「すみません、以前お世話になった赤沼ですが……」

 麗華は、小声でそう言った。

「はい、そうです。お久しぶりです。はい。こちらこそ。そんなもったいないです。ありがとうございます。いえ、そんなことよりも、父のことで相談がありまして……」

 麗華は少し顔を赤らめて、話を本題に引き戻しているようである。

「あの、探偵さん、いらっしゃいますか?」

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